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神様と呼ばれた精霊医 ~その癒しは奇跡か、祝福か~ 【原作完結済】  作者: 川原 源明
第5章 火の大精霊を求めて

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第50話 冒険者ギルド

 キラベルの町に入ると、さっそく活気ある通りが目に飛び込んできた。


「冒険者ギルドは?」


『こっちや』


 ミントがふわりと空中に浮かび、先導するように前へと飛び始めた。


 私はミントとの距離が開かないようについていき、やがて羊皮紙と羽ペンが描かれた看板の掲げられた建物の前にたどり着いた。


「ここ?」


『せや』


 その短い返事に頷きながら、私は扉の取っ手に手をかけた。ミントが言うなら間違いないはずだ。


 扉を開けて中へ入ると、途端に人のざわめきが耳に飛び込んできた。


 広いホールの中には老若男女、さまざまな装備を身につけた人々が行き交っていた。剣と盾を持つ者、弓を背負った者、なかには魔導書らしきものを抱えた者までいる。


「多いね~」


『さっき門の兵が言うてたやろ。オーク狩り目当ての冒険者が集まっとるんや。それに、近くには鉱山やダンジョンもあるからな、そっち目的の連中もおるんやで』


 なるほど、昨日アクアとまん丸を待っていたとき、丘の近くには誰もいなかった気がしたけど……。


「へぇ~、昨日は人いなかったよね?」


『時間が遅かったからだと思いますよ』


 確かに、丘の上に到着したころはもう日が傾き始めていた頃だった。


 そんなことを考えていたとき、不意に後ろから声をかけられてビクッとした。


「おまえさん、入口に突っ立ってると邪魔だぞ」


「すいません!」


 慌てて横に退くと、背丈は低いが大きな槌を担いだ小柄なおじさんが、どしどしと中へ入ってきた。


「いや、別に責めてるわけじゃねえ。おまえさん、もしかしてここは初めてか?」


「はい。冒険者登録しようかと思って……」


「そうか、ならこっち来な」


 そう言って、そのおじさんはすたすたとカウンターの左端へ向かい、そこにいた受付のお姉さんのところへ案内してくれた。


 お姉さんは私を一瞥したあと、おじさんに視線を移す。


「ゾッフさん、その子は?」


 どうやらこの人、ゾッフさんという名前らしい。


「冒険者登録したいんだと」


 ゾッフさんが説明すると、お姉さんはすぐににこやかな表情をこちらに向けてくれた。


「そうでしたか。冒険者ギルドへようこそ。字は書けますか?」


「はい、大丈夫です」


「それなら、こちらの書類に記入をお願いします。不明な点があれば、いつでも声をかけてくださいね」


 お姉さんは机の下から書類とペンを取り出し、私の前に差し出した。


 名前、年齢、適性属性……ひとつずつ丁寧に埋めていく。けれど、「得意武器」の欄で手が止まった。


(……どうしよう)


