第80話 ダンジョンの謎?
地下水路から出ると、お腹が“ぐぅ~~~”と鳴った。
「一回家に帰ろうか……」
『せやな』
自宅へ向かっていると——
『お肉~お肉~』
まん丸がルンルン気分で肉を要望してきた。
「まん丸ごめん、朝からお肉を食べる気になれないかも……」
『ぇ~~!?』
「お昼で良いかな……」
『しかたないなぁ~、いいよ~』
朝からお肉は避けることができたものの、何を食べるかはまだ決まっていない。
「ん~どうしようかな」
さすがに朝早いせいか、露店も開いていなければ営業している店も見当たらなかった。
『そういえばキラベルに向かわれますか?』
「うん、そのつもりだよ」
『今から行けばキラベルのお店とか開いていると思いますよ』
空腹なのに走るの!?
「ぇ~、今お腹すいているんだけど……」
『まだ店も開いてないが、どうするんだ?』
うーん……。鞄の中にはすぐに食べられるものはほとんどなく、薬草類や素材ばかり。先週取ったオークの肉や昨夜の肉など、調理前提のものしかなかった。
「道中で何か軽く食べられる物とかないかな……」
空腹のまま走るのは、正直つらい。
『道中で軽く食べられるものですか……』
「うん」
『レイムマッシュはどないやろ?』
「レイムマッシュ?」
『帝都北部の森で取れる茶色いキノコやで』
キノコなら軽く済みそう。
「じゃあ、それを食べてからキラベルに行こうか」
『それでしたら、ここからですと海岸の方からが早そうですね』
『せやな』
帝都北部の海岸へ出て、左側にある森の中へ入った。
「どこにあるのかな?」
『こっちや』
ミントの後についていくと、大きな傘のようなキノコが複数見つかった。
「大きいね」
傘の部分は、両手を広げたくらいの大きさがある。
『せやろ、簡単に焼いて食べられるで』
「そうなんだ」
とりあえず二つだけ採って、砂浜に戻った。
「これ、そのまま焼けば良いのかな?」
『鞄の中に岩塩あるやろ? 軽く焼いてまぶせば旨いで』
「そうなんだ、グレン、お願いしていい?」
『あぁ、そのまま焼くのか? 串かなんかに刺した方が良くないか?』
「あ、そうだね」
近くの木の枝を折ってキノコを刺し、焼いてもらった。
串が燃えるか心配だったが、それは杞憂に終わった。
軽く焼いた後、鞄から岩塩を取り出し、少しだけ砕いてキノコにまぶし、口に運ぶ。
噛むと、キノコの旨味がじわりと口いっぱいに広がった。
「おいしい」
『おいしいね~』
『せやろ~、この森、結構旨いもんがあるで』
「そうなんだ」
キノコをゆっくり味わいながら、ふと疑問が浮かぶ。
「ねね、ダンジョンコアと契約したら何が出来るの?」
『何でも出来るんじゃないかな~?』
「なんでも?」
『あぁ、ダンジョン内はコアが絶対的存在だからな』
「絶対的な存在?」
『あぁ、ダンジョンはダンジョンコアが作り出した世界なのは分かるな?』
「うん、それは分かる」
『魔素を使ってありとあらゆる物を作ることが出来るんだよ』
ありとあらゆる物……?
「ぇ? それって、物語に出てくる剣とか万病に効く薬とか?」
『剣は出来るだろうが、万病に効く薬はどうだろうな。近い物は出来そうだが』
『そうですね。すべての病が同じ成分で治せるわけではないので、難しいと思いますよ』
「そっか」
でも、“何でも作れる”という部分が気になって仕方ない。
「ねね、私の分身を作ること出来るのかな?」
『それくらい簡単だろ』
「その分身って意思を持って動き回るのかな?」
『それも簡単だと思いますよ』
……これって、キラベルまで行かなくても良いんじゃ!?
