第332話 動き出すスラム街の運命
加工場、メニュー開発室等を見学したのち、最後の見学場所は、農園で働いている人たちのための食堂だった。
広い——
明るい——
「では、最後に開発室のメンバーが考えた新メニューを試食して終わりにしましょう~、好きな席に座ってください~」
セレスがそういうと、それぞれ好きな席に座り始めた。私自身もヴィッシュとアーニャに挟まれる形で座り、メーガンが対面に座った。
一方スコルは端の方に一人で座った——
ぽつんと——
「スコルさん、こっちに来ませんか?」
スコルに声をかけたのはアーニャだった。
「そうするか」
そういうと、メーガンの隣にスコルが座った。
---
「では、みなさん席に着いたようなので、はじめましょ~」
孤児院の子どもたちと思われる子達が、一人につき五品の料理を並べていく。
次々と——
私の目の前にパン、サラダ、魚料理、スープ、ジュースと並んでいく。
彩り——
「食べ終わったら、あちらにいる人たちに、感想を言ってくれると開発陣のメンバーが喜びます~」
セレスがそういって案内した先には人族の男女に、エルフとドワーフ族の女性に猫系の獣人女性が立っていた。
このメニューの開発メンバーなんだろうか?
「それではどうぞ食べてください~」
私は最初パンを手に取り一口食べると——
ふわっと——
『口に入れた瞬間な、まず"空気どこいったん"ってくらい軽いねん。ふわっとほどけるのに、噛んだらもちっと歯に返ってくる、この二段構えがたまらんわ。香りもええねん。焼きたての小麦の甘さがふわ〜っと鼻に抜けて、「はい優勝」って言いたなるレベル。外側はほんのりパリッとしてんねんけど、中は雲みたいに柔らかくて、指で押したら"むにゅっ"て戻ってくるタイプ。この弾力がまたクセになるんよリンゴのジャムを塗ったらもう反則やで。じゅわ〜っと染みて、もちもち生地と合わさった瞬間、思わず「うまっ…!」って声漏れるやつ』
---
久々にミントの食レポを聞いた気がする。というか、これそのまま開発メンバーに伝えたほうがいい気がするけど——
次にサラダだ、レタスがメインでドレッシングが掛かってる——
フォークで数枚のレタスにクルトンが乗った状態で口に運ぶと、ドレッシングととれたてレタスの味がおいしい。
シャキッと——
『ひと口食べた瞬間な、まずレタスのシャキッ!て音が耳に気持ちええねん。ほんでそのあとすぐ、濃厚ドレッシングが口いっぱいに広がって、「うわ、これはサラダのくせに主役張ってくるやつやん…」ってなる。メインレタスの歯ごたえがしっかりしてて、噛むたびにドレッシングがじゅわっと絡んでくるんよ。クルトンもええ仕事してるわ。カリッとした食感がアクセントになって、濃厚な味に飽きへんようにバランス取ってくれてる。全体としてはな、「野菜食べてるはずやのに、なんでこんな満足感あるん?」ってツッコミたくなるサラダや。』
ん~ミントに魔素分けて直接表現してもらおうかな——
その後も、ジュースや野菜スープに、魚料理を食べるたびにミントがレポートしてくれる。聞いているのは私と精霊達だけなのに——
スコルは、表情を変えずにむしゃむしゃと食べている。野菜はあまり好きじゃないのかな?
黙々と——
メーガンとアーニャはお互いに「これおいしいですよ」とか「ジュースの甘さがくどくなくていいね~」とか色々言っていた。
楽しそう——
ヴィッシュは、「ん~これはおいしいですね」とかシンプルに表現していた。
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周りも、出された料理を堪能しているようで、みなおいしそうに食べていた。
笑顔——
幸せそう——
皆が食べ終わり満足したころ——
「これで私の農園の説明は以上となります~、少しでも興味持ってもらえた方がいれば、一緒に働けると嬉しいです~、質問があれば何でも言ってください~」
セレスの発言に周囲がざわめく。"一緒に働けると嬉しいです"という部分だろうか?