 正直に言うと、得意と呼べる武器はまだない。迷っていると、お姉さんがそっと声をかけてくれた。


「もしかして、得意な武器がないんですか?」


「はい……」


「そうでしたら、空欄でも構いませんよ」


「じゃあ、これで……」


「はい、確認しますね」


 お姉さんは記入された内容をひとつひとつ目で追って確認し、次に穏やかに問いかけてきた。


「身分を証明できるものはありますか?」


「はい」


 私はカバンから学生証を取り出し、そっと手渡した。


 カバンから学生証を取り出して手渡すと、お姉さんが目を通しながら微笑んだ。


「あら、アカデミーの学生さんなんですね」


「ほぅ、何クラスだ?」


 隣にいた小柄なおじさん――ゾッフが私に問いかけてくる。


「1年S組です」


「ほぉ、優等生じゃないか」


「優等生どころか、聖女の再来って噂の子じゃないですか?」


 受付のお姉さんの言葉に、私は少し驚いた。まさかこんな地方の町で、その言葉を聞くとは思っていなかった。


「ほぅ、お前さんの名前は?」


「ラミナです」


「決まりだな。実技試験は省略でいいだろう」


「え、そんな勝手に決めていいんですか?」


「あぁ、問題ない。おまえさん、普通じゃない量の魔素を持ってるからな」


「……分かるんですか?」


「なんとなくな。雰囲気で分かるんだよ」


 ゾッフはくくくっと喉を鳴らして笑う。


「そんなので分かるんですか……?」


 私が首を傾げていると、アクアが声をかけてきた。


『ラミナ、入学試験の時、ハンゾーを見た時に何か感じませんでしたか?』


「……なんか、こう……圧みたいなものはあったかも」


『それです。それと似たような“気配”をゾッフさんは感じ取ったんですよ』


「なるほど、そういうことか……」


「おいおい、誰と話してるんだ?」


 アクアとの会話に気づいたゾッフが、首をかしげる。


「あっ、すみません。精霊と話してました」


「ほぉ。精霊使いとは……聖女と同じスキルってわけか。まぁ、何を話していたかはともかく、D級スタートでいいだろう」


 ゾッフが腕を組んで言うと、すぐ横にいた受付のお姉さんが少し驚いたように問い返した。


「本当にそれでいいんですか?」


 その問いに、ゾッフは笑いながらうなずく。


「構わん。正直、ワシが相手しても勝てんだろうしな。それに精霊と契約しているなら、いろいろな知識も教わっているだろう?」


「はい……。ところで、ゾッフさんってリタのこと、ご存じなんですか?」


「リタ……? おまえさん、リタの子孫か?」


「はい」


「そうか。ワシは直接は知らんが、親父がな、リタと一緒にルマーン革命に参加してたんだよ。色々話は聞かされてる」


「そうなんですね……」


 私は少しだけがっかりしてしまった。ミントやアクアたちから聞くリタの話はどれも楽しいけれど、直接その時代を知る人――たとえばボッシュのような人から話を聞けたら、もっと違った面が見えたんじゃないかと思っていたからだ。


「なんだ、リタの話をもっと聞きたかったのか?」


「はい。精霊たちからも色々聞いてますけど、人の視点からの話も好きなんです」


 戦争中の話や、無傷で勝利を収めた逸話、精霊たちの苦労話など――私はその手の話が結構好きで、暇さえあれば聞いてしまう。


「そうか。じゃあ、一つだけ教えてやろう。帝国の中では“聖女リタ”として慕われとるがな……一部では“魔王”とも呼ばれてるのを知ってるか?」


「えっ?」


『懐かしいわぁ~』


『ですね……』


 ミントとアクアの反応を見る限り、どうやら彼女たちはその話を知っているらしい。でも、あまりにも意外な呼び名に、私は驚きを隠せなかった。


「魔王って……本当ですか?」


「あぁ。気になるなら、精霊たちに聞いてみるといい。きっかけは、ルマーン革命の直後の出来事だったはずだ」


 ルマーン革命――たしか、精霊たちからその話を聞いたあとは、風の精霊シルフとの別れの話に続いたはず。そういえば、革命のその後について、私はあまり深く知らないままだったかもしれない。


「教えてくれて、ありがとうございます」


「いや、いいって。明日は授業があるんだろ? 精霊から“冒険者の心得”くらいは聞いておけるか?」


『ええで~。うちらがしっかり教えたるわ』


「大丈夫みたいです」


「そうか、それなら――すぐにDランクのカードを発行してやってくれ」


「かしこまりました」


 受付のお姉さんは深く頷くと、手元の書類を持ってカウンター奥の扉へと姿を消した。


 その場に残された私は、ひと呼吸おいてゾッフに視線を向けた。


「……いいんですか? こんなに優遇されて」


「構わんさ。実力が伴っているのは見ればわかる。6月の実習の時に、またキラベルへ来いよ。実戦で役立つ機会もあるはずだからな」


 小さなおじさん――ゾッフは、そう言い残してカウンター横の通路をすたすたと歩いていき、あっという間に奥へと消えていった。


 まるで入れ替わるように、先ほどのお姉さんが奥から戻ってくる。


「あれ? ゾッフさんは?」


「仕事に戻るって言って、そっちへ行きました」


 私は通路の先を指さして答えた。


「そうでしたか。では、ラミナさん。お待たせいたしました。こちらが、あなたの冒険者カードになります」


 お姉さんは微笑みながら、丁寧に1枚のカードを私の前に差し出した。


「ありがとうございます」


 受け取ったカードをそっと手に取って見ると、顔写真に加え、私の名前、生年月日、そして――Dランクの記載がはっきりと刻まれていた。


 ついに、私も正式な“冒険者”になったんだ。


「こちら、紛失しないようご注意くださいね。再発行には手続きが必要になりますので」


「はい、気をつけます」


「それでは以上となります。何か依頼を受けていかれますか?」


「いえ、今日は大丈夫です」


「そうですか。では――良い旅を」


 お姉さんは微笑んで頭を下げた。


 私も軽く会釈を返してから、カウンターを離れた。


『ほな、次は靴やな~。ええもん見つけに行こか~?』


 ミントの声に背中を押されるように、私はギルドの建物をあとにした。そして、次なる目的地――新しい靴を探しに町の通りへと歩き出した。


「面白い」「続きが気になる」「応援する!」と思っていただけたら、


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