第45話 キラベル丘陵へ
洞窟から出ると、ダシュが変わらぬ様子でそこに立っていた。
「……会えたか?」
「はい。ただ、竜神様には直接は会えませんでした」
「そうか……もう十年以上、あの方の姿を見ておらん。もしかしたらとは思っとったが」
「でも、その竜神様から伝言を預かっています。――“まもなく大きな噴火が起こる。村の者はキラベルよりも遠くへ避難せよ”と」
ダシュはしばらく黙ったあと、深く息を吐いた。
「……やはり、か。近頃、地揺れが多かったからな。そうじゃないかと思っとった。忠告どおり、村を出ることにしよう」
……あれ? 竜神様には会っていないって言ったのに、信じるんだ。
「伝言だけなのに、信じるんですか?」
「おまえさんが、直接聞いてきたんじゃろ?」
「そ、そうですけど……」
「なら、よい。精霊使いが、無用な嘘をつくとは思わんよ」
「そんなものなんですか?」
「ああ。リタ嬢ちゃんも、そういう子だった。それに――精霊も同じじゃろう」
『知っとることに関しては、嘘はつかれへんからな』
ダシュの言葉に、ミントが自然と補足してくれる。
「……そうなんだ」
そうして私は、ダシュとたわいもない話を交わしながら、ゆっくりと村まで戻っていった。
「嬢ちゃんは……もう帰るのか?」
ダシュがぽつりと問いかけてくる。
――正直、まだ決めていない。目的は果たしたし、戻るという選択もある。でも、その時だった。
『キラベル丘陵に行きませんか?』
アクアが、そう提案してきた。
「キラベル丘陵って、どこにあるの?」
「村の西に抜ける道を進めば繋がってる。けどな……あそこはキラベルブラックエルクやら、ウルフやら、オークの縄張りだぞ?」
――オーク。
アクアの提案の意図が、なんとなくわかった気がした。
「でも、たぶん大丈夫だと思います」
たとえ何かが起きても、きっと精霊たちがいてくれる。それだけで安心感がある。
「そうか。なら、あそこの道を抜ければ丘陵に出られる。……くれぐれも気をつけてな」
ダシュは村に来た時とは違う道を指差し、しっかりとこちらを見据えながらそう言った。
「ありがとうございます」
「ああ。無事を祈っとる」
そうして私は村を後にし、キラベル丘陵へと向かうことにした。
……と、その途中。お腹が鳴った。
「……なんか、お腹すいたかも」
『魔物でも狩ればいいだろ。ちょうど近くにオークが三匹いるぞ』
教えてくれたのは、グレンだった。
「大丈夫かな……?」
『任せとけ!』
『ちょ、グレン待ってくださいっ』
意気込んで飛び出しそうになったグレンを、アクアがあわてて止めた。
『なんだよ?』
『できれば……体の構造を教えるのに使いたいので、丸焦げにはしないでいただけると』
どうやらアクアは、オークの死体を“教材”として使うつもりらしい。
『は? 体の構造?』
グレンの困惑は、もっともだった。
『あんな、ラミナはな……魔素硬化症を治そうとしてるんよ』
『は? 無理だろ、それ。リタにも治せなかったんだぞ?』
ミントの言葉に、グレンが即座に否定で返す。その反応は、ある意味当然のものだった。
『そう思うよね〜』
まん丸が、いつもの調子で相槌を打つ。
『でもね~、実はメフィーと同じ血筋の子が魔素硬化症を発症してて……。ラミナはその子を救おうとしてるんだよ~』
『……は? マジで? どうやって?』
『お腹を開いて、患部を切除するんやって』
『なに……生きたまま腹切んのか? そりゃ死ぬだろ……何言ってんだ、お前ら……』
グレンの声に、少し呆れと混乱が混じっていた。
『でもね〜、ラミナの考えてること、ちゃんと筋が通ってるよ〜』
『マジで……?』
『えぇ。先日、胃に穴が空いて、お腹の中で炎症を起こしていた人をラミナが治療したんです』
『それって……治せないって言われてたやつだよな。痛み止めとヒールポーションで延命するしかなかったやつだろ?』
『そうです。それをラミナが、ちゃんと治療したんですよ』
『……どうやってだ?』
『中が空洞の針を作って~、アクアのクリーンで治してたよ~』
――まん丸、肝心なところが抜けてる……。
『その針を、腸とかを傷つけずに腹に刺して、クリーンで内部の毒素を出したのです』
『なるほど……病を治すために、あえて傷をつけるやり方か』
『ええ。魔素硬化症も同じように――お腹を開いて、硬化した患部を切除すればいいってラミナは言ってるんです』
『……そうか。つまり、俺は止血を担当すればいいってことだな?』
『さすが、察しが早いですね。それともうひとつ……空気中の雑菌やゴミを燃やして消してほしいんです』
『なるほどな。わかった、協力しよう』
グレンはにやりと笑いながら、こちらに歩み寄ってくる。
『お前、おもしれぇな。リタと一緒の時も楽しかったが……お前といるのも、なかなか楽しめそうだ』
『……グレンは、不安に思ったりせぇへんの?』
『なんでだ?』
『不確定要素、多いやん。手探りの治療法やで?』
『だからこそオークで試して、ひとつずつ潰していくんだろ?』
『そのとおりです』
『なら問題ねぇよ。リタが治せなかった病の治療……俺はそれを見届けてみたい。……さて、オークを捕まえるのはまん丸かアクアに任せるとするか』
『ええ、それが助かります』
『んじゃ任せた。俺とミントは、ラミナの護衛な』
『お願いします。まん丸、行きますよ』
『ほ〜い』
そう言うと、まん丸とアクアはすぐに森の奥へと姿を消した。
……私が何か言う間もなく、精霊たちだけでどんどん話が進んでいく。けれど、それが嫌じゃない。
『んじゃ俺らは、先に森を抜けようぜ。何をするにしても、この先の丘でやるべきだろ?』
『せやね。ラミナ、行こか』
「……うん」
私はミントとグレンに守られながら、森を抜けてキラベル丘陵の先を目指した。
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