第32話 精霊達の索敵と最初の獲物
馬車から降り立った瞬間、まず目に飛び込んできたのは、一面に広がる草の海だった。丈はくるぶしほどで、風に吹かれてさわさわと揺れ、波のようなうねりをつくっている。遠くには、木々が連なる薄暗い森の影も見えた。
私たちは草を踏みしめながら、クロエ先生の指示に従って整列し、平原の入口に集まる。
「よし、Sクラス全員そろったな。これから五日間、昼までここで過ごしてもらう。ケガをしたらすぐにここへ戻ってこい。あと、森に入るのは自由だが――ゴーレムが出る遺跡には近づくなよ!」
『なぁなぁアクア、ゴーレムってたしか、地の子どもやったやろ?』
『そうですね。私たちがいれば問題ないと思いますよ』
……つまり、遺跡に行くつもりってこと?
「行く気なの……?」
『そりゃ、ノームはそこにおるからね』
ノームがいるなら、行かない理由がない。
「ラミナ、今なにか言ったか?」
――しまった、また声に出してた。
「あっ、大丈夫です!」
「そうか。それじゃあ、解散だ! 健闘を祈るぞ!」
先生の合図で、生徒たちはそれぞれパーティーごとに分かれて散っていく。
「ミアンよ、俺たちはどうする?」
「そうですね。課題の素材はすべて森の中で手に入るものなので、そっちへ行きませんか?」
話し合った結果、私たちのパーティーは、ミアンがリーダーを務めることになった。
「はい」
「了解」
「は~い」
陣形は、ジョーイを先頭に、私、ミアン、クロードの順で森へと足を踏み入れる。
『狼だらけやなぁ』
『はい、相当数がいるみたいですね』
……ミントとアクアが索敵してくれてるのかな?
「ジョーイくん、精霊たちが狼が多いって」
「わかった」
「精霊さんって、ほんと便利ですね」
「まあねぇ」
森の中――つまりミントの得意分野に入ってきた。
『よっしゃ! ラミナ、両手前に出して!』
いきなりミントが声を張り上げる。
「え?」
言われた通りに両手を出すと、
「どうしたんですか、急に?」
そのとき、どこからともなく黒く小さな鳥の死骸――蔦に絡まったミニブラックバードが飛んできて、私の手の上に落ちた。
「え? うわっ……!」
反射的に声を上げてしまった。
「なんだよ、うるせぇな……。ミニブラックバードか……。いつの間にやったんだ……?」
「今、右の方から飛んできましたよね~」
クロードは冷静に方向を見ていたようだ。
「……この子、まだ温かい。でも死んでる。それに、この蔦……ワイルドプラントのやつだよね?」
「なんか、精霊さんが両手出せって言うから出したら、勝手に……」
「精霊がやったってのか?」
『せやで~』
「そうみたい」
「……好戦的なのか、協力的なのか……。まあいい、どこか見晴らしのいいところで解体しよう」
「ばらすって、解体ってこと……?」
ミアンが確認するように尋ねる。
「ああ。血の匂いで狼をおびき寄せる」
「そんなことして大丈夫なの?」
「問題ない。ラミナの精霊が力を貸してくれるなら、対応は可能だ」
『まかせとき。気合い入れてやるわ』
『私も準備はできています』
『この先に開けた場所があるから、やるならそこでええんちゃう?』
「精霊さんたちは、やる気満々みたい。それと、このまま進めば開けた場所に出るって」
「了解。そのまま行こう」
歩き出すと、今度は次々とミニブラックバードの死体が、蔦に絡まれたまま私の腕の上に落ちてくる。全部で六羽分。完全に精霊たちの仕業だ。
『なぁ、ラミナ』
「ん?」
『ホーンラビット、この森にはおらんで』
「え?」
『本来ならこの森に住んどるんやけど、狼が増えすぎて生態系が崩れてるねん』
「……ってことは、課題達成できない可能性あるってこと?」
「どうした?」
ジョーイが前を歩きながら問いかけてくる。
「森にホーンラビットがいないって。狼が増えすぎて、生態系が崩れてるらしい」
「全くいないのか?」
『森の中にはおらんけど、遺跡の中にはおるで』
「遺跡の中にいるって……」
「は? ゴーレムと戦うのかよ」
「中にいるってだけで、別に行かなくてもいいんじゃない?」
『ノームもおるから、行かへんとあかんやろ』
ノームと接触するなら行かざるを得ないけど……他のメンバーの迷惑にはなりたくない。
「……まあいい。とにかく、まずは進もう」
そして、しばらく歩いた先――森の中にぽっかりと空いた、視界の開けた場所へとたどり着いた。
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