一時的な休息
「これで一先ず……かなりの時間は稼げたはずね」
メイヤは出城の櫓から戦場跡を見下ろし、静かに息を吐いた。
敵の百名部隊は潰走し、残った者も散り散りに逃げ去っている。
「出城の外に出していた味方を、全員引き上げて! 負傷者を優先、次に休息と食事を!」
号令が飛ぶと、張り詰めていた空気がわずかに緩んだ。
兵たちは素早く動きながらも、どこか安堵の表情を浮かべている。
「よく耐えたな……」
機構隊長はそう言いながら、腰を下ろして水を一口飲んだ。
「敵は混乱している。だが、完全に折れたわけじゃない」
「ええ」
メイヤは頷いた。
「問題は次。敵の司令官次第ね」
出城の中では、炊き出しが始まり、簡素だが温かい食事が配られていく。
兵たちは黙々と食べ、短い休息を取っていた。
「再編して、もう一度こちらに来るか……」
機構隊長が呟く。
「それとも、ここを諦めて王都方面に向かうか」
「……恐らく前者ね」
メイヤの声には、迷いがなかった。
「百名を失って、引き下がれる指揮官なら、最初からこんな賭けはしないわ」
彼女は地図の上に指を置いた。
「ここで引けば、威信が崩れる。だから来る。もっと大きな部隊で」
「つまり……次が本番、か」
「ええ。でも」
メイヤは小さく笑った。
「時間は、こちらの味方よ」
敵は混乱し、疑心暗鬼に陥り、後方も揺らいでいる。
こちらは休み、備え、次の一手を選べる。
静かな出城の中で、束の間の休息が流れていく。
それは、次に来る本当の衝突の前の、貴重な静寂だった。




