第311話 始まる流行り病対策
とりあえず、目の前の木箱に居るクレイジーラットをどうすべきだろうか?
「中にいる子どうすべきだと思う?」
『研究対象になりますからね、捕獲が一番望ましいでしょうね』
研究してくれる人はいるのかな?
ヴィッシュ位な気もするけども——
「でも、感染広げないようにしないと駄目だよね」
『そうですね、グレン、虫の方はお願いしても?』
『あぁ、構わねぇ』
ミーシャが見つけた木箱を見てみると、穴が開いているような形跡が見られなかった。
「これ、穴が開いてないよね?」
『食料と一緒に紛れ込んだのでしょうね』
「んじゃとりあえずこのまま持って行こうか、まん丸に研究用の施設でも飼える環境を整えてもらわないとだね」
『了解~、クレイジーラットが登れないようにするね~』
まん丸の返事が聞こえたのち、先ほどとは別のところから音が聞こえた。
ゴゴゴと——
音が鳴りやむのを確認し、クレイジーラットが入っているという木箱を抱え天幕の外に出た。
---
外に出ると、横に大きな治療用の施設と、天幕の背後に、小さな建物が出来ていた。
立派——
「裏側のが研究用かな?」
『そうだよ~入ってすぐのところに繁殖場があるからそこに木箱を放り込んでくれればいいよ~』
天幕の裏側に行くと砂浜になっていて、その砂浜に研究用施設が建てられていた。
扉は重い岩製らしく押しても引いてもびくともしない。
重い——
「まん丸……」
困っていると、後ろから来たハティが扉を押して開けてくれた。
ギィィと——
「あ、ありがとうございます」
「あぁ」
中に入ると、砂浜の砂を使ったのか、砂色の壁に、天井は格子状になっていて、外の明かりを存分に取り入れられる作りになっていた。
明るい——
そして中央には飼育場と思われる大きな容器が埋め込まれているような状態だった。
「ここでいいのかな?」
『いいよ~』
木箱を中に放り込むと、地面に落ちると同時に木箱が壊れ中から3匹の黒いネズミのようなものが出てきた。
バサッと——
チチッと——
鳴いている——
「あれが……」
『クレイジーラットだな、虫の方は問題ない』
少しすると焦げた匂いがしてきたので、おそらく焼いてくれたのだろう。
---
「んじゃ、あとは、治療だね」
『えぇ』
臨時で作った治癒院に向かうと、研究用施設とは違い壁も天井も真っ白で、窓は大きくガラス張りになっていた。
清潔——
中の設備も、他の治癒院と大差がないような気がする。
診察室に出産用の分娩室、手術室等基本的なものから、厨房や食堂、トイレ等も備えられていた。
入院用の部屋は広々としており、何もない状態だった。
「家具はないか……」
『作る~?』
「岩製になるよね?」
『そうだね~ベッドとチェストくらいは作っておくね~』
見た感じ、個室が異常に多く、二人部屋、四人部屋はおまけ程度な感じだった。
「個室から使っていって足りなくなったら複数用かな?」
『それでよいかと』
とりあえず、個室に鞄の中にある物を使っていくと、二部屋は既にそのまま機能するような状態になった。
「これでよっしと、んじゃ保菌している兵士の人を教えてくれる?」
『えぇ、私の子どもが群がっている人が保菌していると思っていただいて大丈夫ですよ』
「了解」
---
外に出ると、水の下位・中位精霊が集まっている人が複数人居た。
ふと、スコルの姿が見えない気がする。
「あれ?スコルさんは?」
ハティに聞くと——
「あそこだ」
臨時治癒院の屋上を指さしていた。
居た。高いところが好きなのか上からこっちを見ていた。
「何してるんですかね……?」
「さぁ?兵士たちの動きと町の中の動きを見てるんじゃないか?」
「そっか……」
とりあえず、何かをする気にはならないようなので、無視して水の子が集まっている人たちの元に向かう。
「すいません……」
最初の兵士は、若そうな人だった。
「な、なんだい……?」
兵士は少し怯えた感じで私を見ている。
『右肘付近を見てください』
アクアに言われ、鎧や衣服におおわれていない右肘付近を見ると、わずかに発赤しているのが分かった。
赤く腫れている——
目に見えないナノフリーにでも嚙まれた跡だろうか。
「右肘の赤くなってるところって、いつからですか?」
「ぇ?あ、ほんとだ」
自覚症状はなかったのかな?
「いつからかわからない感じですかね?」
「あぁ、言われて気づいたよ」
「そうですか、ちょっと手を出してもらってもいいですか?」
「あぁ……」
鞄から、穴の開いた針を取り出し、指に刺した。
チクッと——
「痛!」
「すいません、すぐ終わります、エセリア」
エセリアはにこにこしながら頷くと僅かに光った。
針を抜くと、再びエセリアが僅かに光った。
ほんのりと——
「これで腫れは引いていくと思います」
「そう、そうか……」
思えば急に針を刺したりすると、危ない人だよね、説明とか聞いてくれるかな……?
「あの……、具合が悪そうな人とか、皮膚に異常のある人をまとめてもらえませんか?」
「その娘の言葉は神の意志と思え!」
上の方から怒鳴るような声が聞こえた。
スコルの声——
「はっはい!すぐに!」
若い兵士が転びそうになりながら私の元を去っていった。
「これで、こっちは何とか集まってくれるかな……?」
「集まるだろ、あとは街中だな」
「そうですね」
---
それから——
しばらくして——
臨時治癒院の前に——
人が集まり始めた——
最初は——
数人だったのが——
十人、二十人と——
増えていく——
若い兵士が——
声をかけて回ったのだろう——
「こっちです!こっち!」
声が響く——
集まってきた兵士たちは——
様々だった——
腕が腫れている者——
顔色が悪い者——
咳き込んでいる者——
戦いで負った傷を抱えている者——
中には——
仲間に支えられながら——
やっとの思いで歩いている者もいた——
「結構、いるね……」
『えぇ、思ったより多いですね』
ハティが隣に立つ——
「並んでる奴らの整理を手伝おう」
「ありがとうございます」
---
私は——
一人一人を——
診ていく——
「右手を出してください」
チクッと針を刺す——
エセリアが光る——
「次の方どうぞ」
また針を刺す——
また光る——
繰り返す——
淡々と——
手際よく——
腫れている部分、発赤している部分、矢を受けたと思われる傷等、すべてを確認して、治療していく——
戦いで負った傷も、治していく——
「骨が折れてますね、少し痛いかもしれません」
ボーンヒールの軟膏は今回持っていない。
仕方ないので骨折箇所を木の板を使い固定して包帯を巻く。
「終わりました」
「あ、ありがとう」
驚く兵士——
でも——
次がいる——
次々と——
治療していく——
---
気づけば、治癒院の前には長い列ができていた。五十人いや、もっと百人近くいるかもしれない。
「まだまだ、いますね……」
『えぇ、ですが貴女なら大丈夫です』
アクアの声励まされる——
「うん」
私は——
また次の患者へと——
手を伸ばした——
一人でも多く——
治さなきゃ——
それが今の私にできること——
そして、一通りの治療が終わり、気づけば夜が更けていた。
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