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神様と呼ばれた精霊医 ~その癒しは奇跡か、祝福か~ 【原作完結済】  作者: 川原 源明
第17章 メレス再び

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第292話 遊牧民

 心の中がもやもやしたままルナの背に揺られ続けていた。


 風が吹く——


 草が揺れる——


 考えがまとまらない——


---


 日が暮れ始めたころ、前方に複数のテントが見えてきた。


「あれって……」


『えぇ、遊牧民の集落ですね』


 アクアが答える。


「近寄らない方がいいかな……?」


『行った方がええと思うで』


『警戒はすべきでしょうけどね』


『だな』


「ん?何かあるのかな?」


『彼らはね~、まともな医療知識がないからね~』


『子どもが生まれそうなんだけどね!前にラミナがやった子みたいなやつ!』


 フゥが慌てたように言った。


『逆子ってことです』


『まぁ、他にもいろいろある』


「急ごう!」


 逆子と聞いて黙って見過ごすことができなくなった。逆子となると、最低限の手術が必要になる。


「私の魔素を持って行って、すぐに取り掛かれるように!」


 ミント、アクア、まん丸、グレン、フゥ、エセリアがそれぞれ私から魔素を受け取り、見える状態に変化する。


 ルナの背に乗りながら、まん丸用のミスリル粒子と、ミントのウッドゴーレム用の人形を取り出した。


---


 集落に近づくと、数人の男たちが警戒した様子で立ち上がった。手には槍や弓を持っている。


 ザッ、ザッと——


 足音——


 緊張が走る——


「止まれ!何者だ!」


 一人の男が叫んだ。


 私はルナを止め、両手を上げて敵意がないことを示した。


「治癒院の者です!妊婦さんがいると聞きました。助けに来ました!」


「治癒院……?」


 男たちが顔を見合わせる。


「本当か?」


「はい!逆子で苦しんでいる方がいるんですよね?」


 その言葉に、一人の男の顔が驚きに変わった。


「なぜそれを……!」


「精霊から聞きました。私にできることがあれば、助けたいんです」


---


 男たちは少し迷った様子だったが、やがて一人が頷いた。


「……わかった。こっちだ」


 私はルナから降り、男の後についていった。精霊たちも見える姿のまま、私の周りを飛んでいる。


 テントの中に入ると、一人の女性が苦しそうに横たわっていた。その傍には、不安そうな顔をした年配の女性が寄り添っている。


 苦しそうな呼吸——


 汗が滴る——


「大丈夫ですか?」


 私は女性の側に膝をついた。


「あなたは……?」


「治癒院のラミナです。助けに来ました」


「治癒院……本当に……?」


 女性の目に涙が浮かんだ。


---


 私はすぐに診察を始めた。やはり逆子だ。このままでは母子ともに危ない。


「お腹を切って子どもを出します。すぐに準備します」


『了解や』


 ミントがウッドゴーレムを操り、私が鞄から取り出した道具を並べていく。まん丸が地面の土をつかい手術台等を形成する。


 土が形を変えていく——


「怖くないですよ。必ず助けますから」


 私は女性の手を握った。


「ありがとう……ありがとう……」


---


 手術は順調に進んだ。アクアが声かけをし痛みを和らげ、グレンが止血を助け、エセリアが照明を提供してくれた。


 静かな集中——


 手が動く——


 呼吸を整える——


 やがて——


 「オギャア!オギャア!」


 赤ん坊の泣き声が響いた。


 元気な声——


 生命の音——


「男の子ですよ」


 私は赤ん坊を抱き上げ、母親に見せた。


「あ……あぁ……」


 母親が涙を流しながら笑った。周りにいた人たちも、安堵の表情を浮かべている。


---


 手術を終え、母子ともに安定したのを確認すると、私はテントの外に出た。


 夕焼けが美しい——


 風が心地いい——


 疲れた——


 でも、救えた——


「ありがとう……本当にありがとう……」


 集落の長らしき老人が、深々と頭を下げた。


「いえ、当然のことです」


「いや、あなたは命の恩人だ。我々には何もないが……せめて今夜は泊まっていってくれ」


「ありがとうございます」


---


 夜、焚き火を囲んで食事をしていると、集落の人たちが集まってきた。子どもや老人も混じっている。


 パチパチと——


 薪が弾ける音——


 温かい——


「あの……他にも具合の悪い方はいますか?」


 私が尋ねると、人々が顔を見合わせた。


「実は……うちの祖母が熱を出していて……」


「父が怪我をしていて……」


 次々と声が上がった。


「わかりました。みんな診ますね」


---


 その夜、私は集落の人たちを次々と治療していった。熱を下げ、怪我を治し、病気を癒していく。


 人々の表情が、だんだんと明るくなっていく——


「ありがとう……」


「痛みが消えた……」


「本当に治癒院の人は天使だ……」


---


 治療が一段落したころ、老人が重い口を開いた。


「あなたには……話しておかなければならないことがある」


「はい」


「我々は……盗賊としても活動している」


 周囲が静まり返った——


「知っています」


 私の言葉に、老人が驚いた顔をした。


「知っていて……助けてくれたのか?」


「はい」


「なぜだ……?我々は悪人だぞ……」


「理由があるんですよね?」


 老人は深くため息をついた。


「……ああ。昨年の夏過ぎ頃からか、軍が来て我々の商品である馬を盗んでいった。我々の生活の糧だった馬をだ」


「それだけじゃない」別の男が続けた。「貴族どもが通行税と称して、我々から金を巻き上げていった」


「領主は嫌がらせで家畜を没収した」年配の女性が涙を流しながら言った。「子どもたちが飢えていたのに……」


---


 人々の声が、次々と上がった。


 それぞれの苦しみ——


 それぞれの怒り——


 それぞれの悲しみ——


「生きるために……盗賊にならざるを得なかった……」


 老人の声が震えていた。


「わかります」


 私はゆっくりと頷いた。


「生きるために仕方なかったんですよね」


 その言葉に、人々が驚いた顔をした。


「責めないのか……?」


「責められません。誰だって、生きるために必死になります。それは悪いことじゃない」


「だが、我々は人を傷つけた……」


「それでも、あなたたちは生きるために戦った。それを私は責められません」


---


 老人が、ゆっくりと膝をついた。


「あなたは……本当に神のような人だ……」


 周りの人々も、次々と膝をついていく。


「もし……もし、この国が変わる時が来たら……」


 老人が顔を上げた。その目には、強い決意が宿っていた。


「我々は、あなたの味方になる。必ず」


「そんな……」


「いや、決めた。あなたは我々を救ってくれた。命だけじゃない、心も救ってくれた」


 他の人々も頷いている。


「治癒院が何かをする時、我々は必ず力になる。約束する」


---


 焚き火の炎が揺れる——


 星が瞬く——


 風が吹く——


 私は、ただ黙って頷いた。


 何も言えなかった——


 でも、心の中で思った——


 この人たちを、守りたい——


 この人たちが、安心して暮らせる国にしたい——



読んでくれてありがとうございます!


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