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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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1/8

思い出した私は、六歳児。中身は八十九歳

私は六歳になろうとしていた。いや、正確には「六歳になり“そうだった”」と言ったほうがいいのかもしれない。


なぜなら、誕生日の三日前。

私は屋敷の大階段から、見事なまでに転げ落ちたのだ。


ゴロゴロッ……ドサァン!


「メイア様ぁーーっ!!」


悲鳴を上げる執事ガルドの声を最後に、私はそのまま意識を失った。


◆ ◆ ◆


そして、二日後。


ぼんやりした視界の中、私を覗き込む母――セリアの顔が見えた。


「メイア? 大丈夫……? 痛いところは、ない?」


か細い声で返事をしたつもりだった。

けれど、ふとした瞬間、胸の奥に何かがひっかかった。


――あれ? この感覚、なんだろう。


私の脳裏に、突然、巨大な波が押し寄せるように映像が流れ込んできた。


(え……? これ……私?)


キャリアウーマンとして働きづめの日々。

出産を機に仕事を辞め、二人の子を必死に育てたこと。

子育てが落ち着いて、再び働こうとした時に「どうせなら独立しちゃえ」と会社を立ち上げたこと。

息子に社長を譲り、悠々自適に旅行して家庭菜園を楽しんでいた晩年。

日本文化の教室にも通って、和裁に挑戦してみたり、庭でお茶を点てたり。


そして――病室。

家族に手を握られながら、穏やかに息を引き取った瞬間。


(……そうだ。私は八十九歳まで、生きたんだ)


その事実を思い出した瞬間、背筋に冷たいものが走った。


(えっ……ちょっと待って。じゃあ、私は……死んだ……?)


大きく目を見開く。すると、ベッド脇で見ていた両親が慌てた。


「メ、メイア!? どうしたの!? 痛むの!?」


「ち、父上……ごめん。違うの……!」


違う。

痛みじゃない。

もっと根本的に、重大で、信じられないことを思い出しただけだ。


私は、八十九歳で死んだ。

その記憶を持ったまま、この世界に生まれ変わった――としか思えない。


「これ……もしかして……孫が言ってた“転生”ってやつ……?」


ぼそっと呟くと、近くにいたメイドのミュネが不思議そうに首をかしげた。


「メイア様、いま……なんて?」


「う、ううん! なんでもないの!」


危ない。六歳児が“てんせい”なんて単語を言ったら、おかしいに決まってる。


――それにしても、本当に転生?

孫がよく話してくれていた“異世界転生もの”の小説……。

暇つぶしで私も読んでいたけれど、まさか自分がその主人公になるなんて。


(いや、でも……こういうの、大抵が神様からのお告げとかあるんじゃないの?)


私には何もない。

気がつけば、フェルナード男爵家の次女として生まれていて、気づいたら階段から落ちていた。


(……まあ、理由なんてどうでもいいか)


八十九年を生き抜いた経験があるなら、この世界でも何とかなるだろう。

むしろ、この体力と若さ――ありがたいにもほどがある。


ただひとつ問題があるとすれば。


「メイア……ほんとに、もう無茶はしちゃダメよ……?」


母が涙目で手を握ってくる。

父は父で、私の枕元に椅子を持ってきて、離れようとしない。


「リディア姉様も心配で、今日は訓練休んでるのよ……」


(……あぁ、そういえば私は“子供”だったんだ)


中身は八十九歳でも、身体は六歳。

しばらくは“普通の子供”として過ごさなきゃいけない。


私の第二の人生――いえ、第二の“幼年期”は、こうして始まった。

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