第318話 初対面
魔素を流すと、視界が一転し、広大な薬草園に飛んだ。
緑——
どこまでも——
「うわぁ、広い」
『それでも、セレス農園よりは狭いんですよ』
「ぇ、そうなの?」
『せやで、その理由もすぐにわかると思うわ』
「ん???」
私の後にすぐヴィッシュも飛んできて辺りを見回していた。
きょろきょろと——
「居ませんね……」
「誰を探しているんですか?」
「このダンジョンの主ラーグ君ですよ」
ヴィッシュがそういった瞬間、近くに五十代位の渋いおじさんが姿を現した。
パッと——
この人がリタと契約した空間の大精霊——
「ヴィッシュ、今日は何の用だ」
落ち着いた声——
「まずは、こちらの方を紹介したくてね」
おじさんが私を見る。
じっと——
「ほぉ、リタの子だな、よく似ている。君の事はセレスとクゥからよく聞いているよ」
私と契約している空間の大精霊クゥとセレスからどんな話を聞いているんだろうか——
「あっ、初めましてラミナです」
「うん、私はラーグ、このダンジョンの主だ、光の大精霊は初めましてだな」
ラーグがそういうと、エセリアがニコニコしながら頷いていた。
「あれ?フゥとは会ったことが?」
精霊達の話を聞く限り、リタは、フゥと別れた後にセンターリタの町づくりに関わっていたはず——
「あぁ、町の方で何度か見かけて話したことはある」
『こいつリタと契約切られた後もくっついて来とったからなぁ』
そういえば、昔リタの最期の話を聞いたときにミントがそんなことを言っていたのを思い出した。
---
「それが用事ではないだろう?」
「えぇ、本題に入ります」
「なんだ?」
「今私の体は病に侵されているのが分かりますか?」
「ふむ」
ラーグがヴィッシュの体をじーっと見る。
真剣な眼差し——
「セリスが言っていた病だな、そんなもん持ってきたという事は、特効薬づくりに協力しろという事か」
セリスが言っていたって事は、すでにロシナティスの町の中に感染した人が入ってきたって事だろうか——
「えぇ、お察しの通りです。それ以外にも感染の流れが知りたいですね、お願いできますか?」
「構わん、セリスのいる場所とお前のいる場所が違う事を考えると世界的に流行か」
「えぇ、センターリタの方は大丈夫ですか?」
「船乗りが全滅した船がリタ運河を漂っている話を聞いてるくらいだがな」
恐ろしい——
「それくらいで済んで何よりです。レクトーン大陸からの船には注意してください」
「孤立した大陸か、了解だ、いつもの場所に行くがいいか?」
「えぇ、お願いします」
ヴィッシュが返事をすると、一瞬で視界が変わった。
パッと——
ふと、ルマーン国立微生物薬学研究所の内部によく似ている構造だった。
見覚えのある——
「なんか研究所と同じような構造……」
「当然ですよ、研究所は、ここを模した建物ですからね」
「へぇ……、ってことは先生のダミーをつかって経過観察ですか?」
「えぇ、ここでは研究所以上に高いシュミレーションができますからね、緊急を要する場合はこちらで病理や特効薬の研究をするんですよ、緊急性を要しなければ各地の研究所でいいんですけどね」
「時間の流れとか、人のダミーが使えるから……」
「そうです、外の世界だとオークやゴブリンなんかを使いますが、ここでは生み出した人種でシュミレーションができますからね」
「ダンジョンだから出来る事……」
「えぇ、その通りです。最初は薬草園だけでしたが、錬金科を開くにあたり世界中を旅して世界の病を薬草集め、そしてここでシュミレーションして病理と薬づくりをしたんです」
「はぁ……」
すごい——
「ちなみに、手術の練習もここで出来るようにしてもらったんですよ」
「ぇ?」
「クゥのところとやり方は同じだ、君が見てきた事をクゥと共有しダミーを作る。それをイリーナ達が練習しているんだよ」
「各地の治癒院から飛べるようになっていますからね、しいて言うならラーグ君が共有できるのはクゥ君だけ、クゥ君は君が見たことをそのまま共有していますからね」
「だから私が見てきた事例をそのまま体験することが出来ると……」
「えぇ」
「リタが亡くなってからは共有できる相手が居ないからな。クゥかセリスからしか共有できんのだ」
「そっか……」
「こっちに」
ラーグが先頭を歩き、ヴィッシュと私が続く。
コツコツと——
足音が響く——
ついていくと、一つの町のような空間ができていた。
広い——
「ここに……」
ラーグがそういうと、ヴィッシュのダミーが現れた。
パッと——
「このダミーって……」
「感染済みだ、菌の宿主は?」
「死体でいいならこちらに」
ヴィッシュはそういうと、クレイジーラットの死体を複数取り出した。
「それで構わない」
「最初の段階はナノフリーを経由して感染が多いと思います」
「そのナノフリーは?」
「居ないので作り出してもらっても?」
「仕方あるまい、どれくらい用意する?」
「そうですね、クレイジーラットの数=で始めてもらっても?」
「了解だ」
二人の話を聞いていて思う。これは感染速度とかをシュミレーションするという事だろうか?
