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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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最初の異変 ――小さな齟齬は、必ず音を立てる

異変は、あまりにも些細な形で始まった。


「……おかしいな」


港の詰所で帳簿を確認していた港務官が、眉をひそめた。


「この船、入港時の重量と……出港時の重量が合わない」


書類は揃っている。

通行許可も正規。

積荷も申告通り――表向きは。


だが、差がある。


「積み下ろし、あったか?」


「いえ。記録上は一切」


港務官は、無言で別の帳簿を引き寄せた。


「……同じだ」


二隻目。

三隻目。


量はわずか。

だが、確実に「軽い」。


「誤差……じゃないな」


彼は静かに立ち上がった。



同じ頃。


西ルートを試験航行していた小型高速船が、予定より半日遅れて帰港した。


「遅かったな」


「……霧が出ました」


船長は短く答えた。


「急に濃くなって。視界が利かなくなった」


「嵐は?」


「いえ。風も波も問題ない」


それは、奇妙だった。


霧は珍しくない。

だが、この季節、この海域では。


「他に、何か?」


船長は一瞬、言い淀んだ。


「……遠くに、船影が」


「王都の船か?」


「……違います」


「旗が、見慣れませんでした」


それ以上、船長は語らなかった。



翌日。


物流管理の報告書が、執務室に積まれていた。


「西ルート、問題なし……だが」


文官は慎重に言葉を選ぶ。


「港湾側で、微妙なズレが」


「ズレ?」


「重量、航行時間、天候報告……どれも単体では説明がつく範囲ですが」


領主は、静かに頷いた。


「“揃いすぎている”?」


文官は息を呑んだ。


「……はい」


説明が“整いすぎている”。

偶然にしては、都合が良すぎる。


「調査は?」


「非公式で、始めています」


「表に出すな」


領主は即断した。


「今は“問題がない”のが、一番の武器だ」



その日の夕方。


学校の校庭では、子供たちが走り回っていた。


「せんせー!きょうのごはん、さかな!」


「おかわりあるー?」


平和そのものの光景。


だが、その外側。


丘の見張り台で、近衛の兵が双眼鏡を下ろした。


「……また、だ」


「何が見えた?」


「遠方の船影。距離を保って、こちらをなぞるように動いている」


「威嚇か?」


「……いいえ」


兵は、首を振る。


「観察、です」



夜。


機構隊長は、短い報告書を書いていた。


内容は、驚くほど簡潔。


・西ルートでの軽微な異常

・港湾記録との微差

・不明船影の目撃


最後に、一文。


※現時点での実害なし。ただし、意図的な可能性あり。


彼は封筒を閉じ、ため息を吐いた。


「……来たな」


だが、まだ。


これは警告でも、攻撃でもない。


ただの――試し。


相手は、こちらがどこまで気づくかを見ている。


そして。


こちらもまた、

どこまで“気づいているふりをしないか”を選んでいた。


校庭の笑い声は、夜になっても消えなかった。


だが、その上を流れる雲は、

確実に、形を変え始めていた。


最初の異変は、

まだ誰も傷つけていない。


それが、何よりも不気味だった。

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