現場と机上
反乱軍の陣営では、苛立ちが濃く淀んでいた。
「また偵察が阻止されたのか?まだ情報は上がらんのか!」
苛立ちを隠そうともせず、指揮官は机を叩いた。
「は……城とも砦とも言えぬはずの男爵領に、どうにも近づけません。斥候がことごとく――」
「本当に堅強な城があるというのか?それに、それなりの兵力もだと?」
信じられない、というより認めたくないという声だった。
「いつの間に、そんな物を揃えた! 何をしている!たかだか弱小男爵領相手に!」
報告役の兵は言葉を詰まらせる。
「し、しかし……送り込んだ者は、皆戻っては来ておりますが……」
「戻ってきている?」
「はい。皆、殴られ、装備を奪われ……その……下着一枚で」
一瞬、天幕の中に沈黙が落ちた。
「……ふざけているのか?」
低く絞り出すような声。
「チッ……」
指揮官は舌打ちした。
「バカ息子貴族は口だけ達者で、現場の事など何も分かっておらん……」
苛立ちを吐き捨てるように言い、立ち上がる。
反乱軍貴族が言い放つ!
「男爵なぞ、本来なら兵力など無い!無いはずだ!」
怒鳴り声が天幕を揺らす。
「全く、平民は使えぬな!!」
周囲の空気が一気に冷えたが、指揮官は気にも留めない。
「もう良い。私が直々に蹴散らしてくれてやる」
彼は腕を組み、部下を睨みつけた。
「今まで、何人送り込んだ?」
「総数で……六十名ほどです。十名程度の小隊を、十組に分けて」
「はっ!」
嘲笑が漏れる。
「チマチマと!そんな事をしているから、舐められるのだ!」
指揮官は机を指で叩きながら命じた。
「まとめて百名ほど、私の直轄に入れろ!」
「百名、ですか……?」
「そうだ。こちらが本気だと、思い知らせてやる」
その目には、慢心と焦りが混じっていた。
「城があるなら潰す。兵がいるなら踏み潰す。男爵だろうが何だろうが関係ない」
彼は鼻で笑った。
「どうせ付け焼き刃の防備だ。数を見せれば、平民共は逃げ散る」
その言葉の裏で、誰一人として気づいていなかった。
これまで戻ってきた斥候たちが、皆同じ言葉を繰り返していた事に。
「……想像より、ずっと整っていました」
その警告は、誰にも拾われないまま、次の命令にかき消された。