ざわざわ——
期待——
「俺もここで働けるのか?」
「もちろんです~、この農園はルマーン帝国がすっぽり収まる位の広さを誇るんです!なので人手は全然足りません!」
また大きなざわめきが起こる。
どよめき——
「給料はもらえるの?」
「もちろんです~、ついでに、ここで採れたものは持ち帰ってもいいですし、食べてもいいですよ~」
給料って、今働いている人たちは、ロシナティスの商業ギルドに任せてるけれど、どうする気だろうか——
ロスロイにお金が飛んでくるとは思えないんだけど——
---
「ここで採れたものをロスロイで販売、調理して提供しても?」
そう質問していたのはグレイブだった。
鋭く——
「構いませんよ~、実際ロシナティスでは、いくつかのレストランなんかと提携していますね~、作物の販売もしてもいいですが~実際の農家さんの迷惑にならないように、商業ギルドの人と相談してください~」
「そのような決まり事では、そのルールを無視するものも出るのではないか?」
「でますね~、ですが、その時はここで働けなくなりますのでご理解ください~」
「え?」
そんなルールがあったの!?
『セレスの冗談ですよ、ただここに来ている者達は皆そのルールを守っているようですよ』
「そうなんだ……」
『ここ以外じゃ働けんかったら、しゃーないわなぁ』
「原価はタダで、提供できるわけか」
「そうなりますね~他のお店をつぶさないようにしてくださいね~、ロシナティスでもそういうルールの元で提携していますから~」
「浮いたお金は、懐に入れてもいいのか?」
ずっと、グレイブが質問しているような——
---
「構いませんよ~ただ、できたら働けない人たちや孤児たちのために使ってくれると嬉しいです~」
まぁ、セレス農園の理念はそこだし——
「ふむ、最後に、ここはどこだ?ロシナティスと言っていたが、トロランディア帝国にルマーン帝国がすっぽり入るような土地なんてあるまいに」
「気づきませんでしたか~?ここはロシナティスのダンジョンですよ~」
「なんだと!?」
ダンジョンと聞いて多くの者達が戸惑いの声をあげる。
驚き——
ざわつき——
「グレイブさんなら、センターリタの薬草園を知っているんじゃないですか~?」
「わしを知っているのか?」
「当然です~私はこのダンジョンの主である精霊ですから」
セレスが自分の身分を明かすと、ザワザワとしてくる。
どよめき——
グレイブが私を見る。
じっと——
「そこの娘の関係者か」
「そうですよ~ラミナと契約してますね~」
「ふむ……、腕の無い者が働いているのはなぜだ?」
---
「この農園は、ラミナが働きたくても働けない人たちの支援のために創られたの、だから、少しでも働く意思のある人に手伝ってもらってるの~」
ちょっと違う気がするけど、元は食糧難で困っていたロシナティスの民の為にってのがきっかけだったし——
そこから原価ゼロに近いものを商業ギルドに卸す際に利益をどうするかで、働きたくても働けない人とかそういう話になっただけだし——
「そうか……、ここに通うにはどうすればいい?」
「希望者には、ここに来れる札を渡しますよ~」
「では、もらおうか」
「は~い、どうぞ~」
グレイブをきっかけに、今回来たメンバー全員が、セレス農園の飛ぶための札を受け取っていた。
次々と希望者が——
「その札に魔素を流せば、元居た場所に戻れます~、では皆さんと働ける日を楽しみに待ってます~」
セレスがそういうと、徐々に人が減っていきスラムの人達は皆出たのを確認した後、セレスの元に駆け寄った。
タタタと——
---
「セレス、急にごめんね」
私は事前に相談無くスラムの人達を送ったことを謝った——
「ん~ん、久々に会えてうれしかったよ~、たまには遊びに来てね」
「うん、でもコンテナの物はいつもおいしくいただいてるからね」
「うんうん!」
セレスがにっこりと笑顔を見せる。
温かい——
「じゃあ、戻るね」
「うん、またね」
「私はヴィッシュです。セレス君、私も札をもらってもいいですか?時々果物をもらいに来たいので」
「いいですよ~」
セレスはそういうと、ヴィッシュに札を手渡した。
「あ、そうだ、待ってって」
セレスはそういうと、一瞬姿を消し、すぐに姿を現した。
パッと——
「ん?」
「これあげる~必要でしょ~?」
セレスがそういってヴィッシュに手渡したのは、大量のゴールデン・ヴァインの実を手渡していた。
籠に山のような——
---
「これは……、いいんですかこんなに?」
「いいよ~もう大量に在庫があるから~」
「ありがとうございます。とても助かります」
「うんうん!」
「セレスさん、私達ももらってもいいですか?」
「はい~」
アーニャと、メーガンにも札を手渡していた。
「私達も、時々買いに来ますね」
「うん~ありがと~」
「では、我々も帰りましょうか」
「はい、じゃあね、セレス」
「うん、またね~」
アーニャ、メーガン、ヴィッシュと姿を消し、私も元の場所に戻った。
ふわりと光——
そしてロスロイへ——
新しい希望を抱いて——
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