第79話 事件解決へ
翌朝、目を開けるとグレンの顔が目の前にあった。
「うわぁ!」
私が起き上がると同時に、グレンは私から飛び退いた。
『驚かすなよ』
「いや、こっちの台詞だし!」
『せやから言うたやん』
グレンに対してミントが忠告してくれていたようだった。
『だがなぁ、まぁいい。例の犯人、どうする?』
グレンは犯人を捕まえたいのかな?
「どうしたいの?」
『相応の罰を受けるべきだろう』
『それは私も同感ですね』
アクアとグレンは犯人をどうにかしたいらしい。
ミントの方を見ると、
『2人に任したらええんちゃう?』
ん~、まぁなんとかしてくれれば町の平和が戻るから良いんだけど。
「2人に任せるけど、どうするの?」
『燃やすか?』
『いえ、氷漬けにして詰め所に突き出しましょう』
犯人を殺すこと前提になってる!?
「犯人、殺すの?」
『それしかないやろな』
『影渡り持ちは簡単に逃げられるからな』
『スキルを使わせない方法なんてありませんしね』
「そっか……」
それなら仕方ないのかな。
「じゃあ氷漬けにしてくれる? 私は衛兵の人と一緒に犯人の居るところに向かうよ」
死亡確認してもらうには、燃やすよりはそちらの方が良いだろう。
『分かりました。私は先に向こうに行っていますね』
『じゃあ俺が案内だな』
それって今すぐ動けってことかな?
そう思った時には、既にアクアが外に出て行っていた。
とりあえずベッドから出て身支度をしてから、衛兵の詰め所に向かうために家を出た。
「詰め所ってどこ?」
『西門の横にでも行けばええんちゃう?』
「そっか」
ミントの言うとおり、西門にある詰め所へ向かった。
町中を見守っている衛兵の人のもとへ行くと、
「あれ? 君は……」
どこかで見た気がする。
「あの、精霊さんが夕べの犯人を捕まえた? らしいんですけど」
「精霊さん? 夕べの犯人?」
「ジャックって人」
「あぁ、例の通り魔の件か。って、捕まえたの?」
「多分?」
『既に氷漬けになっているから問題ないぞ』
「あっ、氷漬けにしてあるみたいです」
「“みたいです”って……君がやったんじゃないの?」
「いえ、私じゃなくて精霊さんが……」
「うん? まぁいいや。君の名前は?」
「ラミナです」
「ラミナちゃんね、とりあえず仲間を呼んでくるよ」
「はい」
衛兵の人は近くの扉の中に入っていった。
しばらく待っていると、5人の兵隊が出てきた。
そのうちの1人が私の方を見た。
「あれ? 夕べの子」
「夕べの衛兵さん?」
昨夜の遅い時間も働いていたのに、こんな朝早くから働いているのか。内心“お疲れ様です”なんて思った。
「そういえば、君、有名人なんだね」
「ぇ?」
「私ね、この格好しているけど騎士科の7年生なんだ」
7年生ってことは卒業年度か。
「ぇ? そうなんですか?」
騎士科ってことはハンゾーと一緒?
「うん。今はね、いろいろな場所で就労体験させてもらっているんだ」
「あっ、そうなんだ。もしかしてハンゾー先輩と?」
「そうだね。君のことを聞いたのはミラちゃんだけどね」
ハンゾーからではなく、ミラから聞いたのか。
「知り合いなんですか?」
「基礎学級の時にクラスメイトだったよ」
「あ~なるほど」
雑談していると、5人の中の隊長と思われる男性がこっちに来た。
「リンダ」
「っは! すいません!」
「ラミナ君と言ったかな? 私は帝都第2守備隊のリーングレットだ。ジャックの元に案内してもらえるかい?」
「はい。グレン、お願い」
『あぁ、任せろ』
グレンの案内のもと帝都内を歩いていると、スラム街とまではいかないが、崩れかかった建物が多い一角まで来た。
「下級民のエリアか……」
私のすぐ後ろを歩いているリーングレットがつぶやいた。
「下級民って?」
「スラム民とまではいかないが、その日暮らしをしている者たちが多く住む場所だな」
「そうなんだ……」
そういう人たちがいると聞くと、自分がいかに恵まれているかが分かる。
『ここだ』
グレンが案内した場所は、壁が一部崩れ落ちている建物だった。
「ここみたいです」
「わかった。君は下がっていたまえ」
リーングレットに後ろに下げられたので、私は衛兵たちのやりとりを後方から見守ることにした。
リーングレットがそっと扉を開けて中に入ると、それに続いて他の隊員たちも入っていった。
私はそのまま外で待っていた。
しばらくすると、リーングレットが出てきた。
「誰もいないんだが、ここじゃないのか?」
『そりゃ隠し階段の先にある地下にいるからな』
「地下にいるみたいですよ」
「地下? 降りる階段なんかあったか?」
「いえ、ありませんでした」
「あ、隠し階段って言っています。グレン」
入り口付近に移動すると、グレンが指を差しながら言った。
『そこだよ』
グレンが指さしたのは、入ってすぐの場所にある壁だった。
「ん?」
入り口付近にいる衛兵を押しのけて中に入った。
グレンの指さす壁に触れると、感触がなかった。
「ぇ?」
押してみると、壁の中に腕が吸い込まれていく。
「何これ……」
『幻影の魔道具だ。特定の幻影を見せる道具だな』
「そうなんだ」
壁の中に入ると、地下に続く階段があった。
「こっちです」
再びグレンが先導し、地下に降りて通路を進んだ。
「地下通路か……」
しばらく進むと、水路が現れた。
「下水路ですか。ブロウンラットの襲撃に備えろ!」
ブロウンラット?
「「「「ッハ!」」」」
グレンは先導しながら、あちらこちらを指さしているようだった。
さらにグレンの動きを注視していると、指さした先に一瞬だが火の手が上がっていることに気づいた。
「ネズミ退治しているの?」
後ろの衛兵たちに聞こえないよう、小声で聞いた。
『それくらいはな。もうすぐ着くぞ』
グレンがそう言うと、何もないところで立ち止まった。
そして右にある壁に手を当てると、レンガの壁から火の手が上がり、燃えた箇所のレンガが崩れ落ちた。
崩れ落ちた壁の奥には大きな空洞があり、中央近くに考えるようなポーズをした氷像となったジャックと、そばに佇むアクアがいた。
『遅かったですね』
『すまんな』
なぜグレンが謝るのだろうか。
「こいつは……」
崩れた壁から中に衛兵たちが入っていくのを、私は見送った。
「ラミナ君、氷を溶かしてもらうことはできるかい?」
「はい」
私の返事に合わせてアクアが力を解くと、ジャックの体が崩れ落ちた。
「すまない」
「いえ」
私がやったことじゃないし……。そう思っていると、アクアが手元に戻ってきた。
「お疲れ様」
『ありがとうございます』
衛兵たちが部屋の中をあちこち調べていた。
しばらくすると、リーングレットがこっちに来た。
「間違いなく手配中のジャックだと分かった。君は帰れるようなら帰っても構わない」
「あっ、じゃあ帰ります」
「分かった。後日詰め所まで来てくれ。報酬を渡そう」
「報酬?」
「あぁ、こいつは高額の賞金首だからな」
「あぁ~なるほど……。それじゃあ、火の日にでも行きます」
「わかった。それまでに準備しておこう」
「お願いします」
「あぁ、気をつけてな」
「はい」
私は衛兵たちと別れ、地上へと戻った。




