動き出した内乱
反乱の報は、王都よりも早く、領地に届いた。
「……遂に、やったか」
王城でその報告を受けた王は、思わず立ち上がっていた。
半島の反対側――王都を挟んだ向こう岸。
近年、外国船の寄港が急増していた港町を抱える領地。
「接する王族派領地へ、進軍を開始したとのことです」
報告官の声は硬い。
話は、確かに上がっていた。
不穏な動き、資金の流れ、港町での武装した人間の出入り。
だが――まさか、ここまで早く、露骨に動くとは。
「直ちに伝令を飛ばせ。各領主へ通達――王族派の支持を明確にし、反乱に備えよ」
王都は、即座に臨戦態勢へと移行した。
それは同時に、王族派・反王族派、双方が堂々と兵を動かせる理由を与えたことも意味していた。
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その頃。
メイヤは、機構隊長と共に、工房で火縄銃の部品を前にしていた。
「で、この改良型だと、点火の安定性が――」
「……王都、動いたな」
突然、機構隊長が呟いた。
同時に飛び込んでくる報告。
「王都、非常態勢。反乱発生とのことです」
メイヤは、深く息を吐いた。
「あー……参ったな、こりゃ」
椅子にもたれ、天井を見る。
「遂に来たか、って感じ?」
「嬢ちゃん……」
機構隊長も、珍しく表情が険しい。
「王が指示を明確にした。これで王族派も反王族派も、遠慮なく兵を動かせる」
「……不味い?」
「不味いな。しかも、この混乱に乗じて“漁夫の利”を狙う連中も、必ず出る」
「内乱、確定ね」
しばしの沈黙。
だが、メイヤの表情は、不思議と暗くなかった。
「でも――敵が、はっきりしたわ」
「……どういう意味だ?」
「反王族派、旧商人、外国勢。今まで“ぼんやり”してたものが、全部一本に繋がった」
メイヤは、地図を広げる。
「だから、ここからは“誘導”できる」
機構隊長は、眉をひそめた。
「誘導?」
「うちの領内にいる不審人物」
「ああ、増えてるな」
「全員拘束」
「……檻に入れるか?」
「ううん」
メイヤは、にっこり笑った。
「ボコって、領境から追い出して」
「……は?」
機構隊長が、素で聞き返す。
「何でだ?」
「簡単よ」
メイヤは指で地図をなぞる。
「ボコられた連中は、必ず依頼主の所へ戻る。
で、こう言うわ」
――この領地、見張り小屋しかない。
――今なら、簡単に落とせる。
「……なるほど」
機構隊長の口元が、歪む。
「だが、来てみれば?」
「出城、完成済み」
「腰抜かすな」
「最初は少人数のはずよ。様子見だから」
メイヤは淡々と続ける。
「来たら、またボコって返す」
「……王都じゃなく、こっちに兵を向けざるを得なくなる」
「そう」
メイヤの指が、王都へ向かう最短街道を叩く。
「ここで敵主力を引きつけて、削る。王都は、その間に体勢を整えられる」
機構隊長は、しばらく黙り込み――
「……あー、嬢ちゃん」
「なに?」
「それ、囮じゃなくて狩り場だ」
メイヤは、肩をすくめた。
「向こうが選んだのよ。来るって」
そして、静かに言う。
「私の日常を壊そうとしたんだから。それくらいのリスク、背負ってもらわないと」
機構隊長は、大きく笑った。
「よし!じゃあ嬢ちゃん、領内の準備を進めるぞ」
「ええ」
メイヤは、工房の奥――
火縄銃と黒色火薬の試作が並ぶ棚を見る。
(……もう、隠す段階じゃない)
「……覚悟、決めたな」
「守るためよ」
外では、いつも通りの夕暮れ。
子供たちの声が、まだ校庭から聞こえていた。
――その日常を守るために。
領地は、静かに、しかし確実に
戦場への入口を整え始めていた。




