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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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104/199

裏で結ばれる線、海の向こうから来た声

北側――ガリオン領。


領主館の一室。

夜も更け、人払いを済ませた部屋には、重たい沈黙が落ちていた。


「……王都は、完全にあちらを選びおったか」


低く吐き捨てるように言ったのは、ガリオン領主だった。

机の上には、最新の通達写し。

そこには遠回しな言葉で、しかし明確にこう書かれている。


――当該領地への監査・干渉は当面行わない。


事実上の拒否。

しかも、理由は「正当な登録・王都承認済み」。


「度量衡統一、物流改革、登録機構の支店化……」


領主は指を鳴らす。


「どれも“正義”で殴れぬ」


それは敗北宣言に等しかった。


部屋の隅で控えていた男が、乾いた声で言う。


「……では、次の手を」


「表はもう無理だ」


領主は即答した。


「なら、裏に回るしかあるまい」



同じ夜。


別の場所――港町に近い私邸。


重厚な扉の向こうでは、旧商人たちが円卓を囲んでいた。


「……冗談じゃない」


太った男が、酒杯を机に叩きつける。


「量を誤魔化せなくなって、利益が三割飛んだ!」


「うちは五割だ!」


「価格操作もできん、信用も戻らん……」


誰もが苛立っていた。


「すべて、あの領地のせいだ」


「王都が後ろについたせいで、手出しもできん」


そこへ。


扉が静かに開いた。


入ってきたのは、見慣れぬ男。

服装は異国風、だが無駄がなく、目は冷静だった。


「……失礼」


男は流暢な共通語で言った。


「少し、面白い話を持ってきました」


商人たちが一斉に警戒する。


「誰だ?」


「私は――海の向こうの者です」


それだけで、空気が変わった。


「交易相手を探しています。ただし……」


男は微笑む。


「“王都経由以外”の」



数刻後。


別室では、より少人数が集められていた。


ガリオン領の使者。

旧商人の代表数名。

そして、異国の男。


「話は聞いた」


領主側の使者が言う。


「だが、王都を敵に回すつもりはない」


男は肩をすくめた。


「我々もです。正面からは、ね」


机に、地図が広げられる。


そこに示されたのは――海路。


「最近、ある領地が西ルートを模索している」


男の指が止まる。


「もし、そこに“事故”が起きれば?」


「事故……?」


「嵐、誤認、密輸の疑い。理由はいくらでも作れます」


旧商人の一人が、喉を鳴らした。


「物流が止まれば、信用が落ちる」


「価格は乱れる」


「王都は、様子を見る」


男は頷いた。


「我々は、船と金を出します」


「情報も」


「代わりに――」


視線が、ガリオン領の使者へ向く。


「“黙認”を」


使者は、即答しなかった。


だが、その沈黙が、答えだった。



さらに別の場所。


反王族派の集会所。


「……北が動いた」


「旧商人も、切れたな」


「海外勢が噛んだか」


彼らは笑わなかった。


「王都内部にも、揺さぶりをかけられる」


「“過剰な集中”だ」


「“一領地への依存”だ」


「言葉はいくらでもある」


誰かが呟く。


「……あの子供領主」


「いや、あの領地だ」


「潰す必要はない」


「“弱らせればいい”」


全員が、静かに頷いた。



翌朝。


港では、異国船が一隻、何事もなく出航した。


書類は整っている。

旗も正規。

誰も、止めない。


だが、その船底には――

正規ではない“荷”が積まれていた。


そして、その行き先は。


まだ、誰にも知られていない。



同じ頃。


北側の丘で、使者が小さく呟いた。


「……これで、線は繋がった」


だが、彼は知らない。


その“線”の先で、

すでに先手の布石が打たれていることを。


この時点では、まだ。


影は、影のままだった。

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