第306話 はぐれ
小屋の中に入るととても綺麗な造りになっていた。
木の匂い——
温かい——
「窓の部分にツタがあるのは何か意味があるんですか?」
「えぇ、キャットバットは本来夜行性ですからね、明かりがあると寄ってきますし、そのために光が漏れないようにしています。かといって、室内で火を使うので通気性は確保したいですからね」
「それでか、あちらこちらに曲がったような通気口があるのは」
「えぇ、すべては光を外に漏らさないようにしつつ、通気性を確保するためです」
「って、本来は夜行性のキャットバット達が何で日中活動していたんですか?」
「おそらくこの子たちは"はぐれ"と呼ばれる子達です」
「はぐれ?ですか?」
---
「えぇ、キャットバットの特性なのですが、出産時に2~3匹同時に生まれるのですが、母親は1匹のみに愛情を注ぐのです」
「ぇ?ほかの子は?」
「育児放棄か」
アリアナが言った。
「えぇ、そういった子達は群れの一員となれずに生まれた瞬間から己の力のみで生きることを強要されるんです」
「その結果、群れの習性である夜行性ではなく日中に活動すると」
「えぇ、親から何かを教わるわけではないので、生存率は恐ろしく低いです。ですが、そういう子が育つと本来のキャットバット達とは違う強さを身に着けるんです。生きるためには手段を択ばない子だったり、他種族と共生する手段を選ぶ子だったりとね」
「そうなんだ……」
生まれた時から親に捨てられ一人で生きるって——
辛い——
---
「まるでレイブンウルフみたいだな」
「レイブンウルフは、子育てしませんからね」
「あぁ、だから生まれた時から常に一人で生きる必要がある」
「えぇ、だからこそウルフ系ではトップクラスの強さを持ちますし、ウルフ系なのに群れを作らない種ですからね」
「この子達は皆一人なんだ」
「えぇ、一番最初に来た子はおそらく生後二~三日といった子だと思いますよ」
一番最初に来た小さな子を見た。
まだトロンとしている——
「飛び方とか教わらなくても身に付くものなんですかね?」
「本能的にって事でしょうね、じゃないとすぐに捕食されてしまいますから」
「まぁ、本来は親なり群れなりが子を守るからな、それらが居ないとすぐに飛べるようにならないと、イコール死だな」
「えぇ、この辺りはシアトンフォックスやガーゴイルホークという彼らにとっての天敵が多いですからね」
「そうなんだ……」
厳しい世界——
『ねね!魔素もらっていい!?』
フゥの声が聞こえた。
「うん、いいけどどうするの?」
『じゃあもらうね!』
理由はなんだろう?
フゥが私から魔素を受け取ると、姿を現した。
ふわりと——
「おや?この子は?」
あれ?
ヴィッシュにフゥを見せたことなかったっけ?
