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第62話 精霊達の可視化

 ミラが座るように促す。


「空いてるとこに座んなよ~」


 ミラの明るい声が響くけど、さすがに先輩方四人を前にして緊張してしまい、私は少し縮こまってしまった。


「ラミナ、こっちです」


 ミアンに促されるまま、空いていた席にそっと腰を下ろす。


 私の右側にはミラ、その隣にハンゾー、ロック、プリム、そして私の左にミアンが並ぶ形で座っていた。


 ……そういえば、まだご飯買ってなかったんだけど。


「ラミちゃん、ハンゾーの弟子になったんだってね~」


 そんな話まで広がってるんだ、と少し驚きながらも返事を返す。


「え、あ、うん」


「今日の夜から私も行くのでよろしくね~」


「ぇ?」


「組み手の相手は自分がやるよりも、同性のミラがやった方が良いだろと思ってな」


「なるほど……」


 ハンゾーなりの配慮なのかもしれない。少し安心した。


「ところで、ご飯は買わないのか?」


 タイミングを見失っていた私にとって、ハンゾーの一言がありがたかった。


「買います」


「んじゃ、私も一緒に行こ~」


 席を立とうとすると、ミラも一緒に立ち上がった。


 ……あれ? ミラの席には食べかけのお弁当があったような。気のせいかな? 目が疲れてるのかも。


「ラミちゃん、こっちこっち」


 ミラに手を引かれるまま、売店の方へと歩いていく。


「何か食べたいのある?」


 何があるのかよく分からないから、メニューを見てから決めるつもりだった。


「何があるのか分からなくて……」


「そっか~、んじゃメニュー見てから売店いきましょ」


「はい」


 初めてのことばかりで戸惑っていたけれど、ミラが一緒にいてくれるおかげで、なんだか心強かった。


 カウンターの上に並んだメニューを見上げると、色とりどりの料理名がずらりと並んでいる。


「なんかいっぱいありますね……」


「周辺諸国の料理が並んでいるからね~」


『ラミナ~、海鮮丼食べたい~』


 まん丸からリクエストが飛んできた。


「あの、海鮮丼ってなんです?」


「ハンゾーの母国の料理でね~、ライスに魚の切り身なんかが乗ってるんだよ~。さっぱりしてて美味しいよ~」


 ライスってなんだろう……? でも、まん丸のリクエストだし、きっとおいしいに違いない。


「んじゃ、それで……」


「上のメニューにあるものなら、そこの食券売り場で食券買って、カウンターに持って行けばOKだよ」


 ミラに教わりながら食券を購入し、カウンターで海鮮丼と引き換えた。


 お盆には、色とりどりの具材が山盛りにもられている海鮮丼と、スプーンにお箸が添えられていた。お箸なんて村を出てから見てなかったけど、ここでも出るんだ~と思った。


「んじゃ席に戻ろうか~」


 ミラの声にうなずいて、私は彼女と一緒に人の波をかき分けながら席へと戻った。


 席では、三人の先輩方とミアンが楽しそうに談笑していた。昼下がりの光が差し込む窓辺、穏やかな時間が流れている。


「戻ってきましたね」


 最初にプリムが気づき、こちらを見た。


「ごめんね~お待たせ~」


「先輩、ありがとうございました」


「いえいえ~、後輩ちゃんを守るのが先輩のお仕事ですからね~」


 そう言って、ミラは自分の席に腰掛けた。


 私も続いて、自分の場所に座った。


「んじゃ、ささっと食べちゃいな~」


「はい、いただきます……」


「はぁ~、ラミちゃんも『いただきます』って言うんだね~」


「ぇ? 言わないんですか?」


「私は言わないなぁ。私たちの中では、ハンゾーくらいだよ」


「ぇ? そうなんですか?」


「あぁ、そもそも倭国の文化だからな」


 そういえば以前、アクアがそんなことを言っていたっけ。おばあちゃんや両親から教わっていたし、村でもみんな使っていた気がしたけど……。


「村では普通に使っていた気がしたけど……」


「たぶんリタ様の影響じゃない~?」


『せやなぁ』


『リタも薩摩に行ってから使うようになっていましたもんね』


 へぇ、そうなんだ。


 お箸を使って食べ始めると——。


「お箸も使えるんだね~」


『お箸も倭国の文化なんですよ』


「ぇ、そうなんだ」


「ん?」


 ミラは話がかみ合ってないと思ったのか、不思議そうにしていた。


「あ、精霊さんが……」


「あぁ、なるほど。精霊さんってどんな子なの~?」


「どんなか~……私から見たら、みんな可愛いし個性あるかな~」


「へぇ~見てみたいな~」


「できるのかな?」


 可視化とかできるのかな? 今までそんなことを聞いたことないし……。


