第296話 プライム辺境伯
翌朝——
いろいろ悩んでいたが、精霊達が魔素を持って行ってくれるおかげでぐっすりと眠れた。
「おはよ~」
『おはよ~』
まん丸をはじめみんなが挨拶を返してくれた。
「ねぇ、アクア、昨日のアリアナさんの話ってさ、扁桃炎だよね?」
『えぇ、その通りですよ』
「あれって感染とかしないための機能があったよね?」
『えぇ』
「腫れている部分を摘出とかして大丈夫なのかな?」
『それは問題ないかと、他の部分が動くので摘出したところでそんなに問題はありませんよ』
「そうなんだ」
そうなると、口内という狭い空間での手術になる。
「口を開けた状態を固定する道具が必要になるね、それにグレンと視界共有しつつ~って感じかな?」
『せやなぁ、呼吸の管はいつもより細めがよさそうやね』
「邪魔になっちゃうもんね」
他に何か懸念事項はあるだろうか?
いったん患者となる領主の娘さんの様子を見て、クゥの所で娘さんのダミーを使ってから練習、そのあと本番のがいい気がする。
「こっそり潜入じゃなくて、堂々と正面からのほうがよさそうかな?」
『それでいいんじゃないかな~』
『だな、すでにアリアナの撒いた噂が領主の耳にも入っているだろうからな』
「んじゃ、今日は正面から行こうか、そして娘さんに会わせてもらいつつ、治癒院の人を解放……」
ふと、光魔法でどうにかできる奴隷紋じゃないと無理なことを思い出した。
「エセリアで解除できそうな奴隷紋かな?」
『えぇ、簡易奴隷紋なのでエセリアが居れば大丈夫ですよ』
「よかった……」
とりあえず今日の動きが決まった。治癒院の制服に身を包み、マジックコンテナからリンゴを取り出し食べた。
シャクシャクと——
甘い——
「よっし、行こう領主邸に」
『おう!』
---
宿を出て、石畳の道を歩く。
パタパタと——
朝の町は静かだった。まだ人通りも少なく、店の準備をする音が聞こえてくる。
領主邸は町の中央、小高い丘の上に建っている。立派な石造りの建物で、周囲には庭園が広がっていた。
近づいていく——
門が見えてくる——
門の前には、二人の衛兵が立っていた。
「止まれ!何者だ!」
一人の衛兵が槍を構える。
「治癒院の者です。プライム辺境伯様にお会いしたく参りました」
私は治癒院の制服を見せながら答えた。
「治癒院……?」
衛兵たちが顔を見合わせる。
「まさか……噂の……?」
「噂?」
「ウォンバル様と共にいた治癒院の子だと……?」
やはり、噂は届いているようだ。
「はい……そうです」
---
衛兵の一人が慌てて門の中へと走っていった。
タッタッタッタと——
足音が遠ざかる——
しばらく待つと、一人の執事らしき男性が現れた。初老で、落ち着いた雰囲気を持っている。
「治癒院の方ですね。プライム様がお待ちしておりました。どうぞ、こちらへ」
「お待ちして……?」
「はい。昨夜から、あなた様がいらっしゃるのではないかと」
執事が深々と頭を下げた。
---
門をくぐり、庭園を抜けて領主邸の中へと入っていく。
廊下は広く、絵画や彫刻が飾られている。でも、どこか沈んだ雰囲気があった。
カツカツと——
執事の足音——
パタパタと——
私の足音——
やがて、一つの部屋の前で止まった。
「プライム様、治癒院の方がいらっしゃいました」
執事が扉をノックする。
「……入れ」
重い声が聞こえた。
扉が開き、中に入る。
部屋の中には、一人の男性が立っていた。四十代くらいだろうか。疲れ切った表情をしている。目の下には隈ができ、髪には白いものが混じっている。
プライム辺境伯——
「……あなたが、ウォンバル様と共にいた治癒院の子か」
プライム辺境伯の声は、静かだった。
「はい。ラミナと申します」
「ラミナ……そうか」
領主は、ゆっくりと椅子に座った。
「座ってくれ」
「はい」
私も椅子に座る。
しばらく沈黙が続いた——
重い——
やがて、プライム辺境伯が口を開いた。
「……噂は聞いている。お前が、様々な病から多くの命を救い、神と共に戦場に立ったと」
「はい……」
「そして、ここに治癒院の人間を救いに来たのだろう?」
「……はい」
プライム辺境伯は、深くため息をついた。
「わかっている。私がしたことは、神への冒涜だ。罰を受けるのは覚悟している」
その声には、諦めが込められていた。
「ただ……その前に……」
プライム辺境伯の声が震えた。
「娘だけは……娘だけは救ってほしい」
プライム辺境伯が顔を上げた。その目には、涙が浮かんでいた。
「頼む……私は死んでも構わん。だが、娘は……娘は何も悪くない」
「プライム様……」
「治癒院の者たちにも頼んだ。だが……誰も治せなかった。お前が……最後の希望なんだ」
プライム辺境伯が、椅子から立ち上がり、私の前に膝をついた。
「頼む……娘を……エリナを救ってくれ」
私は、黙って頷いた。
「……わかりました。診させてください」
「本当か……!」
プライム辺境伯の顔に、わずかな希望の光が灯った。
「ありがとう……ありがとう……」
「ただし、条件があります」
「条件……?」
「治癒院の方々を、すぐに解放してください」
私はまっすぐ領主を見た。
「……わかった。すぐに奴隷紋を解除させる」
「それから、娘さんを診させてください、必要な道具を確認したいので」
「構わん」
領主が立ち上がり、執事に指示を出した。
「治癒院の者たちを、すぐにここへ連れてこい。そして奴隷紋の解除の準備を」
「かしこまりました」
執事が部屋を出て行く。
「では……娘に会ってもらえるか?」
領主が私を見た。
「はい」
「こちらだ」
領主が先導して、廊下を歩き始めた。
カツカツと——
足音が響く——
娘の部屋へと——
向かっていく——
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