「感染速度を見るんですか?」
「えぇ、それからちょっと面白い事をしましょうか」
「面白いこと?」
「えぇ、ラーグ君、昔リタ君が好んでやっていた設定をお願いしても?」
「あぁ、それでは少し離れようか」
町の空間から少し離れたところで立ち止まると、2匹のクレイジーラットが町の中に入り込んだ。
チチッと——
鳴いている——
「クレイジーラットは必ず雄と雌が居ないと繁殖しないのですが、妊娠期間が五日~七日程とすごく短いんです」
「ぇ!?そんなに短いの?」
「えぇ、そして生まれてから十日ほどで成獣になります」
「ぇ、妊娠から出産、子どもが大人になるまでに十五日くらいなんですか?」
「最短ではそうなりますね、環境によりけりですが、1回の出産で10匹ほど生まれますが、成獣になるまでの生存率は6割ほどと言われています」
「それでもかなり速い速度で増えますよね?」
恐ろしい——
「その通りです。現在のクレイジーラットの生息地は二か所、蓬莱北部の荒野とレクトーン大陸の内陸部です」
「この辺りから遠い南の地で始まっているって、アカネが行っていました」
「なるほど、そうなるとやはりレクトーン大陸のクレイジーラットですね」
「あれ?以前蓬莱北部にしかいない種みたいなこと言っていませんでしたっけ?」
ロスロイに来る途中でそんなことを聞いた記憶があるんだけども——
「えぇ、リタ君と旅していたころの話ですよ、ですが、あれから二〇〇年近く流れていますし、実際レクトーン大陸の海岸部でもクレイジーラットの生息を確認されているんです」
「そうなんだ……」
『ヴィッシュは"当時は"って言っとったで』
『蓬莱北部は、この星の北側、レクトーン大陸は南側とかなり離れているんですけどね』
『まぁラット系なんかは、人間の移動で荷物に交じって世界中に移動する可能性があるからな』
『だね~、昔より交易が盛んになってるし、不思議ではないよね~』
『そうですね、実際今はこの地に居ますからね』
「そっか……」
「さて、初めてからすでに五日目だが、かなり多くの人間が感染しているな」
ラーグの声——
「そのようですね……」
「えっと何を見て判断してるんですか?」
私にはあまり変わっていないように見えた——
「通りにいる人達を見てください、咳をした後口から赤い煙が出てますよね?」
咳をした人の近くを通った人が吸い込んでいる。
「えっと、あれが何か意味あるんですか?」
「あの赤い煙部分は今回の病原菌が含まれているんです」
「ぇ、それってクレイジーラットとかじゃなくナノフリーでもなく、ヒトからヒトへってことです?」
「そういうことです。ラミナ君の言う敗血症が始まっている方なんでしょうね」
「肺に菌が行って……、そこから気管へって事ですよね……」
「そういうことですね、自分で治すことが出来ずクレイジーラットやナノフリーを何とかしても、ヒトからヒトへと移る……、となると、早め早めの対応をしても追いつかなくて当然ですね……」
絶望的——
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