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神様と呼ばれた精霊医 ~その癒しは奇跡か、祝福か~ 【原作完結済】  作者: 川原 源明
第5章 火の大精霊を求めて

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第45話 キラベル丘陵へ

 洞窟から出ると、ダシュが変わらぬ様子でそこに立っていた。


「……会えたか?」


「はい。ただ、竜神様には直接は会えませんでした」


「そうか……もう十年以上、あの方の姿を見ておらん。もしかしたらとは思っとったが」


「でも、その竜神様から伝言を預かっています。――“まもなく大きな噴火が起こる。村の者はキラベルよりも遠くへ避難せよ”と」


 ダシュはしばらく黙ったあと、深く息を吐いた。


「……やはり、か。近頃、地揺れが多かったからな。そうじゃないかと思っとった。忠告どおり、村を出ることにしよう」


 ……あれ? 竜神様には会っていないって言ったのに、信じるんだ。


「伝言だけなのに、信じるんですか?」


「おまえさんが、直接聞いてきたんじゃろ?」


「そ、そうですけど……」


「なら、よい。精霊使いが、無用な嘘をつくとは思わんよ」


「そんなものなんですか?」


「ああ。リタ嬢ちゃんも、そういう子だった。それに――精霊も同じじゃろう」


『知っとることに関しては、嘘はつかれへんからな』


 ダシュの言葉に、ミントが自然と補足してくれる。


「……そうなんだ」


 そうして私は、ダシュとたわいもない話を交わしながら、ゆっくりと村まで戻っていった。


「嬢ちゃんは……もう帰るのか?」


 ダシュがぽつりと問いかけてくる。


 ――正直、まだ決めていない。目的は果たしたし、戻るという選択もある。でも、その時だった。


『キラベル丘陵に行きませんか?』


 アクアが、そう提案してきた。


「キラベル丘陵って、どこにあるの?」


「村の西に抜ける道を進めば繋がってる。けどな……あそこはキラベルブラックエルクやら、ウルフやら、オークの縄張りだぞ?」


 ――オーク。


 アクアの提案の意図が、なんとなくわかった気がした。


「でも、たぶん大丈夫だと思います」


 たとえ何かが起きても、きっと精霊たちがいてくれる。それだけで安心感がある。


「そうか。なら、あそこの道を抜ければ丘陵に出られる。……くれぐれも気をつけてな」


 ダシュは村に来た時とは違う道を指差し、しっかりとこちらを見据えながらそう言った。


「ありがとうございます」


「ああ。無事を祈っとる」


 そうして私は村を後にし、キラベル丘陵へと向かうことにした。


 ……と、その途中。お腹が鳴った。


「……なんか、お腹すいたかも」


『魔物でも狩ればいいだろ。ちょうど近くにオークが三匹いるぞ』


 教えてくれたのは、グレンだった。


「大丈夫かな……?」


『任せとけ!』


『ちょ、グレン待ってくださいっ』


 意気込んで飛び出しそうになったグレンを、アクアがあわてて止めた。


『なんだよ?』


『できれば……体の構造を教えるのに使いたいので、丸焦げにはしないでいただけると』


 どうやらアクアは、オークの死体を“教材”として使うつもりらしい。


『は? 体の構造?』


 グレンの困惑は、もっともだった。


『あんな、ラミナはな……魔素硬化症を治そうとしてるんよ』


『は? 無理だろ、それ。リタにも治せなかったんだぞ?』


 ミントの言葉に、グレンが即座に否定で返す。その反応は、ある意味当然のものだった。


『そう思うよね〜』


 まん丸が、いつもの調子で相槌を打つ。


『でもね~、実はメフィーと同じ血筋の子が魔素硬化症を発症してて……。ラミナはその子を救おうとしてるんだよ~』


『……は? マジで? どうやって?』


『お腹を開いて、患部を切除するんやって』


『なに……生きたまま腹切んのか? そりゃ死ぬだろ……何言ってんだ、お前ら……』


 グレンの声に、少し呆れと混乱が混じっていた。


『でもね〜、ラミナの考えてること、ちゃんと筋が通ってるよ〜』


『マジで……?』


『えぇ。先日、胃に穴が空いて、お腹の中で炎症を起こしていた人をラミナが治療したんです』


『それって……治せないって言われてたやつだよな。痛み止めとヒールポーションで延命するしかなかったやつだろ?』


『そうです。それをラミナが、ちゃんと治療したんですよ』


『……どうやってだ?』


『中が空洞の針を作って~、アクアのクリーンで治してたよ~』


 ――まん丸、肝心なところが抜けてる……。


『その針を、腸とかを傷つけずに腹に刺して、クリーンで内部の毒素を出したのです』


『なるほど……病を治すために、あえて傷をつけるやり方か』


『ええ。魔素硬化症も同じように――お腹を開いて、硬化した患部を切除すればいいってラミナは言ってるんです』


『……そうか。つまり、俺は止血を担当すればいいってことだな?』


『さすが、察しが早いですね。それともうひとつ……空気中の雑菌やゴミを燃やして消してほしいんです』


『なるほどな。わかった、協力しよう』


 グレンはにやりと笑いながら、こちらに歩み寄ってくる。


『お前、おもしれぇな。リタと一緒の時も楽しかったが……お前といるのも、なかなか楽しめそうだ』


『……グレンは、不安に思ったりせぇへんの?』


『なんでだ?』


『不確定要素、多いやん。手探りの治療法やで?』


『だからこそオークで試して、ひとつずつ潰していくんだろ?』


『そのとおりです』


『なら問題ねぇよ。リタが治せなかった病の治療……俺はそれを見届けてみたい。……さて、オークを捕まえるのはまん丸かアクアに任せるとするか』


『ええ、それが助かります』


『んじゃ任せた。俺とミントは、ラミナの護衛な』


『お願いします。まん丸、行きますよ』


『ほ〜い』


 そう言うと、まん丸とアクアはすぐに森の奥へと姿を消した。


 ……私が何か言う間もなく、精霊たちだけでどんどん話が進んでいく。けれど、それが嫌じゃない。


『んじゃ俺らは、先に森を抜けようぜ。何をするにしても、この先の丘でやるべきだろ?』


『せやね。ラミナ、行こか』


「……うん」


 私はミントとグレンに守られながら、森を抜けてキラベル丘陵の先を目指した。


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