こちら側から
「さてと。機構隊長。あの街には、密偵は何人入ってるの?」
不意に投げられた問いに、機構隊長は一瞬だけ言葉に詰まった。
「あ〜……嬢ちゃん。それは、その〜……な?」
歯切れの悪い返答に、メイヤは軽く肩をすくめる。
「まあいいわ。数を聞いたところで、今から増やせるわけでもないし」
そう言いながら、彼女は机の下から細長い筒を一本取り出した。
「これを作ってもらったの」
「……竹筒?」
受け取った機構隊長は、くるりと回し、軽く振ってみる。中で何かが擦れる音がした。
「中に火薬と油を仕込んであるわ」
「は?」
「藁紐を用意して。短くていいから」
半信半疑のまま、近くに積まれていた藁束を持ってくる。メイヤは迷いなく火を点けた。
次の瞬間、竹筒は激しく発火し、勢いよく火柱を噴き上げた。
「……ほぅ〜」
機構隊長の目が、完全に職人のそれになる。
「藁紐の長さで着火までの時間を調整できるの。投げてから、数呼吸遅れて燃えるようにもできる」
「待て待て……発火遅延付き、軽量、投擲可能……?」
「そう。中身は簡単。複雑な加工もいらない。誰でも使える」
機構隊長は、しばらく無言で竹筒を見つめていたが、やがて低く息を吐いた。
「……こんな物を、よく思いつくな」
メイヤは淡々と答える。
「これを密偵に渡して。街の武器庫、あとは……あんまりやりたくはないけど、食糧庫にも」
「……街を燃やす気か?」
「燃やすんじゃないわ。混乱させるの」
メイヤの声は冷静だった。
「反乱側は、今『安全な後方』だと思ってる。そこを揺らす。火が上がれば、兵は戻る。指揮系統は乱れる。疑心暗鬼も生まれる」
「……なるほどな」
機構隊長は、顎に手を当てた。
「嬢ちゃんのやりたい事は解るぞ。前線で殴り合う前に、足場を崩すってわけだ」
「そう。正面衝突は最後でいい」
メイヤは窓の外、まだ静かな領内を見た。
「向こうは数で来る。なら、こちらは“想定外”で行く」
機構隊長はニヤリと笑った。
「密偵にすぐ準備させる。……嬢ちゃん、これはもう『戦』だな」
「ええ」
メイヤは短く頷いた。
「だからこそ、無駄な犠牲は出さない。そのための準備よ」
その視線は、すでに次の一手を見据えていた。




