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神様と呼ばれた精霊医 ~その癒しは奇跡か、祝福か~ 【原作完結済】  作者: 川原 源明
第7章 動き出す友の病治療

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第97話 知るべき痛み

 アカデミーの寮に帰宅後も、お昼ご飯を食べずにいると。


『まだ死という救いに納得いかないか?』


 リンクル族の出産以降、ずっと誰もしゃべることがなかったが、グレンの方から話しかけてきた。


「うん……」


『そうか。ラミナが病気を治す道を進むと聞いてから、遅かれ早かれそういう奴と出会うとは思っていたがな』


『そうですね、私としてはもう少し後だとは思っていましたが……』


『そうだね~』


「……」


 グレンの言う“遅かれ早かれ”というのは、分かる気がした。


『クゥならなんとか出来るだろう。いつもの部屋に行こうか』


「クゥが?」


『あぁ』


 あっ、“お土産よろしく”って言われたのに買ってこなかった。後で謝らないと……。


「いつもの練習する場所でいいかな?」


『そこで良い』


 カバンからクゥにもらったカードを取り出し、魔素を流した。


 久々にここに来た気がする。


「これで、どうすればいい?」


『クゥを呼んでくれ』


 ん?


 グレンは何をするつもりなんだろうか?


「ここで『戻ってきて』って言えば良いかな?」


 私がグレンに聞き返した瞬間、目の前にクゥが現れた。


「うわっ!」


「うわって失礼ね。あなたとは繋がっているんだから、あなたが思えば戻ってくるわよ」


 そんなに急に現れると思っていなかったから驚いたっていいと思うのだけど。というか、なんでアカデミーの制服を着ているのだろうか?


 見た感じ、プリム達と同じくらいに見える。


「それで、グレン。私に何のよう?」


 クゥはグレンの方に視線を向けて尋ねていた。


『クゥは治癒院での出来事を知っているよな?』


「えぇ、ラミナとは共有していたし、何があったかなんて大体の事は把握しているわ」


『それならだ。例の患者の痛みをラミナに再現することは出来るか?』


 それを聞いたクゥが、少し表情を曇らせた。


 私自身も内心“何言ってるの?”と思った。


「それくらいは出来るけど、本気なの?」


『あぁ。じゃないと、いつまでも引きずるだろう』


 クゥは私に視線を移し。


「そうね……。だけど、ラミナが望まないなら、私はやる気はないわよ」


『だそうだ。どうする? どうして死を望むのが救いかが分かるぞ』


 痛いのは嫌だけど、どうしてそう思うのか分かるなら体験すべきなんだろう。


『あかんやろ……』


『痛みが分かりますけど、おすすめできませんね……』


 ミントとアクアが止めに入ってきた。それでも私は、知るべきだと思う。


「うん。クゥ、グレンの言うとおり痛みを体験させて」


「良いのね? 後悔しない?」


 ぇ、そんなに辛いことなんだろうか?


『まぁ5分位でいいだろう』


「それで」


「……まぁ、本人が良いと言うなら……」


 クゥはそう言うと、私の後ろに回った。


「行くよ」


 クゥはそう言うと、私の背中を優しくなでた。


 次の瞬間、お腹に激しい痛みが襲ってきた。そして同時に、胸を圧迫しているような息苦しさと激痛にも襲われ、立っていられなくなり、膝をついて左手を地面に置き体を支えた。


『それがあの男が味わっている苦しみだ。変異した細胞はリンパ管を通って他の部位に転移していくんだ』


 グレンが何か言っているのは分かったが、苦しさの方がきつくて、今の私には何を言っているのか分からなかった。


『グレン、今ラミナに言っても無駄だと思いますよ……』


「そうでしょうね……」


『そうか』


 3人がそんなことを話していると、ミントとまん丸が目の前に飛んできた。


『大丈夫~?』


『どう見ても大丈夫とちゃうやろ!』


 目の前でミントとまん丸の漫才を見ていたけど、いつもなら笑ったりできるけど、今は笑える余裕すらなかった。


『無理そうなら、もうやめてもええねんで』


『そうだよ~』


 私は2人の声に対して、力を振り絞ってゆっくり首を振った。


「いっ……」


 首を振るだけでも、胸の辺りに激痛が走った。今出した私の声もかすれていた。


 少しでも体を動かすと痛い。左手で体を支えているため痛みが続く。痛みにこらえながら、ゆっくりと仰向けに体勢を変えた。


 大分楽になった気がするが、冷たく固い地面なのが不快だった。


 5分だけなら耐えよう。この痛みが生きている間ずっと続くのは耐えがたい……。絶望しかないというより、こんな苦しい思いをしてまで生き続けるくらいなら、生きることを諦めたいと思うのも分かった。


