第293話 プライヤーの夜
翌朝——
遊牧民の人たちに見送られながら、私はプライヤーの町へと向かった。
「気をつけて!」
「また会おう!」
「治癒院に幸あれ!」
手を振る人々——
子どもたちの笑顔——
私も手を振り返し、ルナにまたがった。
パカパカと——
蹄の音——
草原を駆ける——
---
それから丸一日、私はルナの背に揺られ続けた。
草原が続き——
やがて森が見え——
川を渡り——
丘を越え——
ただひたすら、プライヤーを目指した。
『もうすぐやで』
ミントの声が聞こえた。
「うん」
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日が暮れ始めたころ、遠くにプライヤーの町が見えてきた。
アルドゥハイよりも大きな町だ。城壁に囲まれ、中央には領主の館らしき建物が聳えている。
夕日に照らされる町——
オレンジ色に染まる——
「着いた……」
『えぇ、プライヤーの町ですね』
アクアが答える。
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町の門をくぐると、門番が治癒院の制服を見て道を開けてくれた。
「治癒院の方か。ご苦労様です」
「ありがとうございます」
私はルナを降り、手綱を引いて町の中へと入っていった。
石畳の道——
パカパカと——
蹄の音が響く——
通りには灯りが灯り始め、人々が行き交っている。アルドゥハイよりも活気があるように見えた。
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「宿……じゃなくて、まずはご飯を食べようか」
『ええんちゃう?お腹空いたわ』
『賛成~』
通りを歩いていると、大衆食堂の看板が見えた。中からは賑やかな話し声と、美味しそうな匂いが漂ってくる。
ガヤガヤと——
人の声——
食欲をそそる匂い——
「ここにしよう」
私はルナを食堂の脇に繋ぎ、中へと入った。
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食堂の中は、仕事を終えた人たちで賑わっていた。テーブルには様々な人が座り、食事をしたり酒を飲んだりしている。
私は目立たないように、隅っこの席を見つけて座った。
治癒院の白衣が目立つ——
でも、誰も気にしていない様子——
「いらっしゃい!」
店員が声をかけてきた。
「今日のおすすめは何ですか?」
「肉のシチューと黒パンだね。あと、魚のフライもあるよ」
「じゃあ、シチューと黒パンをお願いします」
「あいよ!」
店員が厨房へと戻っていく。
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待っている間、周囲の会話が耳に入ってきた。
ガヤガヤと——
笑い声——
グラスがぶつかる音——
私は静かに耳を澄ませた——
『フッフッフ、面白いことが起きそうですよ』
アクアの意味深な発言が気になった。
「ん?」
『聴覚を共有しておきましょうか』
「ん?なにかあるの?」
『えぇ、直に分かりますよ』
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アクアがそう言った瞬間、店の入り口の扉が開いた。
ガチャリと——
獣人の男性が入ってくると、そのままカウンター席に向かっていく。狼系の獣人だろうか、大柄で筋肉質な体つきをしている。
「よぉ、リク!いつものやつでいいか?」
カウンターの中にいる店主と思しき男性が、親しげに声をかけた。
「あぁ、頼む」
リクと呼ばれた男が席に座る。
「ふむ、また何か面白い話を聞いてきたのか?」
「あぁ、分かるか?」
「あぁ、お前の表情を見たらな。で、どんな話を聞かせてくれるんだ」
店主がそう言うと、常連と思われる人たちがリクの側に集まっていく。まるで物語を聞くかのように、みんな興味津々といった様子だった。
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「あぁ、この前アルドゥハイ南部の戦いの話をしただろ?」
「あぁ、ウォンバル様が現れた話だったな?」
ウォンバル様——その名前に、私の耳がピクリと動いた。
「あぁ、そして、小さな女の子がいたって話もしただろ」
「あぁ、その子の正体でもわかったのか?」
小さな女の子——まさか、私のことじゃ……。
「あぁ、それもそうだが、近くにいたやつの話を聞いたら、ウォンバル様が神罰を下すのを止めていたらしい」
「ほぉ、そいつはまた……、神と対等に渡り合えるという事か……?」
対等って……そんなわけないんだけど……。
「さぁな、それはわからないが、問題は治癒院の制服を着ていたらしい」
「治癒院の制服……?」
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私は思わず自分の白衣を見下ろした。
やっぱり、私のことだ——
『ほら、言った通りでしょう?』
アクアが楽しそうに囁く。
私としてはちっとも楽しそうな話じゃないんだけど!?
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「あぁ、それで治癒院と地神の繋がりを調べたんだが、どうやら治癒院の創設者が、創造神メネシスからの依頼で世界中に治癒院を作る流れになったらしい……」
「それじゃあ、治癒院に手を出したから神罰が下ったというのは本当だったのか……」
「あぁ、裏付けが取れたよ。教会の人間でも治癒院に関わる書物を読んでいないと知らないらしい」
「まぁ俺も治癒院とのつながりなんて知らなかったからな」
人々が頷き合っている——
「でだ、近くにいたやつらの話だと、ウォンバル様の怒りを鎮めて神罰をとめたらしいんだ」
「ほう?そうなると誰が領主たちを?」
「わからないが、その子が何者かに命じた瞬間、戦場に火柱が上がったって」
「何者か……、魔物か?」
「治癒院の人間がか……?」
二人の話を聞いていた誰かが質問していた。
「なわけないだろ、ただ見えない何かを使役している子じゃないか……?」
「治癒院の子か……、さっき……」
常連たちが集まっている中から一人の男がこっちを見た。
視線が合う——
心臓がドキッと跳ねる——
「あそこに治癒院の制服を着た子どもが居るが……」
一人の男がそう言った瞬間、カウンター席に集まっていた人たちの視線が一斉にこっちに向いた。
静まり返る——
「ぇ!?」
私は思わず声を上げてしまった。
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