第27話 サバイバル学習グループ分け
入学式が終わり、私は教室に戻ってきた。すると、私の隣の席には、ミアンがすでに座っていた。
(あれ……? さっきは空いてたはずだけど……?)
小さく首を傾げながら、自分の席に腰を下ろすと、教室の扉が開き、教師らしき女性が姿を現した。
「よっし、全員そろってるな! 今日からお前らの担任を務めるクロエだ。よろしくな! んじゃ、まずは端っこから自己紹介してくれ」
その勢いのある口調に、少しだけ圧倒されながらも、教室内には次々と自己紹介の声が響いていった。
40人いるクラスメイトの中で、貴族ではなさそうなのは――私と、窓際に座っている鷹獣人のジョーイくん、たったの二人だった。
全員の自己紹介が終わると、クロエ先生は教壇に立ち、黒板にチョークを走らせ始める。
「さて、来週から始まる“サバイバル学習”のグループ分けをする。自分たちで決めたいか?」
「クロエ先生、自分たちで決めたいですわ」
そう名乗り出たのは、隣に座るミアンだった。
「よし。じゃあ、時間をやる。四人から六人でグループを組め」
(えっ……グループ……?)
まだ友達もできていない私は、どう動けばいいのか分からず、ただ周囲を見渡すことしかできなかった。
そんな私に、隣のミアンが優しく笑いかけてくる。
「ラミナさん、私と一緒に組んでくれませんか?」
「あ、うん……いいの? 私で」
「もちろんですわ」
その言葉に、ホッと胸をなで下ろす。ぼっちにならずに済んで、ほんとによかった。
ミアンはすっと立ち上がり、教室全体を見回し始める。次のメンバーを探しているようだ。
私はふと、窓際に座っているジョーイくんの方へ視線を移した。彼は相変わらず窓の外を眺めていて、誰とも話そうとはしていない。
「ミアンさん、ジョーイくんは……?」
「ん~……組んでくれるでしょうか?」
「ちょっと聞いてみるね」
私はミアンと並んでジョーイの席へ向かう。そして、声をかけた。
「あの、ジョーイくん。一緒のグループにならない?」
ジョーイは、ゆっくりとこちらに顔を向ける。
「ん? いいのか? 俺、貴族じゃないぞ?」
「ふっふふ、私が貴族ですが、ラミナさんは貴族ではありませんわ」
ミアンが笑顔で、さらりと言ってのけた。私が言う前に先回りされたけど――なんだか嬉しかった。
「ふーん……。物好きな奴らだな。ま、いいぜ。2人がそれでいいなら、俺も構わん」
「やった! ラミナさん、これで三人ですわね!」
「うん、あと一人か……」
「でも、もう他の人たちはだいたい決まってるみたいですね」
「別に三人でもいいんじゃね? 俺ら入試の上位三人だろ?」
ジョーイの言葉に、思わず私は「そういえば」と納得しかけたその時。
「おい、ラミナ。お前らのグループ、今何人だ?」
突然、クロエ先生に名前を呼ばれた。
「えっと、今は三人ですけど……」
「そうか、なら、こいつも入れてやれ」
そう言って、クロエ先生がぽんと肩を叩いたのは、自分の前にいた、ややぽっちゃり体型の男子生徒だった。
「へぇ……入試上位四人が一つのグループになるとか、面白れぇな」
ジョーイの口元がわずかに持ち上がる。
(あれ……私たち、上位四人? そうなんだ……)
確か、名前はクロード・バルラックだったはず。
「えっとぉ、よろしくです~」
(なんだろう、ちょっと力が抜けるような口調……)
『あははは、なんかノームみたいやな』
『ですね、雰囲気といい、よく似ていますね』
『そうなの?』
ぽやっとした喋り方が、確かにどこか精霊のノームを思わせる。
『喋り方も似てますけど、それ以上に、実は私たちの誰よりも頭が切れるところが、特にね』
『えっ、そうなの?』
『せや。この男、わざと無能に見せかけてるんや』
『へぇ~……』
わざと、ということは――。
気づかないふりをしておくのが、正解なのかもしれない。
『てか、あれやな』
『なんです?』
『ミアンはうちに、ラミナはアクアに近い感じあるし、ジョーイはイフリート。で、クロードがノームに似てる。なんか、ええバランスになっとる気ぃせぇへん?』
『あぁ、たしかに。雰囲気も立ち位置も、しっくりきますね』
『案外、この4人、うまくいくかもしれへんで』
『ですね』
二人のやり取りを聞きながら、私は「そうなのかな?」と、まだピンと来ない気持ちでそのまま頷いた。
「よっし、全員組めたな。来週から始まるサバイバル学習は、そのグループで行動してもらう。忘れんなよ。それじゃ、席戻れ~」
クロエ先生の声で、生徒たちがぞろぞろと席に戻っていく。
「次は教科書配るぞー。受け取ったやつから解散だ。寮行って荷物整理したり、必要なもん買ったりして過ごしとけ。週明けは朝九時までにこの教室な! ――ラミナ、来い」
「あっ、はい!」
呼ばれて前へ出ると、クロエ先生から分厚い本が十冊ほど、どさっと手渡された。
(お、重っ……!)
腕にずっしりとくる重さに、思わず声が出そうになる。
「あ、ラミナさん。一緒に寮へ帰りませんこと?」
ミアンが笑顔で声をかけてくれた。
「あっ、うん。じゃあ廊下で待ってるね」
私がそう返すと、ミアンはにこっと微笑んで頷いた。
しばらくして、彼女も教科書の束を抱えて出てくる。
「入試の成績順に渡してたのかな?」
「みたいですわね。それと……ジョーイくん、窓から帰っちゃいましたわ」
「飛んで?」
「えぇ」
やっぱり飛べるんだ……と、改めて納得する。
二人で並んで寮へ向かっていると、ミアンがふとこちらを見た。
「ラミナさん」
「うん?」
「このあと予定がなければ、お買い物にご一緒しませんこと?」
「ん、いいけど――あ、私に“さん”付けしなくていいよ」
「そう? では私にも“さん”付けはなしでよろしくてよ」
「それと……できたら、喋り方も普通にしてくれると嬉しいかも」
申し訳ないとは思ったけど、やっぱりあの話し方はどこか距離を感じてしまう。
「あら? この喋り方、苦手でした?」
「うん、苦手というより、なんか……ちょっと接しにくくて」
「ふふっ、安心しました。私も、あの喋り方はあんまり好きじゃないんですよね~。パーティーの時とか、そうしないと怒られちゃうから」
「そうなんだ?」
「えぇ。お姉さま――プリムも、学内では普通の口調ですし」
ああ、そう言われてみれば、プリムがあんな喋り方をしていた記憶は確かにない。
「プリムさんって、ちょっとクールな印象あったけど……」
「そうですね。滅多に動揺したりしませんし、感情の起伏も少ないタイプですから」
「へぇ……って、私、寮の場所知らないんだった!」
思い出して、慌てて足を止める。
「あら? プリントに書かれてますよ?」
「あれ? そうだったっけ……」
確認したいけど、両手が教科書でふさがっていて、どうにもできない。
「ラミナの部屋なら、私の部屋の隣ですよ」
「えっ、ほんとに?」
「はい。最上階の一番奥の部屋があなたの部屋です」
「そうなんだ……」
「そうなんですよ」
お互いに笑い合いながら、私たちは並んで寮へと向かった。
少し驚きつつも、グループが自然に出来上がっていくのを、私は少し嬉しい気持ちで見つめていた。
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