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神様と呼ばれた精霊医 ~その癒しは奇跡か、祝福か~ 【原作完結済】  作者: 川原 源明
第1章 はじまりの村

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第7話 水の大精霊

 翌朝——。


 目を覚ますと、目の前にはミントがふわりと浮かんでいた。淡い緑の光をまとい、朝の光の中できらきらと輝いている。


「ミント、おはよう~」


『おはよさん。よぉ眠れたか?』


 私は軽く伸びをしてから、身支度を整え、机の上に置かれていた朝食を手早く食べた。パンとスープ、それに昨日のスタミナポーションも忘れずに飲む。


「おばあちゃん、もう畑に出てるのかな?」


『せやで、朝一番から行ってはるわ』


「じゃあ、ちょっと手伝ってくる」


『……何を?』


 ミントの言葉に首をかしげた。


「え? 畑の病気チェックとか、草むしりとか?」


『うちら精霊がおる畑は、病気にならへんしなぁ。そもそも、種まいたら収穫までほっといても平気やで』


「えっ……そんなに手間いらずなの?」


『せや。だからおばあちゃんも他より楽できとるんよ』


「じゃあ……地下水路、行ってみようか」


『そやな、ウンディーネの居場所、確かめてみよ』


「その前に、おばあちゃんに一言言ってくるね」


『うん、それがええ』


---


 私は家を出て、畑で作業している祖母を見つけて駆け寄る。


「おばあちゃん~! 畑の手伝い、大丈夫そう?」


「大丈夫だよ~。いつも通り元気に育っとるからねぇ」


「昨日言ってた地下水路、行ってきてもいい?」


「いいよ、気をつけて行っといで」


「ありがとう! 行ってくる!」


『瓶も忘れんといてな』


「あっ、そうだ!」


 私は慌てて家に戻り、昨日イアンからもらった瓶をカゴに入れ直すと、村長宅の裏手にある地下水路へと向かった。


---


 小さな洞穴の入り口をくぐると、ひんやりとした空気が肌を撫でた。その中で、水色の光の玉たちが無数に舞っている。


「……これ全部、水の精霊?」


『せや。奥に進むほど、濃くなっとるやろ? きっと、おるで』


 ミントの言葉に頷き、私は静かに洞窟の奥へと足を進めた。


 すると——そこに、澄んだ青い光をまとった、小さな女性の姿が現れた。ミントと同じくらいのサイズで、しかし姿は少し違う。下半身は魚のような尾になっており、手には細身の三つ叉の槍を携えていた。


『アオイ、久しぶりやな』


『ええ、本当にお久しぶりですね』


 優しい声だった。彼女はミントの隣にふわりと並ぶと、穏やかに私を見つめた。


「えっと……はじめまして。私はラミナです」


『はじめまして、ラミナ。私は水の大精霊です。あなたのご先祖様には、"アオイ"という名をいただいていましたが——もしよければ、新たな名前をいただけますか?』


「それって……契約してくれるってことですか?」


『もちろんです。そのために、私はずっとここで待っていたのです』


 ずっと——待っていた?


「……私が精霊使いになるのを、知ってたんですか?」


『ええ、知っていましたよ』


 その言葉に思わず、隣のミントを見た。


『せやな。ラミナが生まれたときから、精霊使いもらうことは決まっとったんやで』


「……そうだったんだ……」


 思っていた以上に、運命のようなものに導かれていたのかもしれない。


---


 ——さて、名前をつけなくちゃいけない。


 青や水を連想させて、きれいで優しい響きのある、そんな名前……何がいいだろう?


 必死に頭を回転させるも、なかなか良い名前が思いつかない。


 けれど、ただ一つ——なぜか頭の中にふと浮かんできた言葉があった。それがどんな意味を持つのかはわからなかったけれど、口にしてみることにした。


「意味は分からないけど……"アクア"はどうかな? なんだか、頭の中に浮かんできたんです」


『それ、アヴェーニュ地方でよく使われる言葉やで。魔法の詠唱でも、"水"の意味として出てくるんよ』


 ミントが解説してくれた。


『そうですね。ラミナ、ありがとうございます。私の名は"アクア"です』


 青い光をまとった彼女——アクアが、優しく微笑んでそう言った。


「アヴェーニュ地方って……?」


『リタの故郷がある場所ですね。ここから、そう遠くないところです』


 そうか……これは、私のご先祖さまがくれたヒントだったのかもしれない。


「そうなんだ……」


『契約も終わったし、水を汲んで帰ろか?』


 ミントの声にうなずく。


『そうですね』


 私はカゴをおろし、中から瓶を取り出すと、そっと水をすくった。


---


 帰り道——。


『ところで、ラミナ。汲んだ水って何に使うの?』


『ポーション作りやで』


『なるほど……でしたら、私がいるなら、どこの水を使っても問題ありませんよ』


「えっ、そうなの?」


『せやで。アクアがその場で、各ポーションに最適な水に変えてくれるんや』


『それくらいは、得意分野ですから』


「すごい……!」


 私は思わず声を漏らす。


『アクアは、水を油に変えたりもできるからな~』


「えぇっ!? そんなことまでできるの?」


『ええ。もちろん、大きな変化には相応の魔素が必要になりますけどね』


「ミントも、なにかすごいことできるの?」


『ん~。ウチは、植物を別の植物に変えたりとかできるで。種から薬草にするとか、そういうやつや』


 それって、地味だけどすごい——!


『まあ、今のラミナの魔素やと、まだ無理やけどな~』


「そっか……。種から収穫まで育てられるようになったら、できるようになるのかな」


『ところでラミナ。体内魔素の保有量を増やすために、今どんなことしてるんですか?』


『麦の実を育ててんねん』


『……なるほど。でも、それってちょっともったいないかもしれません』


「えっ、なんで?」


『悪いことじゃないんです。ただ、もしよければ——その魔素、私たちに少し分けてくれませんか?』


「えっ?」


『私たち大精霊は、受け取った魔素をある程度蓄えることができます。だから、いざという時に、必要な分を返してあげられるんですよ』


『せやな~。せっかくやし、交代で受け取るのがええんちゃう?』


「うん、それなら全然いいよ」


『じゃあ、今夜はウチやなくて、アクアがもろてもええ?』


『ええ、ありがとう。助かります』


 ミントは明るく、アクアは丁寧で真面目——


 二人のやり取りを聞きながら、思わず笑みがこぼれた。


---


 家に戻った私は、残っている薬草を使って、ポーション作りに取りかかった。


 水を注ぐ時、アクアが瓶の口にふわりと乗り、そのまま何かをしていたけれど——それが何なのかは、私にはよくわからなかった。


「……あ、もう瓶が足りないね」


『せやなぁ~。次にイアンさん来たら、また補充してもらわな』


『マジックポーションもあることですし、せっかくなら——魔法の練習でもしてみては?』


「えっ、魔法……?」


 思いがけない提案に、私は目を丸くした。

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