「んじゃ、ダンジョン内に手術の練習をする場所を作るのも出来るよね?」
『あぁ、なるほど。ダンジョン内で手術の練習をするのか』
「うん、1時間で1週間分の練習が出来るなら、そっちの方が効率良いよね」
『そやな。そしたら、これからダンジョン攻略すん?』
「うん、そうしようか」
ふと、前回の救助の際のことを思い出す。砕けた魔石しか見なかったけれど、他の人たちは何を求めてダンジョンに行っているのだろう?
「ねね」
『何~?』
「この前ダンジョン行ったとき、人がいっぱい居たけど、何を求めてダンジョンに行くの? 前に行ったときは、道中は魔石以外は見なかった気がするんだけど……」
『素材だよ~』
「素材?」
『ダンジョン内の魔物を倒せば、その魔物を倒した際に得られる素材をドロップするんだ』
「ん? 素材?」
前回は魔石しか見ていない。でも、色々落ちたのはボス戦くらいだった気がする。
『あぁ、確実にドロップするという訳でもないが、解体する手間もなく素材が落ちるんだよ』
『素材以外にも、素材を加工した物もドロップするんですよ』
「加工した物?」
『せやで、ドラゴン倒したらドラゴンの牙や骨で作られた“ドラゴンキラー”って剣を落としたりするんや』
「へぇ、そういう物を目指して潜っているんだ」
『そういうことだ。さっきミントが言った“ドラゴンキラー”なんかは高値で取引されているようだからな』
「へぇ、一攫千金目指して行くんだ」
『そうだよ~。下層に行けば行くほど良い物が落ちるんだ~』
「はぁ、この前は道中魔石だけだったのはたまたま?」
『倒した主がその場を離れると、ダンジョンに吸収されるんだよ。じゃないとゴミだらけになるからな』
「あぁ、そうなんだ。魔石が残っていたのは?」
『俺らの意思をくみ取ったからじゃないか?』
アクアとグレンの意思をくみ取ったのか。同じような存在だから……?
「そっか」
とりあえず、今日はキラベルではなくダンジョン攻略に決めた。
ダンジョンに向かおうとしたとき——
『食材持って行かないんですか?』
「あ~そうだね」
前回は3日ほど寝泊まりしていた記憶がある。
「1ヶ月分くらいあれば十分かな?」
『それくらいあれば十分でしょ』
まだ帝都内のお店が開いていない。ならば、森の中で採れる食材を集めていけばいい。
「ミント、さっき言っていた森の中で取れる食材、教えてくれる?」
『ええで、こっちや』
その後、森の中で取れる木の実やキノコ類を中心に採取していった。
『せや、カブリトの根どないする?』
ダッドマッシュルームの代わりになる薬素材だし、確保しておこう。
「近くにあるの?」
『あるで』
ミントはそう言うと、近くの地面に降りた。
『これや』
一本の草を指差す。ピンク色の茎に赤紫の葉。見るからに派手な植物だった。
「なんかすごい派手だよね……」
『せやろ、魔物も動物もこいつを食べるのを避けるんや』
なるほど、カブリトなりの生存戦略か。
近くに生えているカブリトを数本採取。
その後も、ミントの勧めで木の実やキノコ、草などを順調に集めていく。
「これだけで1ヶ月分になるかな?」
『少し足りないようですが、魚でも持って行きますか?』
「海の魚?」
『えぇ』
「お願いしていい?」
『いいですよ。ちょっとしたら海岸の方に来て下さいね』
「うん」
森の恵みをもう少し採取してから海岸へ向かうと——
砂浜には、私の身長と大差ないほどの大きな魚が数匹、氷漬けにされていた。
「なんか大きいね……」
『デビルボニート。この辺りの海では大型の魔物ですね』
「そうなんだ。そのまま入れちゃって大丈夫?」
『えぇ、問題ありませんよ』
『せやけど、食べるなら皮をうまく剥がなあかんで~。脂のってて、焼きでも煮ても絶品やで!』
『刺し身もおいしいんだ~! 前に一口だけ食べたことあるけど、トロッとしててすごく美味しかった~!』
「へぇ、そんなにおいしいんだ……じゃあ、楽しみに取っておこうかな」
デビルボニートを鞄の中に収納し、ダンジョンへと向かった。
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