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神様と呼ばれた精霊医 ~その癒しは奇跡か、祝福か~ 【原作完結済】  作者: 川原 源明
第6章 平和な学園生活

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第59話 両親の病

 錬金科の校舎を出てすぐのところにある門をくぐると、白く大きな四階建ての建物がそびえ立っていた。


 ヴィッシュはそのまま研究所の入り口へと歩いていく。


「私が入っても良いんでしょうか?」


「大丈夫ですよ。ここの所長は私なので。ちなみに、昨年の三月まではヴィッシュ先生が学科長と所長を兼任していたんですよ。」


 学科長に副学園長、それに所長まで……。いったいどれだけの仕事を抱えているんだろう。私は思わず感心してしまった。


「おじゃましま~す……」


 そう言いながら扉をくぐると、研究所の内装はどことなく錬金科の校舎と似ていた。


「もしかして、ここもまん丸が?」


『そうだよ~、この建物は建物自体が魔道具なんだよ~。』


「ぇ!?」


 まん丸の返答に、思わず足を止めてしまった。


「どうしたんですか~?」


「この建物って、魔道具なんですか?」


「よく気づきましたね~。その通りですよ~。この建物内は、場所によって外の時間と流れが違うんです。」


「ぇ? どういうこと?」


「微生物や薬学を研究する上で、経過がどうしても必要になってきます。」


「ん? 経過?」


「たとえば風邪をひいたとしましょう。最初はくしゃみや鼻水が出ますよね?」


「うん。」


「次に喉の痛みや咳が出てきます。そして、体がウイルスと戦うために体温を上げるので発熱します。」


 イリーナの説明にうなずきながら耳を傾ける。


「うん。」


「発熱のあとには、だるさや疲労感が出ます。そして、徐々に回復していくわけです。」


「うん、そして回復って感じかな?」


「そうです。どの段階で薬を使うと効果的か、そういった経過を見る必要があるんです。」


「ぇ、どうやってそれを確認しているんですか?」


「最初はラットで試します。危険がないと判断されれば、実験用のゴブリンに投与します。」


「ぇ? ゴブリン?」


「えぇ。この研究所の地下で、実験用のゴブリンやオークを飼育しているんです。」


 それなら、キラベルまで行って実験しなくても、ここである程度経過が見られるのでは……?


 生きたままの状態で実験が可能なら、ここに頼るのも選択肢かもしれない。


「へぇ……そうなんだ……」


「ゴブリンに害がなければ、私たちリンクル族やドワーフ族に害がないと分かります。そして、オークに害がなければ、人族、獣人族、エルフ族にも問題がないと判断できます。」


