第298話 扁桃腺摘出
クゥの所で10回ほど練習し、必要になりそうな道具もそろえた。
何度も何度も——
手順を確認し——
完璧にする——
「もう大丈夫そうかな」
『だね!ばっちりだ!』
フゥが力強く言った。
「うん、とりあえず領主邸に戻ろう」
再びカードに魔素を流して元の場所に戻ってきた。
ヒュンと——
視界が切り替わる——
---
周囲には誰も居ない。人通りの少ない路地のままだった。
「あれからどれくらいたってるかな?」
『1時間ほどですかね?』
『それくらいだな』
もうちょっと練習してもよかったかもしれないなんて思いながら領主邸に向かった。
パタパタと——
石畳を歩く——
---
領主邸の門に着くと、衛兵たちがすぐに気づいた。
「治癒院の方!お待ちしておりました!」
「ありがとうございます」
門が開き、執事が駆け寄ってくる。
「ラミナ様、領主様がお待ちです。こちらへ」
---
領主邸の中へと案内され、応接室に通された。
プライム辺境伯が、落ち着かない様子で立っていた。
「戻ったか……!」
「はい。準備が整いました」
「本当か……!」
プライム辺境伯の顔に、希望の光が灯る。
「それでは、すぐに手術を始めたいのですが……」
「わかった。エリナの部屋でいいか?」
「はい、それで大丈夫です」
---
エリナの部屋に入ると、彼女は相変わらず苦しそうにしていたが、先ほどよりは少し楽そうだった。
エセリアの浄化が効いている——
「エリナさん、準備ができました。これから手術を始めますね」
「……はい……お願い……します……」
エリナが小さく頷いた。
「眠っている間に終わりますから、安心してくださいね」
「……ありがとう……ございます……」
---
私は道具を並べ始めた。
まん丸が作った手術台——
口を開けた状態で固定する道具——
細い呼吸用の管——
ミスリルのメス——
「ミント、お願い」
『ええで』
ミントがカブリトの麻痺薬がしみ込んだ布をエリナの口や鼻をかぶせるように乗せると、彼女の目がゆっくりと閉じていった。
静かな寝息——
ミントは、すぐにエリッシュの蔦を細い管状にして気管につなげた。
『ええで』
「じゃあ、始めよう」
私は口を開けた状態でまん丸が作ってくれた器具で固定した。
グレンと視界を共有——
扁桃腺がはっきりと見える——
腫れ上がった部分——
心なしか、扁桃腺が縮んでいる気がする。
「グレン、扁桃腺の部分だけ別の色にしてもらう事とかできる?」
『あぁ、白くするぞ』
扁桃腺とそれ以外の部分がはっきりとわかるようになる——
すごく見やすくなった——
慎重に——
一つ一つ——
腫れた扁桃腺を切除していく——
グレンが止血を助けてくれる——
みんなの連携——
完璧——
練習通り——
---
どれくらい時間が経ったろうか——
「……よし、摘出完了」
『お疲れ様や』
『上手くいったね~』
私は摘出した扁桃腺を確認し、エセリアが患部にヒールをかけた。
エセリアの光が患部を包む——
傷が塞がっていく——
「これで大丈夫」
口を固定していた道具を外し、ミントが呼吸用の管も慎重に抜いた。
「アクアお願い」
『はい』
アクアが淡く光り、アクアクリーンを発動させカブリトの麻痺薬をエリナの体内から抜く。
すると、エリナの呼吸がスースーと戻ってきた。
穏やかになっている——
苦しそうな感じがない——
---
しばらくすると、エリナがゆっくりと目を開けた。
「……あれ……?」
「手術は成功しました。お疲れ様でした」
「……終わったん……ですか……?」
エリナが驚いたような顔をする。
「はい」
「喉が……痛くない……」
エリナが自分の喉に手を当てた。
「息も……楽……」
エリナの目に涙が浮かんだ。
「本当に……治ったんですか……?」
「はい。もう大丈夫ですよ」
その時、部屋の隅で見守っていたプライム辺境伯が、崩れ落ちるように膝をついた。
「ああ……ああ……!」
声を上げて泣き始める。
「ありがとう……ありがとう……!」
プライム辺境伯が何度も頭を下げる。
「娘が……娘が助かった……!」
エリナも、涙を流しながら笑っていた。
「お父様……私……治ったよ……」
「ああ……よかった……本当によかった……」
父娘が抱き合う——
涙——
喜び——
私は、その光景を静かに見守った。
しばらくして、落ち着いたプライム辺境伯が、私の前に立った。
「ラミナ殿……何とお礼を言えばいいか……」
「いえ、治癒院の務めですから」
「いや、あなたは命の恩人だ。何か……何でもいい、望むものがあれば言ってくれ」
「それでしたら……」
私は少し考えた。
「プライム辺境伯様、これからはどうされますか?」
「……わかっている。私は神罰を受けるべき身だ」
プライム辺境伯の表情が曇る。
「でも、娘が治った今……死ぬことも怖くない」
私の中でどうするかはもう決まっている。
「待ってください」
私は手を上げた。
「神罰は、もう下されたと思います」
「……何?」
「辺境伯様は、娘さんの病という形で、すでに罰を受けていたんだと思います」
領主が驚いた顔をする。
私の中の落としどころだ、良き領主なら死ぬべきではない、しっかりと領地を治めて償うべきだと思った。
「それに……治癒院の方々も解放されました。もう、罪は償われたんじゃないでしょうか」
「しかし……」
「これからは、良い領主として、領民のために尽くしてください。それが、一番の償いだと思います」
プライム辺境伯が、ゆっくりと頷いた。
「……わかった。あなたの言う通りにしよう」
「ありがとうございます」
「いや、礼を言うのは私の方だ」
---
プライム辺境伯が執事に指示を出した。
「治癒院に、多額の寄付をするように手配しろ。それから、この国中の治癒院に支援を」
「かしこまりました」
「それと……ラミナ殿が必要とするなら、いつでも我が領地の力を貸そう」
プライム辺境伯が真剣な目で私を見た。
「ありがとうございます」
エリナが、ベッドから起き上がろうとした。
「エリナさん、まだ安静にしていてくださいね」
「でも……お礼が……」
「大丈夫です。ゆっくり休んでください」
「……はい。本当に……ありがとうございました」
エリナが深々と頭を下げた。
「また、具合が悪くなったら、すぐに治癒院に来てくださいね」
「はい!」
エリナが、初めて本当の笑顔を見せた。
---
私は領主邸を後にした。
執事と衛兵たちが、深々と頭を下げて見送ってくれる。
「ラミナ様、本当にありがとうございました」
「いえ」
門をくぐり——
石畳の道を歩く——
パタパタと——
足音——
『よかったな』
グレンが声をかけてくれた。
『ほんまや、完璧やったで』
『エリナちゃん、元気になって良かったね~』
精霊たちの声が温かい。
「うん……良かった」
空を見上げる——
夕日が沈みかけていた——
オレンジ色に染まる空——
長い一日だった——
でも——
エリナを救えた——
治癒院の人たちも解放できた——
良い一日だった——
「さて、宿に戻ろうか」
『せやな』
『お腹空いたよ~』
「あ、そういえば今日のお昼食べてないね」
『食堂行こうか~』
「……また、あの食堂?」
『アリアナが行けって言うてたやん』
「……そうだったね」
少し憂鬱な気分で——
でも——
私は食堂へと向かった——
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