第312話 ロスロイの現状
翌朝——
兵士たちの治療が終わると、そのまま臨時治癒院で寝てしまった。
疲れていた——
「ん~、夕べ結構水の子が集まった人たち来てたけど、あれで全員?」
『えぇ、保菌していた方はすべてこちらに来ていましたね』
「じゃあ次は町の人だけど、軍の人がいたら来れないよね……」
『えぇ、ですが昨夜遅くに引き上げましたよ』
「ぇ?」
『スコルとハティが居ますし、ここに建物を建てたとなると、争いなんてできませんからね』
「あぁ、それで……」
辺りを見渡すと、ミーシャどころかハティの姿もなかった。
「あれ?ミーシャとハティは?」
『ハティと狩の練習に行ってるで』
「あっ、そうなんだ」
それはそれでいいのかな——
「んじゃ、街の中に行ってみよう」
『いいんじゃねぇか?』
---
身支度を整えて臨時治癒院を出ると、外に赤と白毛の長いポニーテールをした釣り目のお姉さんが壁に寄っかかっていた。
綺麗な人——
「えっとスコルさん?」
「あぁ、そうだが?」
「ずっとここに居たんですか」
「そうだが?」
中で待っていれば良かったのにと思いながら私は何も言わなかった。
「で、町に行くのか?」
「はい、そうしよかと」
ふと町の入り口の方を見たが門は開いていた。
静かに——
「そうか、なら行くか」
スコルが歩きだしたので、私も後に続く。
「町に行って何をする?」
「ぇ?普通に病気の流行り具合なんかを見ようかと」
「ふ~ん、精霊から何も聞いていないのか?」
「ぇ?」
こういう時に一番最初に情報をくれるアクアの方を見た。
『直接見てからでよいかと思ったのですが』
「ん?」
『あんな、クレイジーラットの巣みたいになっとん』
『町のあちらこちらにクレイジーラットの糞が落ちてるんだよ~』
『だからね!病原菌があちらこちらに舞ってるの!』
「ぇ?だめじゃん!町の人全員がすでに保菌というか感染しているってこと?」
『せやで、ほんでな、なんもせんかったら、間違いなく滅んでるで』
『まぁ、全員と言っても差し支えのないレベルと思っていただければ結構です』
という事は一部感染していない人もいると——
それでもなぁ——
---
『おまけにだ、港の方にはすでに感染して死亡した船乗りが並べられてるな』
「それって、何とかしないと感染源になるんじゃ……?」
『条件次第ですね、死体の血液や体液に病原菌が含まれる場合は触れなければいいのですが、肺や気管の部分に病原菌が残っていた場合、運搬や死体を動かした際にわずかでも肺が動いたりすると、体外へ押し出されて外に出てくる可能性が出てきますね』
「えっと、エセリア、悪いんだけど、町全体に浄化魔法をお願いしていい?」
まずは、町全体の環境をきれいにしないとだ——
エセリアがニコニコして頷くと僅かに光った。
ふわりと——
優しい光——
「ありがとう、とりあえずこれでいいとして、街中に散っている糞はこれで大丈夫だよね?」
『えぇ、今ので問題ないですね』
「それじゃあ、あとは死体だね、見つけ次第浄化をお願い」
再びエセリアがニコニコして頷いた。
「クレイジーラットか~」
『そっちは、キャットバットと有志でどうにかしないとですね』
「巣みたいになっているって事は、結構な数がロスロイに居るってことだよね?」
『おるで~、ぎょうさんおるで』
『そうだね~、日中は薄暗いところでじーっとしているけど、夜は外に出てくるよ~』
「それにくっついているナノフリーは?」
『それこそ、そこら中にいますよ、この辺りは寒いのもあり水浴びする風習がありませんからね、あちらこちらに居ますよ』
「クレイジーラットよりもそっちの方が……?」
『だろうな』
『この町というより、メレス王国内はナノフリーの方もどうにかしないとですよ』
ん~、ロスロイの町に入りたくないんだけど……。
でも、やらなきゃ、私は、深呼吸をして、町の門へと歩き出した。
スコルと一緒にロスロイの町門を潜り、町に入ると、一見普通の港町のように思えた。
石畳の道——
並ぶ建物——
大通りを行きかう人々——
「なんか普通の町って感じだけど」
そう呟いた瞬間、どこからか「ゴホッ」という重い音が聞こえた。
一人、また一人。
行き交う人々が、胸をかき抱くようにして短く咳き込んでいる。
その顔色は一様に青白く、まるで何かに怯えるように足早に通り過ぎていく。
活気あるはずの市場の喧騒に、断続的な咳の音だけが、不協和音のように混じっていた。
『表向きだけやろ。……ほら、あの連中の足元、見てみ。ナノフリーが跳ねとるで』
『ですね、今通りにいる方のほとんどはナノフリーのどこかしら噛まれていますが、現時点では自覚症状がない状態ですね』
「昨日の兵士さんみたいにか~、グレン、ナノフリー対策お願いね」
『あぁ任せとけ、くっついている奴は手を出さんが、離れたやつらは燃やしとく』
『一番ひどいのは港エリアですね、船乗りや港の関係者に発症している方が多いです』
「そっか……」
深刻な状況……。
「港の方に行くか?」
「うん」
私が返事をすると、スコルは人の姿から元の赤毛と白毛の大きな狼の姿に戻った。
パッと——
一瞬で——
街中、それも人通りのある大通りで姿を変えたものだから、あちらこちらから悲鳴やら驚きの声が上がった。
「きゃあ!」
「お、おおかみ!?」
ざわめき——
「乗れ」
スコルがしゃがんでくれたので、背中にまたがる。
ふわふわの毛——
「ありがとう」
「あぁ」
スコルはそれだけ言うと港の方へ走り出した。
速い、風がビュンビュンと、建物が後ろへ流れていく——
人々が、道を開ける驚いた顔で、または怯えた顔で——
すぐに、港が見えてきた。
海の匂い——
潮風——
そして、その奥に並べられた何か——
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