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第31話 サバイバル学習 現地へ

サバイバル学習 初日


 動きやすい服装に身を包み、薬品類や応急処置に使えそうな道具を詰め込んだカバンを肩にかけると、私は部屋を出てミアンと合流し、並んで教室へと向かった。


 教室に入ると、皆私服姿だったが、一部の女生徒はスカートを履いている。……動きにくくないのかな?


 そんなことを思っていると、教室の扉が開き、クロエ先生がずかずかと入ってきた。


「よっし、全員揃ってるな。今回のサバイバル学習の課題を発表するぞ。集めるのは――ホーンラビットの角、ワイルドプラントの蔦、スペルンウルフの牙、そしてミニブラックバードの嘴。それぞれ、各パーティーで一つじゃない。全員分集めること。わかったか?」


 魔物退治が前提ってこと……?


『楽勝やな』

『ですね~』


 ミントとアクアの気楽な反応に、少しだけ安心した。きっと何とかなるはず。


 その後もクロエ先生は注意事項やルールについて説明を続けた。


「よし、ではこれより帝都南部にあるスペルン平原へ向かうぞ。今回はAクラスとの合同実習だが、くれぐれもトラブルは起こすな」


「「「はいっ!」」」


「それじゃ、全員でウェール川の港まで移動だ!」


 学園を出て港に着くと、そこには大きな渡し船がすでに停泊していた。


「SクラスもAクラスも全員揃ってるな。乗船しろ!」


 皆で船に乗り込み、すぐに出航。渡し船はゆっくりと川を下り、十五分ほどで対岸の港へと到着した。


 港には、すでに幌馬車が十五台並んでいた。


「右の六台がSクラス用だ。一台に二パーティーずつ割り当ててある」


 クロエ先生の言葉に従い、皆がそれぞれの馬車に乗り込み始める。人が減ってきた頃、ミアンが振り返って声をかけてきた。


「それじゃあ、私たちも行きましょうか」


「は~い」「ほいよ」「ほ~い」


 私たちも声を揃えて返事しながら、空いていた馬車に乗り込んだ。


 乗車を終えた馬車から順に、ゆっくりと出発していく。


 帝都グリーサを離れると、テールゲートからは一面に広がる麦畑が見えてきた。風に揺れる穂がきらきらと陽に照らされていて、どこか懐かしい気持ちにさせられる。


「……久しぶりに、町の外に出ました」


 ぽつりと、ミアンが言った。


「そうなの?」


「ええ。帝都にいると、外に出る必要があまりないんです。用事は大抵、屋敷の中か、帝都の中で済んでしまいますから」


 確かに、貴族ならお屋敷の中だけで生活が完結することも多いのかも。でも――


「他の貴族との交流とかで、外に出ることってないの?」


 そう問いかけながら、私は彼女の言葉の続きを待った。


「基本的に、帝都内の貴族邸で行われますから」

「そっか」

「ラミナは?」

「入試前に帝都に来てからは、外に出たことはないかな」

「そうなんですか?」

「うん。帝都内で、薬草も含めて一通りの物はそろうし」

「それはそうですね~」


「……暇だな」


 出発して間もないのに、ジョーイがそんなことを呟いた。


 その気持ちは分かる。私もじっとしているのは、そこまで得意な方じゃない。


 本当ならポーションでも調合していたかったけど、今日は道具を持ってきていなかった。


「俺は馬車の横を走る」

「えっ!? 何を言ってるんですか!?」


 ミアンと同じく、私も思わず「はっ?」ってなった。目を見開くしかなかった。


「暇だからな。トレーニングがてら、馬車の横を走る」


 そう言って、ジョーイはあっさりと飛び出していった。。


「獣人って、野蛮なのね……」


 同じ馬車に乗っていた別パーティーの女生徒が、ぽつりと呟いた。


『ラミナも、やってみては?』

「……え?」


 アクアの提案に、思わず変な声が漏れてしまった。そのせいで、周囲の視線が一斉にこちらに向く。


「どうしたんですか?」

『そやなぁ。ラミナは毎日スタミナポーション飲んどるから、体力めっちゃあるやん』

「いやいやいや、何言ってるの……。何時間並走しろっていうのさ……」

『このペースなら、昼過ぎくらいには着くんとちゃう?』

『そうですね、それくらいになるかと』


 ……何時間走らせる気だろう。


「いやいやいや……」


「ラミナさん、大丈夫ですか~?」


 ミアンが、私の太ももをペチペチと軽く叩いてきた。


「う、うん……大丈夫……」


『余裕でたどり着けると思うけどなぁ』

『私もそう思います』


 確かに、スタミナポーションを飲み始めてからというもの、疲れを感じたことがない。

 そのせいで、自分の限界がどこにあるのかさえ分からないのも事実だった。


「精霊さんと話してたんですか?」

「うん」

「何の話を?」

「馬車と並走しても、疲れないかもしれないって……」

「えっ? 体力に自信あるんですか?」

「あるかどうかって聞かれると……分からないかな」

「そうなんですか?」

「うん、ここ数年、疲れたことがないから……」


 日常生活を送るうえで、疲れるようなことがなかったせいもある。


「そういえば、サバイバル学習が終わったら、実技テストがあるんですよ」

「え? 初耳なんだけど……。なんのために?」

「今の自分の実力を把握するためじゃないですか?」

「へぇ……じゃあ、全力でやらなきゃダメなんだ?」

「じゃないと意味がないんじゃないですか?」

「そっか……」


 ……全力かぁ。あんまり目立ちたくないんだけどな。どうにか“普通”に見える程度でやり過ごせないかな……。


 何をやらされるか分からないけど――体力も魔素も、普通の人よりずっとある自分。

 どう考えても、目立つ未来しか見えなかった。


 そんなこんなで、雑談を交わしながら馬車に揺られているうちに――気づけば昼過ぎにはスペルン平原に到着していた。


 馬車から降り立った瞬間、まず目に飛び込んできたのは、一面に広がる草の海だった。丈はくるぶしほどで、風が吹くたびに静かに波打っている。遠くには、うっすらと木々が連なる森の影も見えた。


 これからここで――サバイバル学習が始まる。


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