 5分という話だったのに、なかなか終わらない……。もう1~2時間くらい苦しんでいると思うんだけど……。


 痛みと苦しみに耐えながら横になっていると、ふと痛みや苦しみがなくなった。


「楽になったでしょ」


 クゥはそう言うと目の前に来て、手を差し出してきた。


 私はクゥの手を取り立ち上がった。


「クゥは感覚共有しているのに、苦しくなかったの?」


 ちょっと疑問に思ったことを聞いてみた。


「こんなことをする前に共有切ったわよ。痛みなんて好き好んで共有するわけないでしょうに……」


「そうだよね……」


 内心ちょっとだけ、“裏切り者!”なんて思った。


『どうだった? 死が救いになる意味が分かったか?』


「うん……。嫌って程分かった……」


『だろう。ラミナがやるべき事は、手遅れになる前に治してやる事だな』


「そうだね……」


 そのためには知識と技術が必要不可欠だ。どちらも身につける場所はあるし、今は少しずつ、目の前の問題を片付けていこう。


 ふと目の前にいるクゥを見て思った。


「クゥ、その制服買ったの?」


「そんなわけ無いでしょうに。自分の魔素で作ったのよ」


 クゥはそう言うと、無表情のまま指をパチンと鳴らした。


 すると今までアカデミーの制服だった服が、ミアンのメイドツキが着ているメイド服に変わった。


「こういうこと」


「へぇ~」


 さらにクゥがリズムよく指を鳴らし始めると、それにあわせてクゥの着ている服が次々と替わっていった。クラシカルなローブ、冒険者風のジャケット、純白のドレスまで一瞬で切り替わっていく様子はまるでファッションショーのようだった。


「ねぇねぇ、私にガウンとかマスクとか用意してくれない?」


「治癒院で他の子が身につけていたので良いのかしら?」


「うん」


「それくらいならいいわよ」


 クゥはそう言うと、指をパチンと鳴らした。そして次の瞬間、足下に畳まれた白いマスクとキャップとガウンが3セット現れた。


 私はクゥが出してくれたセットを拾った。


「それでいいかしら?」


「うん、クゥありがとう」


「いいえ、どういたしまして。サイズが合わなくなったら言ってちょうだい」


「うん」


「用事が終わったなら、私は行くわね」


「ぇ、どこに?」


「仕事によ」


 そういえば冒険者登録して町中のクエストをやっているって言っていたっけ……?


「冒険者として?」


「えぇ。町中の掃除なんて指を鳴らせば出来るし、簡単で良いわよね」


「あれ? ダンジョン内だけじゃないの?」


「コアの魔素が及ぶ範囲であれば、どこでも出来るわよ」


「ぇ、もしかしてさっきの病気を治すことも?」


「それは無理ね。ダンジョン内は私がルールだから出来るだけ。外の世界では通じないわ。単に空間魔法を使用するしか出来ないもの」


「そっか……。そうだよね」


 もしかしてって思ったけど、そんなに都合良く物事は進まないよね。


「クゥ、仕事中に呼んでごめんね」


「構わないわよ。今度どこか行ったら、お土産忘れないでちょうだい」


「あっ、うん」


「じゃあね、ご機嫌よう~」


 そう言うと、クゥが目の前から消えた。


「んじゃ、私達も戻ろっか」


『海鮮丼希望~』


 まん丸からリクエストがあったが、まだ学食やっているのかな?


 寮に戻り時間を見てみると、既に時刻は13時半を回っていた。昼休みは既に終わっているけれど……。


「学食も終わっているよね……?」


『まだやっているよ~。この時間は職員の人がご飯食べていたりするよ~』


「へぇ~、そうなんだ……」


 それは知らなかった。


 教師陣が使っているってことは制服だと目立つし、このまま私服で行けば良いかな?


「んじゃ、学食行こうか~」


『やった~』


 その日は少し遅い昼食をとりに、学食へ向かった。


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