第290話 アルドゥハイ
町の門に着くと、門番が驚いた顔で私たちを見た。
「おい、その馬車は……?」
土&岩で出来た馬車なんて異質だからだろうか?門番の人が声をかけてきた。
「病人を治癒院に連れて行くところです」
「ふむ、確かに治癒院の制服だな……中を見ても?」
どう答えるべきだろうか?
おそらくこの町の兵士となると敵方のはず、この町の治癒院の人たちだとわかったとしたらどういう反応をするだろうか?
『正直に言うたらええんちゃう?もう領主おらんし』
ミントの声が聞こえた。
「どうぞ……」
門番たちが馬車の後方に回り中を改める。
「リクトにキャサリン……!領主様が奴隷として使っていた……!」
門番の声が震えている。驚きと、そして——安堵のような響きがあった。
「領主の事は聞いてないんですか?」
私は門番に聞いてみた。
「見えない何かで殺されたことを聞いた。戦場にウォンバル様が現れたこともな……」
この町に逃げてきた兵が喋ったのだろう。
「ウォンバル様に助けられたんだよ……」
助けられた一人が、馬車の中から門番に言った。その声は弱々しいが、確かな安堵に満ちていた。
「そうか、治癒院に手を出して神罰が下ったか……」
門番は深くため息をついた。その顔には、複雑な表情が浮かんでいた。
「そういうことです。通っても?」
「あぁ、構わない。治癒院はこの道をまっすぐ行った先、広場の近くだ」
「ありがとうございます」
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門をくぐり、町の中へと入っていく。石畳の道をルナがゆっくりと進む。
パカパカと——
蹄の音が響く——
町の人々が、土と岩でできた異様な馬車を見て驚いている。でも、治癒院の白衣を見ると、道を開けてくれた。
ガタガタと——
馬車が石畳を進む——
「ねぇ、この町……静かじゃない?」
『せやな。領主が死んだことで、みんな様子見しとるんやろ』
ミントの言う通り、町には妙な緊張感が漂っていた。人々の表情は不安そうで、ひそひそと話し合っている。
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しばらく進むと、広場が見えてきた。その先に、白い建物——治癒院だ。二枚のヒール草がクロスし、その上から白い鳥が両翼で包み込むようなシンボルマークが、建物の壁に大きく描かれている。
「着いた……」
私はルナを止め、馬車から降りた。
「みんな、着きました」
馬車の中にいる治癒院のメンバーたちに声をかける。
治癒院の扉が開き、白衣を着た数人の人たちが飛び出してきた。
「リクト!キャサリン!みんな!」
「無事だったのか!」
治癒院のスタッフたちが、馬車に駆け寄る。涙を流しながら、救出されたメンバーたちを抱きしめた。
「ありがとう……本当にありがとう……」
年配の女性が、私の手を握った。その手は温かく、震えていた。
「いえ、当然のことです」
「あなたは私たちの仲間を救ってくれた。恩人です」
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治癒院の中に案内され、救出されたメンバーたちはそれぞれベッドに寝かされた。スタッフたちが手分けして、彼らの手当てを始める。
私は廊下に立ち、その様子を見守っていた。
年配の女性が、私の元にやってきた。
「あの……今夜はここに泊まっていってください。部屋を用意します」
「いえ、そんな……」
「お願いです。せめてものお礼をさせてください」
その真剣な眼差しに、私は頷いた。
「……わかりました。お世話になります」
「ありがとうございます。では、こちらへどうぞ」
女性の後に続くと、治癒院の宿直室だろうか?
サウススペルンの治癒院でも見た部屋に通された。
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部屋に荷物を置いて、少し落ち着いた頃、私は精霊たちに声をかけた。
「ねぇ、町でご飯食べに行こうか~」
『ええんちゃう?せっかくやし、この町のもん食べてみよか』
ミントが賛成してくれた。
『賛成~。お腹空いたよ~』
まん丸も嬉しそうだ。
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治癒院を出て、町の中を歩く。夕暮れ時で、通りには灯りが灯り始めていた。人々の話し声が聞こえてくる。
パタパタと——
足音——
石畳の道——
「食堂ってどこにあるかな?」
『あっちに看板見えるで』
ミントが指し示した方向に、木製の看板が見えた。料理の絵が描かれている。
大衆食堂に入ると、中は賑わっていた。テーブルには様々な人が座り、食事をしたり酒を飲んだりしている。
ガヤガヤと——
話し声——
食器の音——
美味しそうな匂い——
「いらっしゃい!好きな席に座ってくれ!」
店主らしき男性が声をかけてくれた。
私は空いている席を見つけて座った。
「今日のおすすめは何ですか?」
「野菜のシチューと黒パンだな。それと、今日は魚の塩焼きもあるぞ」
「じゃあ、シチューと黒パンをお願いします」
「あいよ!」
店主が厨房へと戻っていく。
待っている間、周囲の会話が耳に入ってきた。
「おい、聞いたか?今日の戦場のこと」
「ああ、俺も逃げてきたよ。あんなもん見たら、誰だって逃げるさ」
隣のテーブルに座っている男たちが話している。アルドゥハイの兵士だったのだろう。
「本当に神様が現れたのか?」
別の客が興味津々といった様子で聞いている。
「ああ、間違いない。体高3メートルはある巨大な狼だった。地を震わせるような咆哮でな……俺は腰が抜けたよ」
「ウォンバル様だって言ってたな。地を司る神だって」
「治癒院に手を出した領主様たちが、一瞬で……火の柱が立ってな。あれは神罰だ」
男たちの話に、食堂中の人々が聞き入っている。
「領主様が死んで、この町はどうなるんだ?」
「さあな……でも、治癒院の人たちが戻ってきたんだろ?それだけでも良かったじゃないか」
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その時、別のテーブルから声が聞こえてきた。
「なぁ、プライヤーの町の話、知ってるか?」
「プライヤー?隣町だろ?」
「ああ。あそこの領主も、治癒院の人たちを捕らえてるらしいぞ」
私の耳がピクリと動いた。
プライヤー——
それは、次の目的地でヴィッシュ先生との合流予定の町だった。
「マジかよ……あそこもか」
「領主邸に閉じ込めてるって話だ。治療させてるのか、人質にしてるのか……」
「神罰、下るんじゃねぇか?」
「だろうな。ウォンバル様の怒りを買ったら終わりだ」
---
私は黙って、その会話を聞いていた。
プライヤーの町——
治癒院のメンバーが捕らえられている——
『ラミナ……』
ミントが小さく声をかけてくれた。
「……うん、聞こえた」
どのみち、この話を聞かなくても行く予定だった。治癒院の人達がどこに捕らえられているのかが分かっただけでも御の字だ。
『ちょうどいいな』
グレンが言った。
「だね」
『助けに行くんだね~』
まん丸も理解してくれている。
---
その時、店主がシチューと黒パンを持ってきた。
「お待ちどう!熱いから気をつけてな」
「ありがとうございます」
湯気が立ち上る——
野菜の甘い香り——
私はスプーンを手に取り、シチューを一口食べた。
温かい——
優しい味——
「美味しい……」
『ええなぁ、温まるわ』
ミントも満足そうだ。
---
食事を終えて、私は治癒院へと戻った。
星が瞬いている——
夜の静けさ——
足音が響く——
部屋に入り、ベッドに横になる。
柔らかい——
「明日、プライヤーに行こう」
『せやな』
『了解~』
『わかった』
『はい』
精霊たちの声が聞こえた。
私は目を閉じた。
長い一日だった——
でも、まだ終わらない——
明日も、戦いが待っている——
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