総兵力!? そして――舐められた前線
「……総兵力、確認しました」
簡易的に設置された作戦室。
地図の前に立つ機構隊長の声は、妙に落ち着いていた。
「近衛隊二十名。機構軍二十名。志願兵五十名。合計――九十名です」
「九十……」
メイヤは、指を折って数え直すように呟いた。
「思ったより少ないわね。……でも」
視線は、未完成ながらも存在感を放つ出城へと向く。
「大きく作っておいて正解、だった……のかしら?」
「結果論だがな」
近衛隊長が腕を組む。
「元々五十規模の想定だった。九十いれば、防御戦なら十分成立する」
「成立、ねぇ……」
メイヤは苦笑した。
そこへ、外がざわついた。
足音。
それも、規則正しい。
「……?」
扉が開く。
入ってきたのは、見慣れた顔だった。
「――失礼します!」
凛とした声。
「リディア隊!学生隊二十名!両隊長の指揮下に入ります!」
一瞬、空気が止まった。
「……は?」
メイヤの声が、素で裏返る。
近衛隊長と機構隊長は、互いの顔を見た。
(……この目)
(覚悟、決まってやがる)
そこに立っていたのは、訓練用の服装ではない。
実戦を想定した装備。
表情は引き締まり、誰一人として怯えがない。
「……断れるか?」
「無理だな」
二人は、同時に理解した。
「……了解した」
近衛隊長が一歩前に出る。
「リディア隊長。貴隊を、我々の指揮下に編入する」
「はい!」
二十名の学生が、一斉に敬礼した。
総兵力。
九十名+二十名。
「……百十名、か」
メイヤは小さく息を吐いた。
その時だった。
伝令が、血相を変えて飛び込んできた。
「密偵から、緊急報告です!」
「来たか」
機構隊長が即座に促す。
「敵総兵力……おおよそ、三千五百!」
「……は?」
(既に別勢力も領地に入れていた??)
「各地で召集がかかっている模様!位置から見て、王都方面へ――」
近衛隊長が眉を吊り上げる。
「……こちらには?」
「そ、それが……」
伝令は、一瞬言葉を詰まらせた。
「こちらへ向かっている兵力は……推定……二十名、です」
沈黙。
「……二十?」
「はい」
「……二十?」
誰かが、もう一度繰り返した。
理解が、追いつかない。
「……舐めてるな」
機構隊長が、低く吐き捨てる。
「完全に、だ」
三千五百を動かしながら、この領地には二十。
「偵察ですらないわね」
メイヤの声は、静かだった。
「“ついで”よ。邪魔になりそうだから、踏んでおこう、って程度」
学生たちの間に、ざわめきが走る。
だが、それは恐怖ではない。
「……二十で来る、ってことは」
リディアが、ぽつりと呟く。
「ここはその程度で落とせるか。」
「そういうことだ」
近衛隊長が頷く。
「出城も、兵も、“張りぼて”だと思われている」
メイヤは、地図に手を伸ばした。
領境。
出城。
一本道。
「……なら」
ゆっくりと、顔を上げる。
「その勘違い、一生忘れられない形で訂正してあげましょう」
機構隊長が、口角を吊り上げた。
「いいねぇ……」
「二十人で来るなら」
近衛隊長も、静かに言う。
「二十人分、“見本”になってもらうだけだ」
学生たちの目が、燃えていた。
「教科書通りの戦争じゃないわよ」
メイヤは、皆を見渡す。
「でも――守るものがある戦いは、一番、強い」
出城の上で、旗が風に揺れた。
敵は、まだ知らない。
この小さな領地が、
“踏んでいい場所”ではないということを。
そして――
最初に来る二十名が、
何の役目を負わされるのかを。
静かに、
しかし確実に。
戦争は、ここから始まろうとしていた。




