第322話 レクト菌と防衛機構
何かあったのだろうか、ヴィッシュがこっちに向かってバタバタと走ってくる。
「はぁ、よかった」
息を切らして——
「どうしたんですか?」
「キャットバット達が一斉に出て行ったの何事かと思いまして」
「あぁ、すいませんゴールデン・ヴァインをミーシャに食べさせてたので……」
「何事もなくてよかったですよ」
『おや?回復されていますね』
「ぇ」
驚き——
「どうしました?」
「特効薬出来たんですか?」
「いえ、出来てませんよ?どうしてです?」
「いえ、アクアがヴィッシュ先生が回復しているって」
「なるほど、そういう事ですね」
「何かあったんですか?」
「えぇ、色々なことがわかりましたよ、立ち話も何ですし、中に入ってお話ししましょうか」
ぐったりと酔いつぶれているミーシャをはじめキャットバット達を拾い集めてから治癒院の中に入った。
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ロビーに入ると、ヴィッシュがこっちを見た。
真剣な表情——
「まず、私が回復した理由なのですが、おそらく過去にドラゴンブラットを飲んでいるからかもしれません」
「若返るやつですよね?」
「えぇ。リタ君と旅をしているときに譲ってもらったものです」
「はぁ、魔大陸にでも行ったんですか?」
「いえ、ドラゴンは魔大陸以外にも生息域があるんですよ」
「そうなんだ」
「えぇ、まぁ魔大陸にも言ったことはありますが、ボクが飲んだのは魔大陸ではありませんね」
「ドラゴンブラットを飲むと病気にならないってことですか?」
「いえ、それは違いますね、特定の病に強くはなりますね、過去にも実験中に症状が出る前に回復したことが何度かありましたし、症状が出てしまった病もあるので、一概にはってところですね」
「万能薬ではないと」
「えぇ、たまたま今回の変異種に対して有効だったというわけです」
「なるほど……」
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「それから、ラーグ君のシュミレーションによっていくつか判明したのですが、まずリンクル族は感染しませんね」
「ぇ、そうなんですか?」
意外——
「えぇ、リンクル族は元々病気やケガに対して強い種族ですが、今回も同様のようで、白血球、ラミナ君風に言うのであれば防衛隊がちゃんと機能しているようでした」
「へぇ……」
「他にも、一部獣人の人達ですね、猫系獣人の方は感染しても回復しますし、リス系やネズミ系の獣人は感染しても症状が出ることはありませんでしたね」
「そうなんだ、他にもそういう人いるんですか?」
「そうですね、他は生まれつき魔素を持たない方も感染してもすぐに回復しますね」
「生まれつき魔素がない人っているんですか?」
『おるやろ、魔素が生まれる前は皆魔素無しやで』
あぁ、そういえばそんな時代があったのを思い出した——
「えぇ、一定数存在します、これはドワーフ族や人族に多く見られますが存在するんですよ」
「そうなんだ、魔素と関係してくるんだ」
「えぇ、今回の菌を仮にレクト菌と名付けておきましょうか」
レクトーン大陸から来た菌だからって事だろうか?
