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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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「百名部隊」の異変に気づく

異変は、報告の“間”として現れた。


「……次の連絡は?」


反乱軍の本陣。百名部隊を送り出した指揮官は、地図の上に指を置いたまま、顔も上げずに問うた。


「は。予定では、第一接触の報告が既に入っているはずですが……」


「はず、か」


低い声が、天幕の空気を重くする。


百名。斥候潰しではなく、威圧と制圧を兼ねた部隊だ。前進し、出城の様子を見て、可能なら叩く。最低でも規模と配置を把握して戻る。それだけでいい。そういう任務だった。


「遅いな」


指揮官はようやく顔を上げた。


「森を抜ければ見える距離だ。迷う理由がない」


「……伝令を一人、前に出しますか?」


「いや、待て」


即答だった。


「小細工をしてくる相手だ。下手に細く出すな」


言い切った直後、天幕の外がざわついた。


「戻りました!」


駆け込んできたのは、泥だらけの兵だった。息が荒い。装備は揃っているが、表情が明らかにおかしい。


「報告しろ」


「は……百名部隊ですが……」


一瞬、兵の言葉が詰まる。


「どうした?」


「……分断されています」


天幕内が静まり返った。


「何?」


「前進中、森際で奇妙な動きがあり……藁人形の群れを見たと報告が……」


「藁?」


指揮官の眉が動く。


「最初は欺瞞だと判断しました。ですが、出城方向から角笛が鳴り、兵影が……」


「何人だ」


「……分かりません。多い、としか」


報告兵は唇を噛んだ。


「それで?」


「警戒を強めた直後、左右と後方で同時に騒ぎが起きました。草むらから矢が……クロスボウです」


「馬鹿な。平民の寄せ集めが、連携射を?」


「はい……しかも、狙いが正確で……」


指揮官は舌打ちした。


「で、百名は?」


「……前衛と中央が止まり、後衛が押し出される形で混乱し……隊が割れました」


「撤退命令は?」


「出ました。ですが……」


兵は一瞬、視線を逸らした。


「ですが?」


「撤退路に、いつの間にか……柵が」


「柵だと?」


「仮設の木柵です。簡易ですが、突破に手間取りました。その間に……」


「……包囲、か」


指揮官が呟いた。


沈黙が落ちる。


「現在の損害は?」


「死者は……まだ確認できていません」


「ほう」


わずかに、安堵とも取れる声。


「ですが」


兵は続けた。


「捕縛された者が多数。殴打され、装備を奪われ……」


「……また、か」


「はい。下着一枚で返された者も」


天幕の中に、重苦しい沈黙が広がった。


「百名だぞ」


指揮官は、低く言った。


「百名で、威圧するはずだった」


「……はい」


「それが、出城に触れる前に、割られた、だと?」


誰も答えない。


「……相手は、守りではないな」


指揮官は、ゆっくりと立ち上がった。


「誘っている」


地図を見下ろし、指で百名部隊の進路をなぞる。


「出城を見せ、数を見せ、こちらの動きを測り……森で削る」


その指が止まった。


「そして、殺さない」


誰かが息を呑んだ。


「殺さず、返す。恥と恐怖だけを持たせてな」


指揮官は歯を鳴らした。


「……男爵領、だったな?」


「は、はい」


「違う」


彼は吐き捨てる。


「これはもう、ただの弱小ではない」


天幕の外で、風が鳴った。


「百名で駄目なら……次は、もっと大きく動かねばならん」


その判断が、さらに深い沼への一歩だと気づく者は、まだいなかった。

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