第325話 病の講義
治癒院の外に出て驚いたことがある。
治癒院の前に道ができ、対面に住宅街と思われるようなエリアが広がっていた。
ちょっとした庭付きの同じタイプの家が複数あった。
整然と並んでいる綺麗——
「うわぁ……」
私だけじゃない、周りからの驚きの声が上がっていた。
ざわざわと——
「これは、これは、ここにいる子たち全員分以上存在しそうですね」
『当然だよ~もっと増えると思うから一応作っておいた~』
ヴィッシュの言葉にまん丸がすぐ反応していた。
「そうみたいです……」
「そうですか、では行きましょう」
---
スコルの留守を預かっているのか、ハティも一緒に来たし、アリアナの部下、メーガンも治癒院のメンバーたちの中に居た。
不思議なことに、近くにいる錬金科の卒業生と仲良く話をしているのが気になった。
笑顔で——
自然に——
暗部だからなのだろうか?
人と馴染む速さがすごいと思った——
「メーガンさん、すぐに馴染んでるね……」
『諜報とか得意とする人間には必須スキルですからね、それに……』
「ラミナ君はメーガン君を知ってるんですか?」
そう言ったのはヴィッシュだった。
「はい、アリアナさんの部下だそうですが、ヴィッシュ先生は何か知ってるんですか?」
「あぁなるほど、彼女は以前グリーサの治癒院に居たんですよ」
「ぇ……」
驚き——
それは、諜報活動の一環として——
「情報集めのためですかね?」
「かもしれませんね、ですが治癒の勉強に熱心でしたし、ボクとしてはあまり気には留めてませんでしたね」
「先生のスキルでも?」
「そうですね、アカデミーに入れなかったからこそ、治癒院でいろいろ勉強していましたよ」
「そうなんだ……」
---
そんな話をしていると、研究所にある大講堂に到着し、それぞれが席に着く。
広い——
階段状に——
私は教壇の正面に位置する場所に座ると、横にメーガンと数人の人が私の周りを囲むように座ってきた。
「ぇ……」
「ふっふっふ」
メーガンが何やら微笑むと、周りの人達も微笑んだ。
何——
ヴィッシュが教壇に立つと辺りを見渡し——
「さて、全員席に着きましたね、それでは初対面の方もいると思いますので、各自前に出てきて自己紹介してもらいましょうか」
ヴィッシュが言い終えた瞬間、私と目が合った。
じっと——
「うん、ここは主役のラミナ君から行きましょうか」
「ぇ」
やっぱり——
「ここに居る方は皆、ラミナ君に興味を持っている子達ですからね」
『そうなるわなぁ』
「……、わかりました……」
私は席を立ち、前に出た。
ドキドキ——
周囲の視線が集まり緊張度が増す。
たくさんの目——
大きく息を吸い、大きく吐いた。
ふぅ——
---
「アカデミー基礎学年2年の、ラミナです。よろしくお願いします」
何を言えばいいのかわからず、簡潔に済ませた。
「いいですよ、戻ってください」
「はい」
席に戻り他の人の自己紹介を聞いていた。
一人——
また一人——
メーガン以外は、錬金科の卒業生であり、各地の治癒院で働いていたり、ヒーラーとして冒険者活動していたりしていた人が多く、今回集まった人たちはそれらの活動から結婚などの理由で一線を退いた人たちが集まっている事を知った。
人族だけではなく、リンクル族やエルフ族、犬系の獣人族もいた。
様々——
一通り自己紹介が終わると——
「それでは、今回の病について説明します」
前にある黒い岩で出来た黒板に、ヴィッシュが文字を書いていく。
カリカリと——
レクト病と、その進行と——
そしてヴィッシュの講義の内容はこうだった——
レクト病、クレイジーラットが病原菌を持ち、ナノフリーが媒介し人を噛む事で人が感染すること、そして感染した人の咳を吸い込む事でも感染すること等を説明していた。
この部分に関しては先日ヴィッシュから聞いた内容だった——
