第334話 越えてはならない一線
スラムの人達の対応から早三か月の月日が流れ、気づけば八月の、息苦しいほどの夏になっていた。
元スラム街の方では、レストランが完成し、数日後にはオープン予定になっていた。
一方、レクト菌による流行り病も、だいぶ落ち着いてきており、キャットバット達の活躍もあり、ロスロイ内でのクレイジーラットと保菌しているナノフリー根絶が精霊達と、スコル&ハティによって確認され、残りは特定エリアに住む人たちの治療をするだけで、ヒトヒト感染に注意するだけになっていた。
ただ、ロスロイは流行り病よりも、二つの問題を抱えていた。一つは町に居座る解放軍を名乗る者たちの横暴行為、そして厄災と言われる天気の問題だった。
解放軍を名乗る者達は、領主邸にたむろし、ロスロイ内の様々な店でツケという名の無銭飲食に強盗行為等を働いていた。領主が居ないからという事もあり、町の衛兵たちも手出しができない状態が続いていて、町の人達の怒りが頂点にさしかかっていた。
一方、天気の方ははっきりと朝だとわかる時間が少なくなり、日中は常に日が落ちかけているような暗さがずっと続いていた。当然日をはっきり見える日もなく、リリアンの言う世界が闇に飲まれるという言葉が現実の物となっていた。
薄暗いずっと——
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とある日の朝——
臨時治癒院の個室にて——
「ん~、なんかこの天気にも慣れてきた気がする……」
『せやなぁ、ずーっとまっくらやんな』
「これ、魔法が届かないところってのがねぇ……」
『はるかかなたですからね……』
「ん~……」
『ボクらの活動領域のはるか上!雲よりもはるか高いところにあるからね!』
本当にこれが問題だった。フゥが何とかなる領域だったり、アクアの活動領域だったら何とかなったものの、雲よりもはるか上、天気の存在しない乾いた層に漂ってると——
遠すぎる——
『スコルも言っていましたが、魔素の無いエリアなので、魔法の届く範囲なら何とかなったかもしれませんけどね……』
「はぁ……、気分が沈むね……」
『だろうな』
そんなことも言ってられない、ロスロイでは現在の感染者がすでに30人を切っていて、今日で治療が終わる予定だった——
見えてきたゴール——
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この結果に長く訪問治癒に携わってきた人たちからしたら、ようやく見えてきた出口なのだ、思えば治療した翌日に感染なんて日常茶飯事だった。
感染してるなら出歩くなよ!なんて思いながら対応していたけども、ひと月前に私が精霊達に依頼して、こっそり外に出られなくしてもらうという裏技を使いようやく、本当にようやく出口が見えてきたのが現状だった。
「さぁて、今日は最後だ!張り切っていこう!」
天気のおかげで沈む気分と、ようやく抜け出せる長いトンネルでウキウキ気分とでは、どうやらウキウキ気分の方が勝るらしい——
個人的にはオフだけども、外に出られず困っている感染者の為、少しでも早く開放すべく活動するつもりだった——
身支度を整え、腹ごしらえをしてルンルン気分でロスロイの中町に向かため外に出た。
臨時治癒院や訪問治癒師の家があるエリアは外町、本来のロスロイの町は中町と呼ばれるようになっていた——
そして、三か月前よりは、外町の家もだいぶ増えてきている。町の治安を守る衛兵たちの家が外町に移った。守るべき場所が変わったことと、領主の長期不在による給与未払いによるボイコットが起きた際に、私がラーグから預かったお財布から給与を支払うようになり、今ではスコル&ハティの兄弟や、訪問治癒師の人達と良好な関係を築いている——
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臨時治癒院の外に出ると、外門の詰所に向かう衛兵のロブロおじさんと会った。
知った顔——
「お、今日も治療に行くのかい?」
「はい」
「さっきエリィおばさんに会って聞いたが、あと少しなんだってな」
「たぶん、今日でこの病気とおさらばかもです!」
「そうか!それはいいな!んじゃ今日も気をつけてな!」
「はい、ロブロおじさんも!」
「あぁ、じゃあな」
本当にこの三か月でロスロイの人達とはすごく仲良くなれたと思う——
温かい繋がり——
スラムの人に限らず、最初はトラブルばかりだったけども、今じゃ真っ先に話しかけてくれるようになっていた——
お店からは、いつもサービス品を追加してもらえたりするのが気持ち的に大きい——
ルンルン気分で、中町へ入り、大通りを抜け目的の家へと向かっていると——
路地裏を歩いていると、一軒の家から大きな木箱を抱えた男たちが三人出て来た。
「ん?引っ越し……?」
中町から土地の広い外町へ引っ越す人が居るので、この光景としてはそこまで不思議ではなかったが、気になる点と言えば荷物を載せるであろう荷車や馬車が側にないことだった——
『違いますよ』
『強盗やん』
「ぇ」
『しかも自称解放軍の連中だな……』
「ダメじゃん」
『それよりも!中の人縛られてケガしてるよ!』
フゥの言葉を聞いて私は男たちが出て来た家を目指し走り始めた。
タタタと——
急いで——
「アクア!拘束を!」
『はい』
男たちの足に氷の足かせができると、大きな木箱を持ったまま派手に転び、一人は後ろに居た男が持っていた木箱の下敷きになっていた。
ドサッと——
ガシャンと——
悲鳴——
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