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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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最初に崩れるもの

反乱軍の陣地では、百名規模の部隊編成が急ピッチで進められていた。


「指揮官直轄だ!余計な命令系統は挟むな!」


怒号が飛び、兵たちは慌ただしく装備を整える。だが、その動きにはどこか雑さがあった。寄せ集め。即席。経験も練度もまちまちの兵を、数だけで束ねた部隊。


それでも指揮官は満足そうだった。


「これだけいれば十分だ。偵察だの包囲だの、小賢しい真似は不要。正面から叩き潰す」


そう言い切る声には、自身の武威への絶対的な信頼が滲んでいた。


だが、部下の一人が躊躇いがちに口を開く。


「……しかし、これまで戻ってきた者達は」


「下着一枚で逃げ帰った腰抜け共の話か?」


一蹴だった。


「殴られた?奪われた?それが何だ。奇襲に慣れていないだけだろう」


その場で、それ以上の意見は封じられた。


反乱軍は知らない。いや、知ろうとしなかった。


戻ってきた斥候の中に、笑っていた者が一人もいなかった事を。


恐怖ではない。困惑と、理解不能な現実を前にした、あの沈黙を。


一方、その頃。


メイヤは出城の簡易指揮所で、機構隊長からの報告を聞いていた。


「来るな」


「ええ。しかも今回は、まとめて百名規模」


「舐めてるな」


機構隊長は肩をすくめる。


「真正面から踏み潰せば終わる、って腹だろう」


メイヤは地図に視線を落とした。


「……最初に崩れるのは、兵じゃないわ」


「ほう?」


「連携。認識。『想定』よ」


メイヤは淡々と言う。


「相手は、私たちを『弱小男爵領』としてしか見ていない。だから百名。だから直轄。だから正面」


指で地図をなぞる。


「逆に言えば、そこを崩せばいい」


「具体的には?」


「まず混乱。次に疑心。そして恐怖」


機構隊長は、ふっと笑った。


「随分と順序立ててるな」


「戦は感情で始まるけど、崩れるのは理屈よ」


その時、伝令が駆け込んできた。


「敵先遣、動き出しました!」


メイヤは顔を上げる。


「予定通りね」


外では、藁人形が風に揺れていた。数を誇示するための、虚像。


だが、それを見た敵がどう受け取るかは、こちらの想定の範囲内だった。


再び敵側。


百名の部隊は、鬨の声もなく進軍を開始した。


「拍子抜けだな」


誰かが呟く。


「城どころか、見張り小屋しか見えんぞ」


別の兵が笑った。


だが、その時だった。


草むらが、不自然に揺れた。


「……?」


次の瞬間、背後で短い悲鳴が上がる。


振り返った兵が見たのは、倒れ伏す仲間と、どこからともなく飛んできた投擲物。


「伏せろ!」


叫びが遅れた。


包囲は、すでに始まっていた。


そして指揮官は、その異変を「偶然」だと判断した。


「慌てるな!たかが数名だ!」


命令は出た。だが、伝わらなかった。


なぜなら、その時すでに、最初に崩れていたからだ。


敵の兵力でも、防備でもない。


「想定」そのものが。


静かに、しかし確実に。


戦は、彼らの理解の外側で進み始めていた。

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