問題は次だ、感染から発症、重症化して死に至るまでの過程だった——
まず、前回聞いていた通り、リンクル族、猫系獣人は感染しない、リス系、ネズミ系獣人は感染しても発症しない事を説明したうえで、次のように説明していた。
ナノフリー経由の場合、感染から発症まで約三日の猶予があり、そこから重症化まで三日、そこから死までが一~二日が基本だが、発症までの速度はその人の体内魔素量に比例すると、魔素量が多いと感染から発症まで、発症から重症化、そして死までの間隔が短くなる事。
感染者の咳による飛沫感染の場合は、半日程で発症、重症化するまで発症から数時間から半日程、遅くとも翌日には死に至ると、早いと発症三時間後に死亡する例もあると——
こちらも魔素量が多いと間隔が短くなると——
「そのため、各自鐘が鳴り次第、自身に浄化なりアクアクリーンを行ってください。それでもなんらかの症状が出た場合は、別の事例となる可能性があるので先ほどいた治癒院にいる私かウッズ君の元まで来てください」
別の事例ってなんだろうか?
「あの、別事例ってどういうことですか?」
講堂に居た誰かがヴィッシュに質問していた。
後ろの方から——
「そうですね、この後お伝えする治療法では対応できない可能性という事です」
ヴィッシュの答えを聞いてすぐに理解できた。肺、血液やリンパ腺以外にレクト菌が行った場合の話だ——
「別ですか……?」
「えぇ、皆さんは敗血症を知っていますよね?」
講堂内にいる全員が頷く。
静かに——
「この病は、どちらの感染でも敗血症に繋がります。そしてその菌が体内のどこかに行き、たどり着いた先次第での症状が出ます」
「場所次第では……ってことですか」
「えぇ、その通りです。幸いそうなっても何とかなる望みはあります」
そう言ってヴィッシュが私を見た。
視線を感じる——
場所に寄りけりだが、切って治すという事だ——
「わかりました……」
「そして、肝心の治療法ですが、先にお伝えした通り、そのままアクアクリーンまたは浄化で対応可能ですが、ナノフリーに噛まれた感染の場合は、穴の開いた針で指先を刺してからアクアクリーン、浄化をしてください。この二つで問題ないはずです」
「ヴィッシュ先生、人を傷つけて治療ですか?」
ざわめき——
「えぇ、その通りです。この治療法ですが、メフォス教の教えの理から外れます。皆さんも理由を知っているでしょう?」
「ウォンバル様が認めた治療法だから……」
「その通りです。治癒師による治療行為においてはメフォス教の理の外になります。これはウォンバル様も認めていますよね?」
ヴィッシュは、そういうと教室後ろの方に居たハティを見た。
「ふむ、本来の姿になろう」
ハティはそういうと、パッと、白い大きな狼に姿を変えた。
「わが母、ウォンバルが認めた行為というのは間違いない。それは我が名に誓おう」
堂々と——
「そういうことです。人語を話す狼が存在しないのは皆さん知っての通りです。その存在が出てくるのはメフォス教の経典の中のみ、理由はわかりますね?」
「「はい」」
何人かが声を出し返事し大半の者達が頷いていた。
「よろしい、穴あき針はこれから配布します。不安な方は講義が終わり次第、使い方を説明しますので残ってくださいね」
ヴィッシュが講義に参加している全員に穴の開いた針を渡していく。
一人一人に——
「全員に行きわたりましたかね?ない人は言ってくださいね」
ヴィッシュが辺りを見渡し確認するも、特に返事等がなかった。
静寂——
「よろしい、それでは次に行きましょう、これから二~三人のグループに分かれてもらいます。そのグループで訪問治療をしてください」
えぇ——
私と組んでくれる人いるのかな——
不安になってきた——
ドキドキ——
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