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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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違和感という名の前兆

領主館の執務室は、静まり返っていた。

窓の外では、いつも通りの朝が流れている。市場の呼び声、荷車の軋む音、遠くで鳴る鐘。

だが、机に向かう領主の表情だけが、その日常から切り離されていた。


「……やはり、増えているな」


彼の前には、数枚の報告書。

どれも一見すれば些細な内容だ。


・倉庫での小規模な火災

・輸送途中の荷車の転倒

・積荷の帳尻が合わない

・運送人の急な欠員


どれも「事故」で片付けられる程度のもの。

だが、発生する場所と頻度が、あまりにも不自然だった。


「偶然にしては、揃いすぎている……」


領主は深く息を吐き、ペンを取った。


宛先は、東側――エドラン領。

交易路で深く結ばれ、ここ数年は特に関係を強めてきた相手だ。


――――――――

書簡・抜粋


近頃、我が領および周辺地域にて、物流に関する小規模なトラブルが散発しております。

いずれも単独では事故の範疇ですが、発生頻度と場所に規則性が見られ、意図的な妨害の可能性を否定できません。


現時点では被害は限定的ですが、事態が拡大した場合に備え、

・王族派への相互支持

・食料および物資の相互支援

・緊急時における可能な範囲での援軍

・各領地で確認された「違和感レベルの事件」の情報共有


以上について、相互条約の締結を提案いたします。


――――――――


書き終えた領主は、しばしペンを置いたまま動かなかった。


「……まだ、表には出てこないか」


この段階で「反乱」や「陰謀」という言葉を使うのは早すぎる。

だが、確実に“準備段階”の匂いがする。


そこへ、控えめなノック。


「失礼します。領主様」


入ってきたのは、機構隊長だった。


「北側の街道ですが……また一件、報告があります」


「燃えたか?」


「いえ。今回は荷車の車軸が折れています。加工痕が……自然ではありません」


領主は、静かに目を閉じた。


「……他領も、同じだろうな」


「はい。西側からも、似た話が少しずつ」


それは、まだ“点”だ。

だが、確実に線になり始めている。


その頃――

屋敷の別棟、作業部屋。


メイヤは、ゴアゴア紙に向かい、何かを書き留めていた。

図面でも、発明でもない。


「……物流を乱す。表でやればすぐ気付かれる。だから裏から、少しずつ」


独り言のように呟き、ペンを止める。


「これ、たぶん……一箇所じゃない」


彼女の前には、各地の地図。

小さな印が、点在している。


(同時多発。しかも、失敗しても構わない程度の規模)


それは、試し打ちだ。

本格的に動く前の、空気を探る行為。


メイヤは、紙を一枚取り、別の箱にしまった。

そこには、すでにいくつもの「もしもの案」が眠っている。


「……まだ、早い」


そう自分に言い聞かせるように。


だが、確信もあった。


(これは――準備が整った側が、次の段階に進む合図)


夕刻。

早馬が、東へと走り出した。


誰も騒がない。

誰も声を荒げない。


だが、水面下で、領と領が静かに結び直されていく。


日常は、まだ壊れていない。

しかしその下で、歯車は確実に噛み合い始めていた。


――“違和感”は、もう無視できない前兆だった。

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