『やろうと思えば出来るで』


「ぇ!?」


 ミントの答えに、少し驚いた。


『リタがいた時代にも武道会で姿を現して戦ったことがあるんですよ』


『だな。ただなぁ、魔素を大量に消費するからあまり気がすすまねぇんだよ』


 彼らにとってデメリットがあるってことか。そりゃなかったら最初から姿を見せてるよね。


『ラミナ~ご飯食べよ~!』


 まん丸は、そんなことより海鮮丼らしい。


 お刺身を一つ摘まんで口の中に入れた。


『懐かしい味だ~おいしぃ~』


『ですね~』


 精霊たちがみんな感覚共有で味わっている中、思わず口元を抑えた。


「一応、姿を見せることができるらしいですよ。けれど、大量の魔素を消費するから気が進まないみたいです」


「そっか~」


 ミラが、すごく残念そうな表情を見せた。


 ミントがそれを見ていたのか、少し考えていた。


『ラミナ、ごっそり魔素をもらうことになってもええ?』


「それくらいは良いけど……」


 鞄の中にマジックポーションあるし、構わないかなと思った。


『なら見せたるか』


『昼休み時間いっぱいが限度ですかね』


『だな』


 そう言うと、ミントが手元に降りてきた。


 そして次の瞬間、体からごっそり何かが抜けていく感触があった。肌にわずかな痺れが走り、胸の奥が空になったような不思議な感覚。


 続いて、アクア、グレンと続いて私の魔素を持っていく。


『ラミナ~次~これ食べよ~』


 まん丸が何か白い刺身を指さしていた。


 まん丸はやっぱり、周囲のことより海鮮丼か~と思いながら、まん丸が希望する白い刺身を口に入れた。


『これおいしいよね~』


 私と感覚共有して味わっているまん丸をよそに、ミント、アクア、グレンは姿を見せる準備をしていた。


『いくで~』


『いいですよ』


『俺も構わん』


 次の瞬間——眩しい光が一瞬だけ走り、三人の精霊たちの姿が浮かび上がった。透き通るような輝きに包まれた彼らの姿は、まるで幻のようでありながら確かな存在感を放っていた。


「わぁ! 可愛い!」


 一番最初に声を上げたのは、左に座っていたミアンだった。


「ほんとだ! 可愛い!」


「可愛いですね」


 どうやら三人が可視化したらしい。でも、私から見れば普段と変わらないように見えた。


「うちから自己紹介するで。うちは植物の精霊ドライアドのミントや、よろしゅうな」


 ミントは右手を“ばっ!”っと上げて、元気よく自己紹介していた。


「次は私ですね。私は水の精霊ウンディーネのアクアです。よろしくお願いします」


 自己紹介を終えると、深々と頭を下げるアクア。


「次は俺だな。俺は火の精霊イフリートのグレンだ」


 グレンは、胸を張って腕を組んだまま自己紹介していた。


 三人の声が、今までのように頭に響いてくる感じではなく、普通に声として聞こえたせいで、少し違和感があった。


「地の精霊は居ないのか?」


 ハンゾーから質問が飛んできた。


 居ますとも、私と一緒に海鮮丼を堪能していますとも。


「は!?」


 ハンゾーの言葉を聞いた瞬間、真っ先にミントが反応した。まん丸の姿を見つけると、いつもはふわふわっと飛ぶミントが、瞬間移動でもしたかのようにまん丸の元へ現れた。


「何しとん、おまえもうちらと同じ事せぇや」


 まん丸の背中をつかんで揺さぶるミント。


『やだよ~、ボクは海鮮丼の方が大事なんだよ~』


 必死に海鮮丼の上に乗っているエビにしがみついているまん丸。


「またリクエストしたらええやがな!」


『今食べたいの~! ボクはね、百年以上もこれ食べられる日を待っていたんだよ~!』


 まん丸は海鮮丼にそんなに思い入れがあったの?


『そうだよ~! これはね~、鮮度が命なんだよ~。だから食べる機会がとても少ないんだ~』


 感覚共有しているからか、私の思ったことに対して返事をしていた。


「ねぇ、ラミちゃん」


「ん?」


「揉めているの?」


 ミントの声だけを聞いていても揉めているのが分かるよね……。


「うん。まん丸が海鮮丼は百年以上も食べられるのを待っていたんだって。だから姿を現すことよりも、海鮮丼を食べたいみたい……」


「あ~そうなんだ……。まん丸君、ごめんね。ミントちゃん、次の機会でいいよ。ラミちゃんはご飯、食べちゃって」


「しゃあないなぁ……」


 ミントがまん丸から離れた。


「あ、はい」


 私はまん丸のリクエストに答えながら海鮮丼を食べ、グレンはプリムと、アクアはロックと、ミントはハンゾーとミラ、それぞれ話を始めていた。


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