第82話 契約しよう?
透けた女の子の後に付いていくと、先ほどミスリルゴーレムが現れた地点に案内された。
「全員居る?」
女の子に問われ、周囲を確認すると、ミント、アクア、まん丸、グレンが揃っていることを確認して答えた。
「大丈夫」
「そう」
少女がそう答えると、足下に水色の魔方陣が浮かび上がり、次の瞬間、まったく違う部屋にいた。
濃い青のレンガで組まれた広い部屋で、中央には青白く光る大きな魔石があり、足下には何かが流れているような感触があった。
「これがダンジョンコア?」
「そうよ。それで、あなたは何しにダンジョンに来たの?」
少女は私をまっすぐ見つめて言った。
「空間の精霊さんと契約しに来ました」
「へぇ、私と契約ね。私があなたと契約して、何のメリットがあるの?」
目の前にいる透けた少女が、空間の精霊なのだろう。
「えっと、魔素を分けてあげられるよ」
「そんな物、あなたの足下にも流れているでしょ」
ああ、さっきから感じる流れが魔素なのか。
『美味しいご飯が食べられるよ~』
「あなたたちと同じで、食事をする必要はないのだけど」
まん丸の言葉を、少女は感情なくばっさりと切り捨てた。
『ほなら、いろいろな物が見られて気分転換になるで』
「ん~、あまり興味ないわね」
ミントの言葉もばっさり。
『良い暇潰しにはなるぞ』
「ん~、少し興味あるかな?」
ここにいるのは、やっぱり暇なのかな?
『ラーグのように人と共に生きてみるのはどうですか? センターリタの薬草園を管理したり、センターリタの治安を守っているんですよ』
「アイツ、楽しそうだよね」
ラーグというのは誰のことだろうか?
「ラーグって?」
『リタと契約した、センターリタにあるダンジョンコアや。薬草園の管理もやってる精霊やで』
「なるほど……」
人と共に生きることを選んだから、先祖が亡くなった今でもダンジョン内薬草園が成り立っているのだろうか?
「あなたは私と契約して、何をしたいの?」
再び少女から質問が飛んできた。
「今まで治療不可能と言われた病気を治すため、その練習をしたいんです」
「ふ~ん、外の時間と中の時間の時間差を利用したいってとこね」
「それもありますが、私の分身を作れるって聞いたので」
「分身? さっきの話と何が関係するの?」
どう説明したものか……。
『論より証拠、少し広い部屋を用意してもらえますか?』
「ええ、それくらいなら」
少女は無表情のまま指をパチンと鳴らす動作を見せた。空気が一瞬きらめいたかと思うと、視界がふわりと揺れ、先ほどのダンジョンコアとは別の部屋へと移動していた。
「これくらいで良いかしら?」
『えぇ、問題ありません。ラミナの分身と、その分身を寝かせる台を作ってもらっても良いですか? ああ、ちなみに自我は不要です』
「ええ、わかったわ」
再び指を鳴らすと、部屋の中央に今の私と同じ姿をした分身と、横になれる台が現れた。
「これで良いのかしら?」
『ええ、ラミナ』
「うん」
私は分身の服を脱がせていく。下着だけつけていれば良いかな?
『ラミナの分身を寝台に寝かせて貰っても良いですか?』
アクアと空間の精霊の間でどんどん話が進み、準備が整えられていく。
「それくらいなら、指示を出せばその通りにするわよ」
「そこに寝てくれる?」
分身は言われた通り、台の上に横になった。
『それでは、練習の準備をしていきましょうか』
『ラミナ~、砂とか石出して~』
「うん」
鞄からミスリル粒子や石、金属鉱石などを適当に広げていく。
まん丸が台やトレイを作り、グレンは光源となる火の子たちを出していた。
私はナイフやポーションなど、必要になりそうなものを出していく。
着替えを終えると、ミントが寄ってきた。
『カブリトの薬作ろ』
「うん、作り方教えて」
『ええで~』
その後、ミントに作り方を教わりながら、アクアとグレンと一緒にカブリトの麻痺薬を作った。
「これ、どうすればいいの?」
『布にしみこませて口元に当てるんや』
ポケットからハンカチを取り出し、しみこませようとすると──
『ちょっとだけでええで』
「ちょっと?」
『一滴でもええねん』
「そんなに少量でいいの?」
『ええで』
ハンカチを広げ、中央の一角だけを湿らせた。
「これでいい?」
『ええよ』
私は分身の横に移動した。
「口を少し開けてくれる?」
分身が少し口を開けてくれたので、ハンカチの湿らせた部分を口に当てた。
「そういえば、肺につなげる筒は?」
『エリシュの種あるやろ? あれを出しぃ』
一つでいいよね? そう思いながら、鞄の中から一つ取り出した。
エリシュを使うのは、入試以来だろうか?
「これでいい?」
『ええで』
ミントが私の手首にとまり、エリシュの種を成長させていった。
入試の時とは違い、すごく細い状態で伸びていく。
「それをどうするの?」
『こうするんや』
ミントがそう言うと、伸びたツタが渦状に巻き始めた。
『これなら口内で太さを調整できるやろ』
締め付けたり緩めたりして、自在に太さを変えられるようだった。
「なるほど」
気づけばまん丸が、私と同じくらいの身長のゴーレムになっていた。
これで呼吸の方はなんとかなるのだろうか?
『そろそろ意識がなくなりますよ』
カブリトの根の成分が分身に染み込み、アクアが分身の状態を教えてくれた。
「んじゃ、皆よろしくね」
『OK~』
『はい』
『おう!』
『ほ~い』
四人の返事を聞いて、ふと思った。
「自分で呼吸することができなくなったら、どうするの?」
自発呼吸がなくなれば、筒があっても意味がない気がした。
『そういえばそうでしたね。すみません、もう一体出してもらっても良いですか?』
アクアが空間の精霊に依頼した。
「ん~、私がやってあげるよ」
少女は無表情のまま淡く光り出し、光が徐々に収束していく中、空気が澄んでいくような錯覚を覚える。次の瞬間、白いワンピースに身を包んだ赤い目と白髪の美しい少女が現れた。
「で、何すれば良いの?」
『呼吸が止まったら、その筒に息を吹き込んで、離してを繰り返してください』
「わかったわ。人が呼吸しているようにすれば良いのね」
『ええ、その通りです』
アクアが代わりに説明してくれた。
『意識がなくなりましたね、エリシュのツタを』
アクアの合図と共に、自発呼吸が徐々に弱くなっていく。
『そのまま口元に持ってって』
「うん」
分身の口元に持っていくと、ツタが細くなり口内に入りやすい状態になり、口へと吸い込まれていった。
『ええで』
ツタの太さを調整してくれたのだろう。
「お願いします」
「ええ」
少女はエリシュの筒の端を受け取ってくれた。
「グレン」
『あぁ』
これで第1段階が終わった。
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