第8話 魔法と精霊魔法
アクアから、思いがけない提案があった。
『魔法の練習をしてみませんか?』
「えっ、魔法って……私にも使えるの?」
驚いて聞き返すと、アクアは静かに頷いた。
『ええ。魔素の量や、先天的な性質によって差はありますが、実は生まれた日によって適性のある属性が決まっているのです』
「生まれた日で、属性が決まるの?」
『そうです。ラミナは"光・火・水・木・風・土・闇"という周期で日が巡っているのを知っていますか?』
「うん、知ってるよ。農家だからあまり意識してなかったけど、週の流れとしては知ってる。土と闇の日は週末で学校もお休みだし」
『そのとおりです。何曜日に生まれたかによって、得意な属性が定まっているんです』
なるほど……。でも、私は神父様から「魔法は特別な人しか使えない」って聞いていたはずだけど……。
「神父様からは、"一部の人しか使えない"って聞いたけど……?」
『実際のところ、使えない人のほとんどは、魔素が極端に少ないか、ほとんどないだけなんです。練習すれば、多くの人がある程度は使えるようになりますよ』
「そうなんだ……」
なんだか、すごく身近なものに思えてきた。
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『なぁアクア、それやったら、ウチらがおるのにわざわざ魔法の練習する必要あるん?』
ミントがぴょこんと跳ねながら口を挟む。
『まあ、"いざという時"のためですね。私たちが離れていたり、力を貸せない時に備えておいた方が安心ですから』
「ミントやアクアがいる時と、いない時で……そんなに違うの?」
『そこ、ちゃんと説明した方がいいですね』
アクアがふわりと飛んで、私の肩に止まった。
『魔法は、本来"詠唱"によって魔法陣を展開し、そこから魔法が発動します。でも、私やミントのような大精霊が一緒にいる場合——詠唱は必要ありません。直接、精霊魔法として発動できるんです』
「……つまり、アクアやミントが"詠唱"や"魔法陣"の代わりをしてくれるってこと?」
『その通りです。魔法陣は、詠唱によって形と効果が決まります。同じ魔法でも、詠唱が違えば別の魔法になるんですよ』
「へぇ……。じゃあ、精霊魔法の方が強いの?」
『どうでしょうね? 精霊魔法は発動が早くて応用も効きますし、契約している精霊の特性によって使える魔法の幅も広がるので——総合的には有利かもしれませんね』
「そっか……。つまり私は、水と植物、両方の精霊魔法が使えるってことになるの?」
『そういうことです』
自分の手で魔法を使えるなんて、考えただけで胸が躍る。
「よし、じゃあやってみたい!」
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『それでは、外に出ましょうか』
アクアがくるりと一回転して、窓からふわりと飛び出していった。
私も玄関を開けて、家の前へと出る。
『ここで大丈夫そうですね。それではまず——水魔法の基本、"ウォーターボール"から始めてみましょう』
「はい!」
『ラミナ、手のひらを上に向けて、ゆっくり広げてください』
「うん」
私はアクアの言うとおりに、右手のひらをそっと上に向ける。
すると、アクアがふわりとその上に舞い降りた。
『まずは、精霊魔法としてのウォーターボールを見せますね』
次の瞬間、アクアの周囲に水の粒が集まり、直径10センチほどの水の球が出現。それがスッと宙を滑るように飛び、近くの木の幹にぶつかって弾けた。
「わっ、今のが……ウォーターボール?」
『はい、それでは次に——ラミナ自身の魔法として、発動してみましょう』
アクアはふわりと私の肩へと移動する。
『これから私が詠唱を言いますので、真似してみてください』
「うん、わかった」
『"水よ集いて玉となせ——ウォーターボール!"』
「水よ集いて玉となせ——ウォーターボール!」
私が言葉を放った瞬間——
手のひらの上に、淡く光る水色の魔法陣のような紋様が一瞬だけ浮かび、すぐに小さな水の球が現れた。
それは、ほんの1センチほどの小さな水玉だったけれど、確かに、私自身の力で魔法が発動したのだ。
「ちっさ……!」
思わず声が漏れた。
『魔法陣がちゃんと出たんですから、十分です。ラミナ、才能ありますよ』
『ほんまやで。ウチらがおるとはいえ、初回でちゃんと出せるのは、なかなかやで』
「そうなの? これ、どうすればいいの?」
『そのまま飲んでもええし、ポイッと投げてもええよ』
「えっ、飲めるの!?」
『飲めるで。この水は、ラミナの魔素と、空気中の水分から生まれたもんやからな』
『似た魔法で、"水よ集え、クリエイトウォーター"っていうのもありますよ。水がないときに便利です』
なるほど、魔法で水を作れるなんて、旅に出たときなんかに役立ちそうだ。
「へぇ、便利そうだね……」
『器がないと、地面に吸われてまうけどな』
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『マジックポーションもあるし、もうちょっと練習してみましょうか?』
「うん、やってみる!」
その後、私はウォーターボールを5回唱えて、魔素が減ったところでマジックポーションを飲む。そしてまた5回唱えて……を繰り返してみた。
でも、あまり効果は実感できなかった。出てくる水玉は相変わらず小さくて、ミントの言うように"ちっさ!"というレベルだ。
『イメージが弱いですね。最初に私が見せたウォーターボールを、はっきり思い浮かべてください。あの木の幹を、へし折るくらいの力で、って感じで』
「うん、やってみる!」
私は目を閉じ、木が折れるほどの力強い水球をイメージする。
(もっと……もっと大きくて、重くて、勢いのある水の玉……)
「水よ集いて玉となせ——ウォーターボール!」
目を開けると、手のひらの上には、さっきより少しだけ大きな水球が浮かんでいた。
「……ちょっとだけ大きくなった?」
『まぁまぁ、初日やし、そんなもんやで』
『そうですね。魔法もポーション作りと同じで、少しずつ慣れていけばいいんです』
「うん、わかった。これから、時間を見つけて少しずつ練習していくよ」
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その日はそれで魔法の練習を終え、私は家に戻ってポーション作りに励むことにした。
ミントとアクア、ふたりの精霊がそばにいてくれる今——できることは、少しずつ増えている。
新しい技術を覚えるたびに、私の世界は広がっていく。そして何より、もう二度と、大切な人を失うような無力感を味わいたくないという想いが、私を前へ進ませ続けていた。
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