第326話 グループ
講堂の空気が、少しだけ張りつめた。
重い——
ヴィッシュの言葉が終わっても、すぐに誰も動かなかった。
静寂——
誰と組むか——
どこへ行くか——
そして——誰と一緒に動くのか——
それを決めるには、この場にいる全員が少し慎重になりすぎていた。
やっぱり、いきなり訪問治療は不安だよね——
私だって不安だ——
知らない家に行って、知らない人を治療して、しかも無料で、さらには時間との勝負で——
私と組みたい人なんて、いるのかな——
---
最初に動いたのは、メーガンだった。
「私は、ラミナさんと行きます」
即答だった——
迷いも、ためらいもない声だった——
「アーニャ先生も一緒しませんか?」
そういうとメーガンは、後ろにいるエルフの女性も誘っていた。
「え……?」
思わず声が漏れる——
驚き——
「そうね、私もご一緒しましょう」
エルフの女性が、穏やかに微笑んだ。
優しい雰囲気——
「現場から離れてはいましたが、治癒の基礎はまだ覚えています」
よかった、組んでくれる人が居た——
胸の奥が、少しだけ軽くなった気がした——
その後、周りも動き出しあわただしくなり、しばらくすると——
ざわざわと——
「全員グループを決まりましたかね?まだの人はいませんか?」
ヴィッシュが周囲を確認するも、誰からも声が上がらなかった。
静か——
---
「結構、それではそのグループで動いてください、ルールは簡単です。必ず一週間に二日は休みを取ること、全員同時に休みという事はないように、できれば交互に取ってください、またお子さんがいる方に対してですが、お子さんにも無理のないようにしてくださいね。次に、これから担当するエリアを決めていきます」
ヴィッシュはそういうと、町の全体が記されたバサッと地図を黒板に貼り付けた。
「ロスロイの人口はおよそ九千人ほどです。そして領主邸周辺地区、倉庫が多い港湾地区、商業地区、中級住居地区と下級住居地区に分かれます。ラミナ君のグループは他のグループのフォローに回ってもらいますが、これからほかのグループも皆さんの適正に合わせてこちらで割り振らせてもらいます」
私がいるグループは、全体のフォロー——
『当然だろうな』
『そうですね、私たちがいますし』
『せやんなぁ、うちらが居れば重病者がどこにいるかわかるからやね』
ミントの言葉を聞いて納得した——
なるほど——
ヴィッシュが次々と、他のグループの担当エリアを決めていく。
丁寧なやり取りができる人は領主邸周辺へ、荒事が得意な人は港湾エリアへ、優しい雰囲気の持つ人のグループは下級住居へと、的確にエリア配置を決めていた。
「これで全グループ決まりましたかね?決まってないグループはありますか?」
「あの~私達のところは最初はどこに行けばいいですか?」
初動の指示がなかったので、ヴィッシュに確認した。
「そうですね、ラミナ君」
「はい」
「最初は精霊達が重病者が居るというところに向かってもらってもいいですか?アーニャ君もご自身のスキルを活かして重病者のところへ向かってください」
「わかりました」
「メーガン君は、大丈夫ですか?」
「はい、重病の方と思われる方々の家なら把握しています」
メーガンの場合は、アリアナ率いる騎士団の力で把握しているのだろうけども——
アーニャのスキルって何だろう?
「結構、それでは三人は初日はそれぞれで別れて行動してください」
「「「はい」」」
「それでは、この後針を使った治療の講義を行います。自信の無い方は残ってください、それ以外の方は退出してもらって構いません」
私は知っているし大丈夫かな、そう思い立ち上がると——
---
「ラミナさん、十八時頃に外の治癒院入口に集まりませんか?」
そう言ったのは隣に居たメーガンだった。
「わかりました。大丈夫です」
「うん、じゃあ待ってますね」
「はい」
私は返事をして講堂の外に出た。
スッと——
『いよいよですね』
「うん、どこから行くのが正解かな?」
『せやなぁ、スラム街ちゃう?』
『そうですね、あそこは重病者もそれなりに居ますし、私とエセリアの子で針不要の方達の治療に当たっちゃいましょうか』
アクアがそういうと、エセリアがニコニコしながら頷いた。
「んじゃ魔素を渡せばいいかな?」
『えぇ、ハイマジックポーション三本程用意してもらっても?』
って、どれだけ出すつもりなんだろうか?
「うん……」
『では、エセリア行きましょうか』
アクアがそういうと、再びエセリアがニコニコしながら頷いた。
二人が私の腕に停まると、体内からすごい勢いで魔素が二人に流れていく、それと同時に、水と光の上位、中位精霊達がものすごい勢いで生み出されロスロイの町の方へ去っていく。
ぐんぐん吸われる——
キラキラと飛んでいく——
『そろそろ飲んだ方がいいよ~』
「うん……」
一本目のハイマジックポーションを飲み体内魔素を回復させるも、回復量が追い付いているのか怪しいレベルで魔素が吸われ水と光の子が量産されていく。二本目、三本目と続けていると、水と光の子があふれかえりどこに行っているのかもわからないレベルだった。なんとなくだけど、ロスロイ以外にも向かって行ったような——
果てしなく増えていく——
「あのさ……、こんなに必要だった?」
私の中では、多分数千というレベルで量産されたと思っている——
『えぇ、むしろ足りないくらいです』
「ぇ?」
『ロスロイだけやないで、対岸のトロランディア帝国方面にもたくさん飛んでったで』
「あ……、そうなんだ……」
『えぇ、その通りです。上位の子は数百回ほどアクアクリーンができますし、中位の子はその半分ほど、エセリアの方も同じような感じだと思います』
エセリアもニコニコしながら頷いている。
それだけいれば、重病者以外はどうとでもなるのでは?
「重病者のみ残した感じ?」
『そんなことはありませんよ、この病はもっと多くの地域で広がっていますからね、トロランディア帝国やミネユニロント方面の一部しか、と言ったくらいです』
「そうなんだ……」
それでも感染速度はだいぶ緩和される気がするのは気のせいだろうか?
「次はグレンとフゥの方がいいでしょうね」
『クレイジーラットとナノフリー退治だな』
『せやなぁ』
『頑張るよ!』
ん~、もっと早い段階からそうすればよかったのでは?なんて思いながら、火と風の子量産を始めることになった。
再び魔素が吸われる——
体が軽くなる——
そしして軽くめまい——
でも、止められない——
必要なこと、たくさんの命のために——
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