「なるほど。その種族に有効か無効、有害かが分かるってことですね。」


「そうです。そうして試験薬を実用化していくのです。」


「はぁ~なるほど。それと時間というのは、実験体がいる場所だけ時間の流れが速くなるってことですか?」


「その通りです。この研究はどうしても時間がかかりますからね……。」


 時間の流れが違うなら、試験薬の効果を短期間で検証できる。実に興味深い設備だった。


 イリーナの話を聞きながら、私はヴィッシュのあとについていく。やがて一つの部屋の前で立ち止まった。


「最初はこちらですよ。」


 案内された部屋に入ると、数人の研究員が何かの作業に取り組んでいた。


「えっと、ここは?」


「微生物、つまり細菌やウイルスに関する研究を行う部屋です。」


 ヴィッシュは近くの机に歩み寄ると、その上に置かれていた装置に手を触れた。


「普段は目に見えない小さな生物も、この精霊顕微鏡で見ることができますよ。」


「精霊顕微鏡ってことは……まん丸が作ったんですか?」


「そうです。ここにある機材はすべて、まん丸君の作品ですね。」


「もしかして、それぞれの機材も魔道具だったりします?」


「ええ、その通り。微生物の中には細菌、ウイルスはさらに小さな存在です。そうしたものを見るために魔道具が必要なんですよ。」


「はぁ……。」


『精霊顕微鏡なんか、ラミナの鞄にも入ってるで。』


「あっ、そうなんだ。」


 そこでふと思い出す。両親のこと。あのときの病気は一体何だったのか。


「あの……、知っていたらでいいので教えてほしいのですが。」


「うん?」


「熱が出て、倒れて数時間後に命を落とす病って……何か心当たりありますか?」


「症状が見られて数時間後……。」


「ラミナさん、その症状はどの時期でしたか?」


 イリーナの顔に、何か思い当たる節があるような表情が浮かんだ。


「えっと、二年前の六月……。」


「ラミナ君の出身は、ルヴァ村でしたね。」


 ヴィッシュはリタのことも知っているし、私の出身地を知っていても不思議ではない。


「そうです。」


「二年前の六月から八月にかけて、ハーヴァーの町や周辺の村で多くの方が亡くなった件ですね。」


 ルヴァ村だけでなく、近隣でも同じようなことが起きていたんだ……。


「詳しくは分かっていませんが、共通しているのは風属性の適性がある方、そして『スネークイーター』という白い渡り鳥に触れた、あるいは食べたことがあるという点です。」


 白い鳥……。思い当たる。あれは確か、両親の症状が出る三日前、村のハンターが珍しい鳥が獲れたと持ってきたのだ。


「スネークイーターは、様々な蛇毒に耐性がありますが、自身の体が無毒というわけではないのです。」


「その白い鳥って、これくらいの大きさでしょうか?」


 私は両手で円を描くようにジェスチャーをしてみせた。


「そう、それくらいです。ただ、本来スネークイーターは、この地域に渡ってくる鳥ではないのですよ。」


「そうなんですか?」


「ええ。本来はもっと西にある島に渡るのですが、二年前はなぜかハーヴァー付近に来ていました。」


「つまり、あの鳥の毒が原因で……。」


「そうと考えていますが、あくまで仮説です。スネークイーターそのものを捕獲して研究したわけではありませんから。」


『正解はな、ほとんどのやつが羽毛にウイルスを保菌しとったんや。』


 ミントの声が頭に響く。


「ミントが、羽毛にウイルスを保菌していたと言っています。」


「羽毛ですか……。では群れがこちらへ渡ってくる前に、何らかの異変があったのでしょうか。」


『ラミナ、クランプウイルスの変異種って伝えたって。』


 私は少し間をおいてから言葉を口にした。


「え? クランプウイルスの変異種……。」


「なるほど……。バルト共和国南部の森で、クランプを食べた蛇がそれを媒介したわけですね。」


『せやな。』


「ミントがそう言ってます。」


「ラミナさんの精霊さんはすごいですね……。私たちが何ヶ月も悩んだ原因が、あっさりと……。」


「クランプウイルスって、どんな病気なんですか?」


「クランプというネズミの魔物がいて、その魔物が持つウイルスですね。魔素を持つ者に感染し、体を弱らせるんです。」


「それって、弱らせたあとに……食べるため?」


「そういうことです。」


「まるで共生関係みたいですね……。」


「似たようなウイルスは他にもいますよ。」


 なるほど、自然界にはそういった関係が多いのかな。


「主な症状は?」


「心身の不調と高熱です。触れると火傷しそうなほどの高熱になることもあります。」


 ……それだ。両親の症状と一致している。


「変異種というのは……?」


 ヴィッシュは少し首を傾げたが、丁寧に答えてくれた。


「そうですね、魔素を持っているものに反応するので、特定の属性というわけではないと思います。」


 そこに、ミントの補足が入った。


『本来は土属性の魔素に反応するウイルスやったんやけど、増える過程でおかしなやつが出てきたんや。』


 私はそっと説明を添える。


「ミントが、もともとは土属性に特に反応するウイルスだったけど、増える過程で変異して、風の魔素にも反応するようになったと言ってます。」


「なるほど、精霊の情報は貴重ですね……。」


「そのウイルスに効く薬はあるんですか?」


「ありますよ。少し濃度が高めのキルッシュ抗菌薬なら治せます。」


「そうですか……。」


 薬があるなら……。あのとき、それを知っていれば、きっと助けられたのに。心の中でそう呟いた。


「ラミナ君、何か他に質問はありますか?」


「いえ、大丈夫です。」


「では、次の場所に行きましょうか。」


 ヴィッシュは次の部屋へ向かって、静かに研究室をあとにした。


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