第251話 帰路の護衛 ウリッシュへ
夕方——精霊たちの声で目が覚めた。
『ラミナ、起きて!』
『武道会が終わったよ~』
『そろそろ行く時間だぞ』
「ん……」
身体を起こすと、窓の外はオレンジ色に染まっていた。もうこんな時間か。
「何時?」
「3時半くらいだよ」
クゥが答える。
「そっか……」
顔を洗い、身支度を整える。マントを羽織り、鞄を確認する。ポーション、食料、必要なものは全て入っている。
「じゃあ、行こうか」
『うん』
ルナにまたがり、王城へ向かう。
夕暮れの帝都は、まだ武道会の余韻に包まれていた。通りには観客たちが溢れ、酒場からは笑い声が聞こえてくる。華やいだ空気が街全体を包んでいる。
王城に着くと、すでに馬車の準備が整っていた。
「お待ちしておりました、ラミナ殿」
ゼクトとクロウが頭を下げる。
「国王陛下は馬車の中でお待ちです」
「はい」
私は馬車に近づく。
「ラミナ殿、待っていたぞ」
馬車の中から、メレス国王の声が聞こえる。
「帰りも世話になる」
「はい、王都ノルトハイムまでお送りします」
「頼んだぞ」
馬車の周りには、騎士団長のゼクトと、宮廷魔導士のクロウ、メレス王国の数名の騎士たちが並んでいる。
行きと変わらないメンバーだった。皆、完全武装で警戒している。
「それでは、出発いたします」
ゼクトの声が響く。
馬車がゆっくりと動き出す。
私もルナで馬車に並走する形で進む。
---
帝都の門を出ると、景色が一変した。
広大な平原が広がり、夕日が地平線を赤く染めている。
風が心地よい。
「いい天気だね」
『だな、このまま何事もなく着けばいいが』
グレンが警戒している。
『周囲に怪しい気配はないよ~』
まん丸が報告してくれる。
「そっか」
馬車は街道を進む。
騎士たちは馬車の周囲を固め、警戒している。緊張した表情だ。
『ラミナ、あの騎士たち、結構疲れてんで』
ミントが心配そうに言う。
「国際武道会の警備とかで忙しかったんじゃない?」
『だろうな、もう少し休ませてやりたいところだが』
グレンが呟く。
『国王の護衛ですからね、ずっと気を張り詰めたままなんでしょうね』
アクアの言葉を聞いて、私もできればこの手の依頼は受けたくはないと、改めて思った。気楽な冒険の方がよっぽどいい。
---
2時間ほど進むと、日が完全に沈んだ。
月明かりが街道を照らしている。
「大丈夫そうだね」
『今のところは問題なさそうやねぇ』
「そっか」
順調に進んでいる。このままいけば——
『待って~』
まん丸ののんびりした声が届く。
「うん?」
『盗賊やね』
『ボク行ってくる~』
フゥはそう言うと、あっという間に姿を消した。
『あいつはずっと暇を持て余してたからな』
『せやなぁ』
『何も起きないねって、ずっと言ってましたからね』
フゥらしいと思いながら精霊たちの会話を聞いていた。往路と同じように、精霊たちが先回りして処理してくれている。
それから2時間ほど進むと、遠くに町の明かりが見えてきた。
「ウリッシュだ」
騎士団長のゼクトが言う。
教皇国唯一の町、ウリッシュ。
ここで一泊して、明日メレス王国領へ入る。
「無事に着いたな」
メレス国王の声が聞こえる。
「はい」
私は答える。
『お疲れ様、ラミナ』
『よく頑張ったね~』
町の門が近づいてくる。
長い一日が、ようやく終わろうとしていた。
---
ウリッシュの町は、巡礼者が多く夜でも賑やかだった。
宿屋、酒場、商店——明かりが灯り、人々の声が聞こえる。往路で見た光景とあまり変わらない。
「この宿に泊まります」
クロウが案内する。
立派な宿屋だ。3階建てで、看板には「旅人の宿 月光亭」と書かれている。
行きとは違う宿を使うようだ。何か理由があるのだろうか?
「ラミナ殿の部屋も用意してあります」
「ありがとうございます」
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部屋に案内されると、私は荷物を置いてベッドに倒れ込んだ。
「疲れた……」
『お疲れ様』
『ご飯食べる?』
「うん、食べる」
私は鞄からマジックコンテナを出し、セレスの言う新作を取り出した。
ふわふわのパンに、香ばしく焼かれた魚——美味しい。疲れが癒えていく。
食事を終えて、ベッドに横になった。
『おやすみ~』
「おやすみ、みんな」
柔らかいベッドに身を沈め、目を閉じる。
明日はメレスとの国境を越える。
また長い一日になりそうだ——
そんな考えが頭をよぎったが、すぐに意識は闇の中へと沈んでいった。
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