第304話 キャットバット
下り坂に入った。
前方に広がるのは、木、木、木、木、木!木がいっぱいある!
深い緑——
「一つ山を越えたな」
「そうですね、もうじきシアトン樹海に入りますね」
「となると……」
「キャットバットの縄張りですね」
「襲ってきますかね……?」
「襲ってくるというよりは、彼らは動くものに興味を持ちますからね、基本人間を襲う事はあまりないですよ」
「やつらは数が多いとうっとおしい」
「まぁ、遊んでくれ~って感じで寄ってきますからね」
なんというか、フゥみたいな感じなのかな?
---
「それよりも、お前の手に残った匂いに寄って来るだろうな」
「そうですね、まだ匂いが残ってますからね」
「ぇ?」
手を鼻の前に持ってくると、確かに匂いが残っている気がするけど、そんなに強くはない気がする。
「少し匂う位ですよね?」
「やつらの嗅覚を侮るなよ……」
アリアナがそう言った瞬間——
「ミャ」
どこからか変な声が聞こえた。
「遅かったようですね」
「ぇ?」
「お前の後ろ」
ん?
後ろを振り向くと尻尾まで合わせても20㎝位の小さな生き物がいた。
ふわふわ——
茶色い毛——
「これ?」
「あぁ、幼獣みたいだがな」
小さな生き物が私の右手に停まる。
軽い——
「ミャ、ミャ!」
小さな鳴き声——
「なんか可愛い」
「成獣でもう10㎝位大きいくらいですからね、小ささと見た目も相まって人気があるんですよ」
「メレス王国じゃ飼ってるやつは少ないらしいがな」
「ゴールデン・ヴァインにしろ、シルバー・ヴァインが手に入りにくいですからね」
「蓬莱じゃないと育たないからな……」
「この見た目で、クレイジーラットを狩れるんですか?」
「えぇ、彼らは自分よりも一回り大きいくらいなら立ち向かっていきますよ」
「へぇ……、クレイジーラットって見たことないけど、どれくらいの大きさなんです?」
「ちょうどその子位のはずですよ」
「あっ、そうなんだ……」
さっきから羽をパタパタさせながら、私の手を舐めているんだけど……。
小さな舌——
ペロペロと——
---
その時——
キャットバットの様子が変わった。
「ミャ……ぁ……」
力が抜けたように——
コロンと——
馬車の床に落ちた——
「ぇ?」
床の上で、キャットバットがトロンとした表情で横たわっている。
目が虚ろ——
ニヤけている——
「あっ……」
「まぁ、良予想通りだな」
「完全に酔ってますね」
アリアナとヴィッシュが苦笑している。
その瞬間——
「ミャ!」
「ミャミャ!」
「ミャァァ!」
次々と——
声が聞こえてくる——
そして——
何匹もの——
キャットバットが——
馬車の中に飛び込んできた——
「うわっ!」
私の右手に——
群がる——
ペロペロと——
舐められる——
「ミャ!」
「ミャミャ!」
必死に——
匂いを求めて——
五匹、六匹、七匹——
どんどん増えていく——
「ちょ、ちょっと!」
右手が——
キャットバットで埋まっている——
もふもふ——
温かい——
でも——
くすぐったい——
「あはは、くすぐったい!」
そして——
一匹、また一匹と——
「ミャ……」
「ミャぁ……」
コロンと——
床に落ちていく——
トロンとした表情で——
幸せそうに——
「なんか、すごい光景ですね……」
ヴィッシュが呆れたように言った。
「完全に酔っ払いの集会だな……」
アリアナも笑っている。
気づけば——
馬車の床には——
十匹以上のキャットバットが——
トロンとした顔で——
転がっていた——
私の右手は——
舐められすぎて——
ヌルヌルしている——
「うぅ……」
『大変やったなぁ』
『可愛かったけどね~』
精霊たちが笑っている——
「さて、どうしますか?」
ヴィッシュが尋ねた。
「このまま置いていくのもあれですし……」
「全部連れていくか?」
「うーん……」
床に転がっているキャットバットたちを見る——
可愛い——
でも——
こんなにたくさん——
「連れて行こうかな……」
私は、そう答えた——
「まぁ、これくらいで十分だろ」
「そうですね、試すという意味では十分な数ですね」
「そういえば、クレイジーラットを襲ったら、この子達は感染しないんですかね?」
「変異種に関してはどうなんでしょうね、通常種に関しては耐性があるのは把握していますが……」
「ま、やってみないとだろ」
「そうですね。樹海に入る手前で野営としますか」
「だな」
樹海の入り口と思われるところから少し離れたところに馬車を止め野営の準備をすることになった。
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