第327話 現実
火と風の子の量産も終わり、いよいよロスロイでの訪問治療を始めることになった。
「んじゃスラム街から行こうか~」
『スラム街でしたら、入ってすぐ左手に行けばいいですよ』
「了解~」
町の門を抜ける際、守っている兵士たちは特に何事もなく通してくれた。
というより、話しかけてこようともしなかった。何かあったのだろうか?
無言——
アクアに教わった通り、入ってすぐのところを左に向かって行くと、ボロボロの家屋が立っているエリアになってきた。
崩れかけた壁——
「ここが?」
『下級のなかでも下級と言われる方々が住むスラム街ですね』
「そうなんだ……」
家屋の中で過ごせるだけましなのかもしれない——
路上に藁を敷いて横になってる人もいた。
冷たい地面に——
---
「アクアとエセリアの子達だけで済む人は終わってるんだよね?」
『えぇ、ですが見ての通りです。ここはたくさんのクレイジーラットが居ましたし、ナノフリーもたくさんいました。なので……』
「針を使った治療が必要な人がいっぱいいると……」
『その通りです』
「ごめん、優先順位わかるようにしてほしいかも……」
『そしたら、うちがやるわ、うちの子が多ければ多いほど重度や、マックス5でどや?』
『それでよいかと』
『きまりやね、魔素もらうで』
ミントが私の肩に停まり魔素を持って行く、先ほどまでとは違い僅かなものだったが、それでも多くの下級精霊達が現れ飛んで行った。
ふわふわと——
「ありがとう」
さっそく、植物の下位精霊が集まっている藁の上で寝そべっている中年男性の元へ駆け寄る。
タタタと——
「大丈夫ですか!?治療しますね」
呼吸も荒く意識がない——
苦しそう——
男性の手を取り針を刺す。
チクッと——
エセリアが淡く光る。
ふわりと——
---
これで一人目終わり、男性に集まっていた下位精霊がまた別のところへ飛んでいく。
次だ、辺りを見渡した。するととある家の扉前に下位精霊が集まっている。
「あの家の中?」
『せやで、ただなぁ……』
「ん?」
扉に駆け寄り扉をたたく。
ドンドンと——
「すいません!大丈夫ですか~?開けてください~」
何度も扉をたたき声かけるも反応がない——
静寂——
どうすべきだろうか——
「あの~!」
『中の方はすでに意識がないんですよ』
「ぇ、まん丸!開けれる?」
『開けていいの~?』
「じゃないと助けられないよ!」
『わかった~』
まん丸がそういうと、地面に降り土を纏い、地面から大きな腕が生えた。
ゴゴゴと——
---
『開けるよ~どいて~』
私は扉から離れる。
サッと——
私が離れると、大きな腕がドアノブをつかみ勢いよく引くと、バキっという大きな音共に扉が外れた。
バキッ——
扉の前に集まっていた下位精霊達が一斉に中に入っていく、私も急いで後に続く。
ザッと——
中に入ると腐臭が漂っていた。
鼻を——
つく——
「ぇ……」
そこに居たのは、ネズミにかじられたと思われる跡のある男性と女性の大人の遺体と、母親と思われる女性の遺体のおなかの上に倒れこんでいる女の子の姿だった。
「この子だけ?」
『せやで、二人は二~三日前にな……』
「そっか……」
胸が痛い——
---
女の子の意識はない、針を刺して、エセリアが光る。
チクッと——
ふわりと——
『その子、この後どうやって生きていくのかな!?』
確かにそうだ——
両親が居ない今どうやって生きていくべきなんだろうか?
孤児院?それとも親戚の家——
「どうすべきなんだろう……」
「何をしておるんだ?」
突然後ろから声が聞こえ振り返ると、一人の男の子が立っていた。
リンクル族?
