第36話 精霊たちの手術会議
サバイバル学習期間中に作ることができなかった薬作りを、ようやく始めた。材料を整え、湯を沸かし、香草を刻んでいると――。
コンコンと、扉をノックする音が響いた。
「はーい」
扉を開けると、ミアンとそのメイドのツキが立っていた。
「えっと……?」
「ラミナさん、私と一緒に学長室まで来ていただけませんか?」
学長室、しかも呼び出し……となれば、思い当たるのは一つしかない。
「もしかして……遺跡に入ったことが問題に……?」
「いえ、そういうわけではありませんの。お爺さまがラミナさんにぜひお会いしたいと」
「お爺さんが……?」
なぜ、ミアンのお爺さんが学園長室に? ――あれ、公爵じゃなかったっけ?
「いいけど、ちょっと今作ってる薬を仕上げるまで待ってもらえる?」
「えぇ、構いませんわ。終わりましたら、私の部屋までお越しくださいませ」
そう言って、ミアンはツキと共に部屋へ戻っていった。私は手早く薬作りを終えると、改めてミアンの部屋を訪ねた。
ノックするとすぐにツキが応対し、しばらくしてミアンも姿を現した。
「ごめん、待たせちゃった」
「いいえ、大丈夫ですわ。それでは参りましょうか」
ミアンと私が並び、その後ろをツキが控える形で、三人で学園長室へと向かった。
学園の廊下を歩きながら、ふと気になっていたことを口にする。
「ねぇ、ミアン。ミアンのお爺さんって……今、学園長なの?」
「そうですよ。お爺さまがここの学園長を務めておられますの」
――あれ、公爵ってミアンのおじいさんじゃなかったっけ?
「あれ? 公爵っていうのは……?」
「それは父ですの。お爺さまは先代の公爵で、現在は引退して学園長をされていますの」
「ああ、そうなんだ」
「この学園は、昔から“先代公爵が学長を務める”のが伝統になっておりますの」
「へぇ~、そんな決まりがあるんだ……」
なるほど、代々そういう決まりがある家柄なら、学園との関係も深いのだろう。
そんな会話をしていると――
『その辺も昔とは変わらんね』
『ですね』
ミントとアクアが、懐かしそうに反応していた。
そして、まん丸がふよふよと私の肩に寄ってくると、ひとこと。
『ねぇ、この子、魔素硬化症を発症しているよ~』
たぶん、ミアンが公爵家の人間だとわかって、精霊たちが自然に身体の状態をチェックしたのだろう。
彼女に何があるのか――私は、ふと胸がざわつくのを感じていた。
『知っとるで。それでラミナが、“腹切って患部を取り除けばええ”って言うとんねん』
『病気を治すのに、お腹を切るの~?』
『せやで。血がぶしゃ~って出るって言うてるのに、アクアの力でなんとかなるって思っとんねん』
『うわぁ~、生きたままお腹切るなんて、めっちゃ痛そうだよ~』
『せやろ~』
『……痛みを感じないように、麻痺させるの~?』
その一言に、私はハッとした。確かにそれなら、暴れたりパニックになったりする心配も減るかもしれない。
『麻痺させて、それから眠らせればいいんじゃないの~?』
『お、それええな』
まん丸の何気ない提案に、私は思わず感心した。
『さすがまん丸やな。うちらで思いつかんことを……』
なるほど、意識があるままじゃ手術はリスクが高すぎる。でも、眠らせてしまえば――。
気づけば、精霊たちの間でミアンの手術ミーティングが着々と進んでいた。しかもけっこう現実的な方向で。
『ひとつ課題がクリアできましたね』
『せやな。麻痺と眠りなら、うちの得意分野や』
『昔はね~、戦でケガした兵士の止血に、焼きごて使ってたって聞いたよ~』
え……。
それ、つまり傷口に焼きゴテで“ジュー”ってやるってこと……?
『うわぁ~、あかんあかん、それはさすがにあかんやろ……!』
『まあ私がどれだけできるかわかりませんが、必要ならその手段も視野に入れておきます』
『え!? ほんまにやるん!?』
『いえ、私ひとりで手が足りなければ……の話です』
『魔物で試したりはしてないの~?』
あっ、確かに。
ポーションで切除した部位がどうなるかとかは、魔物で実験してみる価値があるかもしれない。
『してません。まだあくまで構想段階なので……』
『そうなんだ~。リタができなかったこと、ラミナができるといいね~』
『ですね』
『……ほんまに、できるんかなぁ……?』
まん丸とアクアは前向きだったけど、ミントだけはまだ迷いや不安を抱えているようだった。
無理もない。人の命に関わることなんだ。精霊であっても、怖くないわけがない。
そんな会話を聞いているうちに、目の前に重厚な扉が現れた。
――学長室に、着いたのだ。
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