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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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出城、想定外に育つ

領内で「仕事」が始まったのは、その日の朝からだった。


「いたぞ!」


「そっちだ、逃がすな!」


街道脇の林から引きずり出された男は、抵抗する暇もなく地面に押さえつけられた。近衛と機構隊の混成部隊――目的はただ一つ。


怪しい奴は、全部だ。


「荷物、確認」


「刃物あり。地図あり。銀貨は……多いな」


「はい、黒」


判断は早かった。


「ボコれ。死なない程度にな」


命令が下ると同時に、遠慮は消えた。


数刻後、領境。


下着一枚にされた男たちが、泣きそうな顔で放り出される。


「帰れ」


「次に入ったら、もっと酷いぞ」


追い出された者たちは、振り返ることすらできずに去っていった。

その背中を見送りながら、メイヤは静かに呟く。


「……うん。これでいい」


恐怖は、伝染する。

しかも、尾ひれがつく。


「この領地は、ヤバい」


「捕まると、服を全部取られて叩き出される」


――それで十分だった。



同時進行で、領境では異様な光景が広がっていた。


「……速い」


メイヤは思わず声を漏らす。


丸太が組まれ、杭が打ち込まれ、土嚢が積まれていく。

まるで、何度もやったことがあるかのような手際。


「機構隊長?」


「ん?」


「あの……この出城」


「おう」


「図面より、大きくない?」


機構隊長は一瞬目を逸らし、頭を掻いた。


「あー……」


嫌な予感がした。


「最初は、嬢ちゃんの言う通り五十人規模で話してたんだがな」


「……が?」


「木工師の爺さんがなぁ」


出てきた名前に、メイヤは納得しかけて、そして戦慄した。


「あの人、図面見て言いやがったんだよ」


――『小さすぎる』って。


「……」


「『これじゃ守る気が感じられん』とか言ってな」


「……」


「気付いたら、百五十人近く駐屯できる構造に書き換えてた」


「書き換えた!?」


「志願兵も来るって言ってよー。作る手間は大差ねぇ、って」


メイヤは、完成しつつある出城を見上げた。


高低差を活かした土塁。

射線を限定する通路。

正面は狭く、側面からの侵入は困難。


――これ、普通に要塞では?


「……まあ」


ため息一つ。


「出来ちゃうなら、いいか」


機構隊長は笑った。


「そうこなくちゃな」



志願兵は、確かに現れた。


農具を置いてきた農民。

鍛治場を一時閉めた職人。

家族を背にした男たち。


「給金は?」


「最低限」


「死ぬか?」


「さあな」


それでも、去る者は少なかった。


「……子供が学校に通ってる」


「託児所がなきゃ、畑も回らねぇ」


「だから、ここは落とさせねぇ」


理由は単純だった。


守るものが、ここにある。



夕刻。


仮設の指揮所で、メイヤと機構隊長、近衛隊長が地図を囲む。


「敵は、どれくらい来ると思う?」


メイヤの問いに、機構隊長が顎を撫でる。


「推測だがな……」


地図の北側を指でなぞる。


「向こうの領内事情を考えると、かき集めて八百」


「八百……」


「それで上出来だ」


「多くは?」


「無理だな。急に兵を動かせば、他所にバレる」


近衛隊長が頷く。


「密偵も放っている。数は、そのうち掴める」


「最初は、少数?」


「様子見の百か二百だろうな」


メイヤは、完成間近の出城を思い浮かべる。


「……じゃあ」


ゆっくりと、口角が上がった。


「最初に来た人たちも、ボコって返しましょう」


「は?」


「そしたら、向こうはこう思うわ」


――『今なら、ここを攻め落とせる』


機構隊長が、ニヤリと笑った。


「でも来てみたら?」


「出城が、完成してる」


「腰、抜かすな」


三人の視線が重なる。


「……嬢ちゃん」


機構隊長が低く言う。


「これ、王都最短ルート作れるぞ」


メイヤは、静かに頷いた。


「ええ」


(だからこそ)


(ここで、止める)


出城は、ただの防御施設ではない。


――これは、戦争をこちらに引き寄せる“罠”だ。


そしてその罠は、

想定以上の大きさで、静かに牙を剥こうとしていた。

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