子どもの姿だけど、高齢者のような雰囲気があった——
「訪問治療をしてて……、精霊達からこの家の人が……」
「何故その子を死なせてやらなかった?」
「ぇ」
驚き——
「分からないか?両親はすでに死んでいる。その子は誰が面倒みるんだ?それにこの家に治療費を払うお金何ぞないぞ」
「お金はいらないです。ただ救える命は救うべきだと思ったから」
「その子はどうやって生きていく?まさかおぬしが面倒を見るのか?」
「……」
私は何も言えなかった——
言葉が——
出ない——
---
「どうするんだ?この町には孤児院は既に一杯、この子の親族なんておらんぞ」
「……」
「ほら、黙ってないで答えろ」
冷たい声——
『……こいつ、消すか?』
グレンのいらだったような声が耳に届く。
「ダメだよ……」
『ふん、そうか』
『訪問治療以前に、残されたものの行方ですか……』
『想像できとったけどな』
「なんだ?」
「なんでもないです。その子が目を覚ましたら、ロスロイの外にある治癒院に連れてきてください」
今はすぐに答えが出せない、ならばヴィッシュに相談すべきだと思った——
「わかった。そうさせてもらおうか、生かした命見捨てるなよ……」
「わかりました……」
私にはそう答えるしかできなかった——
無力——
私が答えると男が一度中に入り、女の子を抱きかかえて出て行った。
普通に動ける人が居る。ならば——
---
私は、男の子の後を追った。
タタタと——
外に出てすぐのところで捕まえ——
「待ってください!」
「なんだ?」
男の子はこちらを振り返った。
鋭い目——
「私は救える命はすべて救いたいんです。あなたが動けるなら、苦しんでいる人たちを連れてきてください!」
「……」
「お願いします!お金はいらないんです。苦しむ人たちを救うためにここに来たんです」
必死に頭を下げた。
「病に苦しむやつなんざ、この町に腐るほどいる。 救いたいなら勝手に救え。 ここはな……人生に見放された連中が、最後に流れ着く場所だ」
「生きることを求めてないと……?」
死が救いだと思える病を体験したからこそ思う。生きようと思わなかったらご飯すら食べてないと思う——
それでも、さっきの子の近くに食べかけのリンゴが転がっていた——
だから、私の中ではあの子はまだ生きたいと思っているはず——
「さよう……、死ねるなら死にたいと思うやつらは珍しくはないからな」
どうなんだろう——
そんなに絶望しているならそう思えても仕方ないけれど——
「それでも!」
叫ぶ——
「……、まぁいい……、ワシのように動ける奴はいるからな」
男の子はそういうと去っていった。
遠ざかる背中——
「……、手伝ってくれるんだよね……?」
『なんかむかつく!』
『だな』
『まぁ、ここにいる人たちは、ずっと夜のような環境なのかもしれませんね』
『明けない夜なんてないやん』
『そうですが、僅かな明かりすらない暗闇の中にいると思っているのかもしれません』
「なら、明かりになれるかな……」
私が——
『あなたは、そういう人たちのためにセレス農園を作ったのでしょう?』
「うん、働きたくても働けない人のために」
『ならば、セレス農園に連れて行ってあげればいいのではないですか?』
「セレスからもらった札……」
『えぇ、僅かでも魔素があればいけますからね』
「でも、あの子は?」
母親の遺体の上に横たわっていた女の子……。
『ふっふっふ、子どもの面倒を見る人が居ればいいじゃないですか、ラーグから預かったでしょう?』
「あのお金で……」
『えぇ、孤児院を建てればいいじゃないですか、なんなら事が落ち着いたら外の治癒院を孤児院にするのもありなんじゃないですか?』
「食べ物はセレス農園から、住む場所はまん丸が作ってくれる。人を雇うお金はラーグさんが……」
そうだ、私には力がある——
『えぇ、ラミナは持っているんですから、活用していきましょう』
「うん!」
希望——
アクアのおかげで少しは見えてきたかも!
その後も、精霊達の数を見ながら治療活動をつづけた。
一人、また一人救っていく——
止まらない、止められない、たくさんの命——
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