「フゥ、風の大精霊です」
「あぁ、なるほど、フゥ君はなぜ姿を?」
「この子らとしゃべる為!」
そう言ってフゥが指を差したのはキャットバット達だった。
「あれ?おしゃべりできるの?」
『できますよ、以前私がキラーウェールの子とやり取りしていたでしょ?』
あ~、言われてみれば——
夏休みの時に、ロシナティスの海岸で一頭のキラーウェールに会った時のことを思い出した。
「すぐにわかるわけじゃないけどね!」
「そうなんだ……」
一番小さな子以外は既に寝息を立てて寝ているようだが、一番小さい子だけはまだゴロゴロとしていた。
スースーと——
他の子たちの寝息——
「ミャ~」
フゥが近づくと、威嚇ともとれる声をあげる。
警戒している——
「ミャ~」
フゥが、ちょっと柔らかい感じで返した。
すると小さなキャットバットがフゥの周りをゆっくりと歩き始める。
「ミャ」
本来はよちよち歩きでもしてそうな小ささなのに、ちゃんとしたように歩いている。
健気——
「ミャ~」
「ミャ~」
私は、会話が成立しているのか成立していないのかが分からず、ヴィッシュの方を見た。
「大丈夫ですよ、警戒していますが危害を加える存在ではないことを認識しているようです」
「そうなんだ……」
「ラミナ!何かお肉とかない!?あとミルクもあると良いかも!」
「うん」
フゥに言われて私はマジックバッグの中からいつかのサーベルタイガーの生肉と帝都で買えるミルクをお皿に出した。
すると、小さなキャットバットが大きなお肉にかぶりついた。
ガブリと——
「さすがにこれ全部食べれないですよね」
「えぇ、今かぶりついた周辺だけ切り分けてあげましょうか、それからこの子には生肉は早いので少し刻むなりした方がいいですよ」
「わかりました」
バッグから今度はナイフを取り出し、一度小さなキャットバットをどかして切り分け、軽く刻んであげた。
トントンと——
すると小さなキャットバットは私の方を見て「ミャ」と一鳴きしてから切り分けたお肉を食べ始めた。
もぐもぐと——
必死に——
「なんて言ったんだろう」
「ありがとうみたいな感じ!」
フゥが笑っている。
「この子はラミナ君が面倒を見てあげてください」
「ぇ、他の子は?」
「私達で面倒見ましょうか」
「あぁ」
ヴィッシュとアリアナが寝ている子を優しく毛布の上に並べたりしていた。
「私は少し外で魔物を狩ってくる」
「わかりました。この辺りだとシアトンゴート辺りがおすすめですよ」
「分かった」
アリアナはそう答えると、外に出て行った。
「あっ、先生果物とかならバッグに」
「わかりました、出してもらってもいいですか?」
「はい」
マジックバッグからマジックコンテナを出し、小麦粉やら果物などを取り出した。
「ありがとうございます。少し調理しちゃいましょうか」
「はい」
フゥにキャットバットの子を任せ、ヴィッシュと夕食の調理を始めた。
---
すぐにアリアナが戻ってきた。
ドンと——
手には一頭の大きな黒いヤギの足を握っていた。
「こいつでいいか?」
「これはファイティングゴートですね」
なんだろう、ファイティングゴートの頭とグレンの頭がすごく似ている気がする。
気のせいかな?
「近くにいたからな、ただな……」
背後の扉から、無数の「ミャ」「ミャ」と鳴き声が聞こえた。
ざわざわと——
「キャットバットの群れに掴まりましたか」
「あぁ……」
「仕方ありませんね、ラミナ君、ゴールデン・ヴァインかシルバー・ヴァインまだありますか?」
「見てみます」
マジックバッグに手を入れると、すぐにゴールデン・ヴァインがポンと手元に現れた。
「ありました」
「それでは、あそこの穴にそれをしばらく置いておいてください、まん丸君、可能ならその穴を塞いでもらってもいいですか?」
『は~い』
私は指示されたように、穴にゴールデン・ヴァインの実を置いた。すると、まん丸がその穴を塞いでくれた。
「これって……」
なんとなくだけど、酔ったキャットバットが沢山出る気がする。そうなると、先ほどヴィッシュが言っていた天敵たちの餌に——
「明日の朝には奴らの死骸がそこら中に転がってるかもな」
「う~ん……」
複雑——
「気がすすまないなら、適当なタイミングを見て回収すればいいですよ」
『そのままでええんちゃう?』
『だね~、この辺りのキャットバットは多すぎるからね~』
「そっか……」
フゥと遊んでいる小さなキャットバットを見ながら、何とも言えない気持ちになった。
ちょこちょこと——
フゥの周りを——
歩いている——
その後は、アリアナがファイティングゴートを解体、簡単に調理して夕食を済ませ、ゆっくりと休む事になった。
温かい食事——
美味しい——
寝る際小さなキャットバットとフゥが私の横で一緒に丸まっていた。
撫でるとふわふわと温かい——
---
明日は——
二つ目の山を越えて——
ロスロイへ——
長い一日だった——
目を閉じる——
静かに——
眠りについた——
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