ひよこと領主家の娘
前金として金貨は受け取ったものの──。
メイヤは改めて金貨の袋を見つめ、深く息を吐いた。
「これは領地の未来を変える大事な資金……無駄遣いは絶対にしない!」
元・経営者魂がうずく。
けれど、鶏を買う経験なんてゼロだ。
知識と言えば、前世でYouTubeの鶏飼育動画を見ていた程度。
まずは現場の声だ!
そう考えたメイヤは、領内で鶏を飼っている農家へ聞き取り調査をすることにした。
■ 鶏を「飼っている人」と「飼ってない人」
領民の話を聞いて回ると、飼育事情が見えてくる。飼っている農家は決まって同じことを言った。
「水と餌やって、掃除して、卵を拾うだけだよ。難しくないさ」
メイヤの前世知識とほぼ一致。
ただ問題は“糞”だった。
「掃除した糞、どうしてます?」
「適当に畑の隅に捨ててるよ?」
──それ、全部使い道あるやつ!
メイヤは叫びかける気持ちをぐっと抑えた。
ここで集めて加工すれば、立派な肥料になる。
だが各農家から回収するとなると、作業者を新たに雇う必要がある。
人件費はかけたくない。
メイヤは悩んだ末、こう決断した。
「私が庭に小さな鶏小屋を作って育てます!
それで、肥料の作り方が完成したら、飼ってる皆さんにも教えます!」
聞き取りをしていた農家の一人が、ぽんと手を叩いた。
「そうかい! じゃあ、ひよこ欲しいのかい?」
「えっ?」
農家の男性はにやりと笑う。
「たまに卵を回収し忘れて孵っちまうんだよ。数匹なら譲ってやるよ」
思わぬ申し出にメイヤが固まる。
「他の家にも聞いてみな? 同じように勝手に孵ったひよこ、結構いるはずだ」
言われるままに各家庭を回った結果──
なんと、数十匹のひよこが集まってしまった。
もちろん雄雌は不明。
でも、タダで貰うわけにはいかない。
「何かお返しを必ずしますね!」
頭を下げるメイヤに、農家たちは笑って
「気にすんな」
と手を振った。
こうして、たくさんの“ぴよぴよ部隊”を抱えたまま、メイヤは領主館へ戻ってきた。
■ 領主館の庭で──剣の音が響く
「……あれ?」
庭の訓練場から、剣が打ち合う鋭い音が聞こえてきた。
見ると、父である領主と──
長女リディアが真剣な表情で剣を振っている。
「長女様が……剣術……?」
戸惑うメイヤに、隣のミュネが静かに説明した。
「リディア様は次期領主としての訓練をされております。この国では、女性が領主になることも普通にありますから」
「えっ……そうなんだ」
前世の知識では“女性貴族は政略結婚”というイメージが強かった。
しかしこの世界では、性別に関係なく“能力のある者”が家を継ぐらしい。
メイヤは目を見開いた。
(この世界、思ったより男女平等なんだ……)
と、そこで。
「……ピヨ?」
手提げかごの中でひよこが鳴いた瞬間──
バッ!
剣を収めたリディアが物凄い勢いで振り向いた。
「なにその可愛い声!!」
次の瞬間には、メイヤの目前に立っていた。
「メイヤ! その鳴き声、ひよこよね!? 見せて!!」
「は、はいっ!」
かごの布をめくると──
「ぴよっ」
リディアの瞳が輝いた。
「……買うわ! この子、私が育てる!!」
「えっ!? あ、はい!?!」
高貴な少女らしからぬ勢いに、メイヤは押され気味。
しかし、すぐにリディアはふわりと笑った。
「メイヤ、あなたも育てるのでしょう?だったら二人で育てましょう!」
「……はいっ!」
こうして、ひよこたちは──
メイヤとリディア、ふたりの“共同プロジェクト”として育てられることになった。
未来の肥料計画は、ここから加速していく。




