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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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事故ではない“事故”

最初の報告は、朝だった。


「……西側倉庫で、事故が起きました」


執務室に入ってきた文官の声は、妙に落ち着いていた。


「怪我人は?」


「軽傷が二名。命に別状はありません」


領主は、即座に次を問う。


「原因は?」


「荷崩れ、とのことです」


その一言で、室内の空気がわずかに沈んだ。


「……倉庫番号は?」


「第三倉庫。先日、東側経由の布と金属部材を保管していた場所です」


「担当者は?」


「十年以上、事故歴なしの者です」


領主は、書類を受け取った。


整った報告。

整いすぎている。


「現場は?」


「既に封鎖。機構隊が確認中です」


「私も行く」


「領主自ら、ですか?」


「だからだ」


領主は椅子を立った。


「“事故”ほど、早く見なければならんものはない」



第三倉庫。


中は、確かに“事故の後”だった。


木箱が崩れ、金属部材が散乱している。

血の跡は少量。搬送も迅速だったのだろう。


「……不自然だな」


近衛隊長が低く呟く。


「何がだ?」


「崩れ方です」


彼は、崩れた木箱を指差した。


「下段から抜かれている」


「自然崩落では?」


「違います。荷重が集中する前に、“支え”がなくなっている」


機構隊長も頷いた。


「刃物か、工具を使っていますね。しかも短時間で」


「つまり」


領主は、静かに言った。


「事故に見せかけた、人為的破壊だ」


「はい」


「狙いは?」


「混乱、でしょう」


機構隊長は続ける。


「物流を止めるほどではない。だが、“不安”を残す」


「試し打ち、か」


誰も否定しなかった。



その日の午後。


メイヤは、別棟の工房にいた。


机の上には、黒い粉末を入れた小瓶が並んでいる。


「……安定してる」


小声で呟き、彼女は記録を取った。


湿度、配合比、粒度。どれも、再現性は十分。


そこへ、ノック。


「メイヤ様」


入ってきたのは、父――だった。


「時間は大丈夫か?」


「はい」


彼女は、すぐに察した。


「……倉庫の件、ですね」


「ああ」


父は、工房を一目見回し、溜息をついた。


「進んでいるな」


「進めていました」


メイヤは、隠さなかった。


「“いつか”では、間に合わない気がして」


「……何か、掴んでいるのか?」


「確証はありません」


だが、と前置きして。


「でも、“事故ではない事故”は、次はもっと分かりにくくなります」


父は黙った。


「だから」


メイヤは、顔を上げる。


「提案があります」



執務室。


関係者のみが集められた非公開の場。


メイヤは、机の上に二つの布包みを置いた。


「一つは、火縄銃の改良型部品です」


布を開くと、整然とした金属部品。


「もう一つは、黒色火薬」


場の空気が、張り詰めた。


「……量産、か」


近衛隊長が呟く。


「はい」


メイヤは、はっきりと答えた。


「条件付きで、です」


「条件とは?」


「三つ」


彼女は指を立てる。


「第一。製造は完全管理下。工房、配合、保管、全て分離」


「第二。使用は、正規訓練を受けた者のみ」


「第三。存在自体は、“防衛用工具”として扱う」


「兵器ではない、と?」


「はい。“抑止”です」


一瞬の沈黙。


機構隊長が、低く言った。


「……事故は、もう始まっている」


「ええ」


メイヤは頷く。


「次は、人が死ぬ形で来るかもしれません」


「それを、防ぐために?」


「選択肢を持つために、です」


父は、娘を見た。


いつの間にか、“守られる側”ではなくなっていた。


「……量は?」


「火縄銃、初期で三十挺」


「火薬は?」


「継続生産可能です。ただし、日産は制限を」


「理由は?」


「“急ぎすぎる”と、気づかれます」


その言葉に、何人かが息を呑んだ。


「……分かっているな」


深く頷いた。


「承認する。ただし――」


「はい」


「前に出るのは、私だ」


メイヤは、微笑んだ。


「分かっています。だから、準備は私がします」



その夜。


倉庫事故の噂は、静かに広がった。


だが同時に、見えない場所で、別の歯車が回り始めていた。


それは、防ぐための力。


そして――


“もう一段、強いカード”に対する、先手の布石だった。


日常は、まだ壊れていない。


だが、誰もが理解していた。


次は、偶然では済まない。

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