報告が追いつかない
反乱軍本陣は、騒然としていた。
「まだ来ないのか!?偵察隊の報告は!」
地図の前に立つ将校が怒鳴る。
「は……現在、連絡が取れていない部隊が三つ……いえ、四つです」
「四つ!?たかだか男爵領の周辺偵察だぞ!」
苛立ちが隠しきれない声が天幕に響く。
「戻ってきた者は?」
「……二名、確認しました」
「二名?」
「はい。負傷し、装備を失い……その……例の状態で」
「またか……」
将校は額を押さえた。
「同じ事が続きすぎだ。偶然ではない」
「ですが……敵兵力は少数と見積もられています。こちらの百名部隊も、予定通り進軍を――」
「待て」
別の参謀が口を挟む。
「後方からの報告が遅れています」
「後方?」
「はい。武器庫付近で火災。食糧庫周辺でも騒ぎが起きているとのことです」
「火災だと?」
「原因不明。目撃者の証言が食い違っており……」
「何をしている!鎮火と同時に原因を調べろ!」
「それが……」
参謀は言葉を濁した。
「兵が戻り始めています。自分の持ち場を離れ、家族や財産を確認しに――」
「勝手に!?」
「はい……噂が広がっており、『街が危ない』と」
地図の上に引かれた赤い線が、次々と意味を失っていく。
「……報告が、追いついていない」
将校は、ようやく異変を認識し始めた。
「前線、後方、街……どこが本当の問題だ?」
「現時点では……判別不能です」
「……ふざけるな」
彼は歯を食いしばった。
「男爵領を叩くはずだった。王都への道を開くはずだった。それが、なぜこちらが揺さぶられている?」
誰も答えられない。
その時、伝令が駆け込んできた。
「報告!百名直轄部隊、進軍が遅れています!」
「理由は!?」
「進路周辺で不審な動きが多く……敵兵が“多く見える”とのことです!」
「多く“見える”?」
「はい……数は不明ですが、陣地が拡張されているように見えると……」
将校は、思わず笑いそうになった。
「……見える、か」
彼は理解していなかった。
それが「錯覚」ではなく、「意図された演出」だということを。
「構わん。予定通り進め」
将校は言い切った。
「多少の混乱など、数で押し潰せ」
だが、その声には、先ほどまでの余裕はなかった。
報告は遅れ、情報は錯綜し、判断は後手に回る。
そして敵は、まだ一度も「本気で姿を現していない」。
それに気づいた時には――
すでに、最初に崩れるものは決まっていた。




