表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/233

第8話 魔法と精霊魔法

 アクアから、思いがけない提案があった。


『魔法の練習をしてみませんか?』


「えっ、魔法って……私にも使えるの?」


 驚いて聞き返すと、アクアは静かに頷いた。


『ええ。魔素の量や、先天的な性質によって差はありますが、実は生まれた日によって適性のある属性が決まっているのです』


「生まれた日で、属性が決まるの?」


『そうです。ラミナは"光・火・水・木・風・土・闇"という周期で日が巡っているのを知っていますか?』


「うん、知ってるよ。農家だからあまり意識してなかったけど、週の流れとしては知ってる。土と闇の日は週末で学校もお休みだし」


『そのとおりです。何曜日に生まれたかによって、得意な属性が定まっているんです』


 なるほど……。でも、私は神父様から「魔法は特別な人しか使えない」って聞いていたはずだけど……。


「神父様からは、"一部の人しか使えない"って聞いたけど……?」


『実際のところ、使えない人のほとんどは、魔素が極端に少ないか、ほとんどないだけなんです。練習すれば、多くの人がある程度は使えるようになりますよ』


「そうなんだ……」


 なんだか、すごく身近なものに思えてきた。


---


『なぁアクア、それやったら、ウチらがおるのにわざわざ魔法の練習する必要あるん?』


 ミントがぴょこんと跳ねながら口を挟む。


『まあ、"いざという時"のためですね。私たちが離れていたり、力を貸せない時に備えておいた方が安心ですから』


「ミントやアクアがいる時と、いない時で……そんなに違うの?」


『そこ、ちゃんと説明した方がいいですね』


 アクアがふわりと飛んで、私の肩に止まった。


『魔法は、本来"詠唱"によって魔法陣を展開し、そこから魔法が発動します。でも、私やミントのような大精霊が一緒にいる場合——詠唱は必要ありません。直接、精霊魔法として発動できるんです』


「……つまり、アクアやミントが"詠唱"や"魔法陣"の代わりをしてくれるってこと?」


『その通りです。魔法陣は、詠唱によって形と効果が決まります。同じ魔法でも、詠唱が違えば別の魔法になるんですよ』


「へぇ……。じゃあ、精霊魔法の方が強いの?」


『どうでしょうね? 精霊魔法は発動が早くて応用も効きますし、契約している精霊の特性によって使える魔法の幅も広がるので——総合的には有利かもしれませんね』


「そっか……。つまり私は、水と植物、両方の精霊魔法が使えるってことになるの?」


『そういうことです』


 自分の手で魔法を使えるなんて、考えただけで胸が躍る。


「よし、じゃあやってみたい!」


---


『それでは、外に出ましょうか』


 アクアがくるりと一回転して、窓からふわりと飛び出していった。


 私も玄関を開けて、家の前へと出る。


『ここで大丈夫そうですね。それではまず——水魔法の基本、"ウォーターボール"から始めてみましょう』


「はい!」


『ラミナ、手のひらを上に向けて、ゆっくり広げてください』


「うん」


 私はアクアの言うとおりに、右手のひらをそっと上に向ける。


 すると、アクアがふわりとその上に舞い降りた。


『まずは、精霊魔法としてのウォーターボールを見せますね』


 次の瞬間、アクアの周囲に水の粒が集まり、直径10センチほどの水の球が出現。それがスッと宙を滑るように飛び、近くの木の幹にぶつかって弾けた。


「わっ、今のが……ウォーターボール?」


『はい、それでは次に——ラミナ自身の魔法として、発動してみましょう』


 アクアはふわりと私の肩へと移動する。


『これから私が詠唱を言いますので、真似してみてください』


「うん、わかった」


『"水よ集いて玉となせ——ウォーターボール!"』


「水よ集いて玉となせ——ウォーターボール!」


 私が言葉を放った瞬間——


 手のひらの上に、淡く光る水色の魔法陣のような紋様が一瞬だけ浮かび、すぐに小さな水の球が現れた。


 それは、ほんの1センチほどの小さな水玉だったけれど、確かに、私自身の力で魔法が発動したのだ。


「ちっさ……!」


 思わず声が漏れた。


『魔法陣がちゃんと出たんですから、十分です。ラミナ、才能ありますよ』


『ほんまやで。ウチらがおるとはいえ、初回でちゃんと出せるのは、なかなかやで』


「そうなの? これ、どうすればいいの?」


『そのまま飲んでもええし、ポイッと投げてもええよ』


「えっ、飲めるの!?」


『飲めるで。この水は、ラミナの魔素と、空気中の水分から生まれたもんやからな』


『似た魔法で、"水よ集え、クリエイトウォーター"っていうのもありますよ。水がないときに便利です』


 なるほど、魔法で水を作れるなんて、旅に出たときなんかに役立ちそうだ。


「へぇ、便利そうだね……」


『器がないと、地面に吸われてまうけどな』


---


『マジックポーションもあるし、もうちょっと練習してみましょうか?』


「うん、やってみる!」


 その後、私はウォーターボールを5回唱えて、魔素が減ったところでマジックポーションを飲む。そしてまた5回唱えて……を繰り返してみた。


 でも、あまり効果は実感できなかった。出てくる水玉は相変わらず小さくて、ミントの言うように"ちっさ!"というレベルだ。


『イメージが弱いですね。最初に私が見せたウォーターボールを、はっきり思い浮かべてください。あの木の幹を、へし折るくらいの力で、って感じで』


「うん、やってみる!」


 私は目を閉じ、木が折れるほどの力強い水球をイメージする。


 (もっと……もっと大きくて、重くて、勢いのある水の玉……)


「水よ集いて玉となせ——ウォーターボール!」


 目を開けると、手のひらの上には、さっきより少しだけ大きな水球が浮かんでいた。


「……ちょっとだけ大きくなった?」


『まぁまぁ、初日やし、そんなもんやで』


『そうですね。魔法もポーション作りと同じで、少しずつ慣れていけばいいんです』


「うん、わかった。これから、時間を見つけて少しずつ練習していくよ」


---


 その日はそれで魔法の練習を終え、私は家に戻ってポーション作りに励むことにした。


 ミントとアクア、ふたりの精霊がそばにいてくれる今——できることは、少しずつ増えている。


 新しい技術を覚えるたびに、私の世界は広がっていく。そして何より、もう二度と、大切な人を失うような無力感を味わいたくないという想いが、私を前へ進ませ続けていた。

読んでくれてありがとうございます!


「面白い!」「続きが気になる!」「応援したい!」と思っていただけたら、

作品ページ上部の【☆評価】【ブックマーク】、そして【リアクション】ボタンをポチッと押していただけるととても励みになります!


みなさんの応援が、次回更新の原動力になります。

引き続きよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