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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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下着で帰ってきた使者たち

最初に異変に気づいたのは、反王族派の臨時指揮所だった。


「……遅いな」


机を指で叩きながら、副官が呟く。

偵察として送り出した二十名。

軽装、威圧目的、そして“様子見”。


――奪う気はない。

――牽制できれば十分。


そんな軽い判断だった。


「戻り次第、領境の弱さを報告させろ。次は本隊だ」


そう言った直後だった。


「た、ただいま戻りました!」


幕を跳ね上げ、転がり込むように現れたのは――人影。


だが。


「……?」


誰も、すぐに言葉を発せなかった。


二十名、全員。武器なし。荷もなし。

そして――下着一枚。


顔は殴られ、腫れ、泥と草にまみれている。


「……どういう、ことだ?」


指揮官の声が、低く落ちた。


「そ、それが……」


先頭にいた男が、震える声で言う。


「出城が……完成していました」


「見張り小屋だけだと聞いていたはずですが……違いました」


「丘全体が、陣地です」


「は?」


「気づいた時には、周囲の草むらから人が出てきて……」


「後ろも、横も、全部……」


「待て。敵兵は何人いた」


男は、一瞬、言葉に詰まった。


「……分かりません」


「でも、少なくとも……こちらを“数えていなかった”」


空気が、凍る。


「それで、なぜ下着だ」


「……」


男は目を伏せた。


「『帰って伝えろ』と」

「『次は服を着て来い』と……」


沈黙。


誰かが、笑いそうになり、咳払いで誤魔化した。


だが、指揮官は笑わなかった。


「……捕虜には、されなかったのか」


「はい」


「殴られましたが……殺されてはいません」


「脅迫は?」


「いえ」


「むしろ……」


男は、言葉を選びながら続けた。


「“誘っている”ようでした」


「誘う、だと?」


「はい」


「ここを通るなら、必ず見えるように」


「逃げ帰る道も、あえて空けて……」


指揮官は、ゆっくりと椅子に背を預けた。


(……罠だ)


だが、それ以上に。


(これは、“こちらが来る前提”の構えだ)


副官が、小声で言う。


「……本当に、弱小領地なのですか?」


返事はなかった。


代わりに、別の報告が重なる。


「同時刻、別ルートの密偵も拘束されました」


「同様に……下着で帰されています」


「……揃って、か」


指揮官は、天井を仰いだ。


「完全に、見透かされているな」


そして、低く命じる。


「この件、上には……」


「どう報告します?」


一拍。


「……“敵は少数だが、準備が異常”と“軽視すれば、恥をかく”と」


副官は、苦い顔で頷いた。


その頃。


下着姿で帰還した男たちは、各地で同じ扱いを受けていた。


笑われ。

疑われ。

だが――誰も、もう一度行きたいとは言わなかった。


丘の上に、何があるのか。


出城の影で、何が待っているのか。


彼らは、身をもって知ってしまったのだ。


そして、その報告は。


確実に――

敵の判断を、狂わせ始めていた。

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