「彼らは増殖する際に、宿主の魔素を使うんです。なので魔素のない方の中では増殖できないんです」
「だから防衛隊も普通に働くと」
「えぇ、ちょっと机のある所へ案内してもらってもいいですか?」
「あっ、はい、こっちです」
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診察室に案内すると、ヴィッシュがガサゴソと鞄から何かを取り出した。
「ラミナ君は精霊顕微鏡を持っていますよね?」
「多分?」
以前、マジックバッグの中に入っていると聞いたけども、一度も使った記憶がない——
「出してもらってもいいですか?」
「はい」
マジックバッグに手を入れ精霊顕微鏡と念じると、手元に金属のようなひんやりとした感触が現れた。
バッグから手を取り出すと、ルマーンの研究所で見たことのある顕微鏡が出て来た。
「それでこれを見てください」
ヴィッシュはそういうと、精霊顕微鏡に何かをセットした。
カチャッと——
精霊顕微鏡を覗き込むと、大小の黒い点と透けてる円形の何か、そして少し離れたところに、細い紐状の何かが蠢いていた。
動いている——
「なんですかこれ……」
「まず、黒い点ですが、それが防衛隊です」
「黒い点みたいなのって大きさが一回り違うのもいるんですけど、これもそうなんですか?」
「えぇ、大きい点はドラゴンブラットを飲んだ人に現れる特殊な防衛隊だと思ってください、そしてこうすると……」
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防衛隊と、細い紐状の何かが混ざり合い、細い紐状の何かが面白い勢いで分裂していく。ということは、おそらくヴィッシュは魔素を流し込んでいる。
「細いのはレクト菌?」
「えぇ、大きい黒い点は動いていますか?」
「いえ、小さいほうはレクト菌にぶつかっていますけど、大きい方はあまり動いてないです」
「えぇ、それで問題ありません」
この時点で働かない防衛隊に意味ってあるのかな——
そんなことを思いながら見続けていると、レクト菌にくっついていた小さい黒い点がおかしな動きを始めた瞬間、大きな黒い点が小さい黒い点をパクッと飲み込むような動きを見せ、直後に別のところから小さい黒い点が出て来た。
「ぇ、なにこれ……」
「大きい方の動きが出ましたか?」
「はい、小さいのがおかしな動きを見せた瞬間飲み込むような動きを見せたと思ったら別のところから小さい黒い点が沸いてきました」
「えぇ、その大きい黒い点は、操られ始めた防衛隊を正常に戻すための機能があるようですね」
「防衛隊というより、ヒーラー……」
すごい——
「えぇ、そうですね、他にも防衛隊を増殖させる機能もあるんですよ」
「防衛隊の拠点みたいな……」
「そうですね、とりあえずドラゴンブラットを摂取した人の免疫機能はこんな感じですね、次にこちらを」
ヴィッシュはそういうと、再び何かをセットした。
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覗き込むと今度は、さっきよりは大きなレクト菌と少し離れたところに、先ほどの大きい点がなくなっただけのもののように見えた。
ただ、気になるとしたら、小さい黒い点が異様に多い気がする。
たくさん——
「これは?」
「これからイリーナ君の血を混ぜます」
イリーナ、錬金科の卒業生であり、先生をしているリンクル族だ——
ヴィッシュがそういうと、今度は何というか、黒い点がレクト菌に一斉攻撃を仕掛け、紐状のレクト菌の全身がかじられていくように見えるシーンが映っていた。
バラバラに——
「なんというか……、レクト菌が細切れにされてる感じですかね……?」
「その通りです。リンクル族の方たちは身体が小さいからなのか、防衛隊もかなり小さいんです。そして、ほとんどの菌は今見たように部分部分を食われ正常に機能できなくなるんです」
「それが病に強い理由……」
「そうです、面白いですよね、同じ人種でも種族によって防衛機構が異なるんです」
「そうですね……」
興味深い——
「それでは、最後に普通の人の血と混ぜてみましょうか」
ヴィッシュはそういうと、再び何かをセットしてくれる。
「ラミナ君の血を使ってもいいですか?」
「はい、大丈夫です」
「では、ここに」
ヴィッシュはそういうと、透明なガラス状の板の上を指さした。
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鞄から穴の開いた針を取り出し、チクッと自分の指にさす。
ぷくーっと出て来た血を指示された場所に垂らした。
「これでいいですか?」
「えぇ、そしてこれを……」
私が垂らした血の横にスポイトで何かを垂らしていた。
ポタッと——
「その中にレクト菌がいるんですか?」
「えぇ、その通りです、覗いててください」
「はい」
「では、行きますよ」
ヴィッシュがそういうと、私の血とレクト菌のいる液体を混ぜたのか、黒い点とレクト菌の戦いが始まった。そしてしばらくするとレクト菌が増え続けているのにもかかわらずスルーする黒い菌が増えていく……、レクト菌の方から黒い点に戦いを仕掛ける気配は最初からなかったが、黒い点もレクト菌に向かっていくことなく周囲を漂っているだけになり、しまいには黒い点が少し膨らみ破裂すると、中から複数のレクト菌が出てくるという……、最終的に視界の中には増えに増えまくったレクト菌しかいなくなった。
絶望的——
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