第84話 契約
神経を使ったからか、精神的にどっと疲れた。
「ふ~ん、今の世の中って、さっきみたいなことをして病気を治すのが普通なの?」
『いいえ。そもそも身体を傷つけて治療する手段なんて、今のところは瀉血くらいしかありませんよ』
「え? じゃあ、先のは?」
『ラミナが魔素硬化症の友人を救うための練習なんですよ』
「それで私の力を借りたいってこと?」
『そういうことです』
「ふ~ん、まぁいいわ。契約してあげる」
「いいの?」
「うん。良い暇潰しになりそうだしね」
素直に喜んで良いのか、少し迷ってしまった。
「えっと……名前を付ければいいかな?」
「うん」
空や空間に関係のある名前……。それか、綺麗なストレートロングの白髪と赤い目から連想しても……。思い当たらない。安直でもいいかな。
「クゥとか……?」
我ながら安直だ。他にはハクとかスーとかソラしか思いつかなかった。
「ふ~ん、まぁいいわ」
言葉では呆れたようだったが、クゥの表情はとてもうれしそうに見えた。
「じゃあ、クゥ。よろしくね」
「えぇ、よろしくされてあげる」
ミントたち四大精霊とはまた違った意味で、癖のある子だなぁと思った。
「ちょっと外に出るけど、クゥはどうするの?」
「ん、あんたについて行く」
寮に連れて行ってもいいのかな?
「私、寮暮らしなんだけど……」
「私は入れないの?」
大丈夫なのかな……?
『ラミナのメイドという体にしてはどうですか?』
「あぁ、それなら……」
「メイドね。給仕すればいいの?」
「いやいや、体だからしなくても良いよ」
「そう。まぁいいよ」
クゥはそう言うと、くるっとその場で回った。
回り終えた彼女の姿は、さっきまでの白いワンピースではなく、赤と白の、どこかクラシカルな印象を持つメイド服になっていた。
「どう?」
『ええんちゃう?』
「うん」
「っそ、じゃあ行きましょ」
どこに? どうやって外に出るの?
「どうやって外に出るの?」
私が尋ねると、クゥはエプロンのポケットに手を突っ込み、三枚のカードを取り出した。
「これをラミナにあげるよ。そのカードに魔素を流せば、ここに来られるよ」
三枚とも、表には魔法陣、裏には赤の三角形を基調とした幾何学模様が描かれていた。全部同じに見える。
「全部同じカードに見えるけど」
「そりゃ三枚とも同じだもん」
やっぱりそうなんだ。間違い探しかと思ったけど、違った。
「で、出る方法は……?」
「この部屋に居るときに、そのカードに魔素を流し込んでみなさいな」
クゥの言葉に従ってカードに魔素を流すと、目の前が暗転し、気づけばダンジョン入り口に立っていた。
「ダンジョンに入った場所に戻るわよ」
「寮からダンジョンに入ったら、寮に戻るってこと?」
「そうだよ」
結構便利な気がする。
「他の人もカードに魔素を流せば、さっきの部屋に行ける?」
「来られるよ」
ちょっと寮で休んでから、ヴィッシュとイリーナと一緒にやればまた違う課題が出てくるかな?
とりあえず、いったん寮に戻ろう……。
地下都市を抜けて帝都に戻ってくると。
「ちょっと散歩してくる」
クゥはそう言うと、朝の町に軽やかに踊るような足取りで消えていった。
「なんか自由な子だね。大丈夫かな……?」
『大丈夫ですよ。彼女は空間精霊なんですから、迷子にはなりませんよ』
「そっか……」
私の居る位置も把握してくれることを祈りながら、寮に向かった。
寮に向かいながら気づいた。まだ店が開店していなかった。
「なんかまだお店開いてないね」
『一時間ほどしか経っていませんからね』
「あっ、そうなんだ。練習って、一回あたりどれくらい時間かかっていたの?」
『一回あたり三十分ほどやったで』
「そうなんだ」
それくらいなら、ミアンの負担にもならなさそうだ。
改めて寮に戻り、一休みすることにした。
「面白い」「続きが気になる」「応援する!」と思っていただけたら、
『☆☆☆☆☆』より評価.ブックマークをよろしくお願いします。
作者の励みになります!




