王都に届いた静かな報告
王都・中央庁舎の一室。
昼下がりにも関わらず、窓は閉められ、室内は薄暗かった。
「……以上が、現在までに確認された事象です」
淡々と読み上げる声。
それは決して緊急報告の調子ではなかった。
だが――
机を囲む者たちは、誰一人として茶に手を伸ばしていない。
報告書の内容は、どれも単体で見れば些細だった。
・地方街道での荷馬車転倒事故の増加
・倉庫火災の発生率上昇(原因不明)
・契約更新直前の商会が、突如取引を白紙に戻す
・港湾都市での荷役人足の集団欠勤
「偶発、あるいは管理不行き届きとして処理されてきました」
報告官は一度、言葉を切った。
「ですが――“時期”と“場所”を重ねると、線になります」
机の上に地図が広げられる。
赤い印が、点ではなく、帯のように連なっていた。
「反王族派と噂される旧貴族領」
「かつて市場を支配していた旧商人の拠点」
「近年、外国商船の寄港が増えた港町」
三つが、奇妙なほど重なっている。
「……三合連合、という理解でいいか?」
重々しい声が落ちた。
「はい。反王族派、旧商人勢力、そして外国資本。いずれも単独では動いていません。しかし“互いの利害が一致する部分だけ”を共有しています」
それは同盟というより、目的限定の結託だった。
・王族の統制力を削ぐ
・正規流通を混乱させる
・地方領主の自立を促す
「さらに」
報告官は、最後の紙を差し出す。
「一部の地方領主が、兵糧・装備・人員を“平時以上”に集積しています」
室内の空気が、はっきりと変わった。
「反乱準備か」
「“即時”ではありません。ですが――計画的です。年単位で見ています」
誰かが小さく舌打ちした。
「つまり、これは暴発ではない」
「はい。“環境作り”です」
物流を乱し、民心を疲弊させ、
“王族に頼らない選択肢”を各地に芽生えさせる。
その先にあるものを、ここにいる全員が理解していた。
沈黙の中、年配の官僚が低く呟いた。
「……静かすぎるな」
「ええ」
報告官は頷く。
「だからこそ、危険です。彼らはまだ、こちらに“気づかれていない”と思っています」
机の上の報告書。
その一枚一枚は、悲鳴を上げていなかった。
だが。
「対応を急ぐ必要があります」
誰も反論しなかった。
王都に届いたその報告は、
鐘も鳴らさず、血も流さず――
確実に、“戦争の準備が始まった”ことを告げていた。




