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神様と呼ばれた精霊医 ~その癒しは奇跡か、祝福か~ 【原作完結済】  作者: 川原 源明
第12章 サバイバル学習 ラマンサ大森林編

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第208話 腱鞘炎治療

 さて、次はクララの手だ。


「アクア、軽度ならアクアヒールで治るんだよね?」


『えぇ、炎症を収めるように意識してくださいね』


「了解」


 一呼吸しつつ、クララの左手首に手を添えて炎症を抑える事を強く意識する。手首の熱を感じながら、冷たい水が炎を鎮めるイメージを頭に描く。


「蒼き雫よ、痛みを洗い流し、心に安らぎを──癒しの水、アクアヒール」


 添えてる手が淡い青色に光った。水の精霊の力が、クララの手首に染み込んでいくのを感じる。


「どうかな?」


 クララは恐る恐る手首を上下左右に動かしている。その動きは先ほどよりもずっと滑らかだ。


「イタクナイ!」


 クララの複眼が喜びで輝いた。どうやら問題なく回復したようだ。


「よかった、あっでも、また同じ作業繰り返すと再発するからね?ちゃんと手首を休ませることも大事だよ?」


「ワカッタ」


 クララが素直に頷く。


 ふと思ったことがある。水系のヒールで出来るなら、ヒーリングレインでまとめてやればいいのでは?範囲治療の方が効率的だ。


「ねぇ、アクア、ヒーリングレインでもいいんだよね?」


『えぇ、問題ありませんよ』


 ならば、炎症を抑えるようにイメージする。キラベルの時のように長時間ではなく短時間で問題ないから魔素の量は十分の一位でいいかな?


「大気に住まう水の精霊よ、大地を潤す雨よ、この地に癒しの恵みを降り注げ。疲れし魂を包み込み、痛みを和らげる優しき滴となれ。ヒーリングレイン!」


 木々にさえぎられ空の状況がわからないが、ポツリポツリと優しい雨が降り出した。雨粒は普通の雨と違い、ほんのりと青く光っている。アラクネーたちが驚きの声を上げながら、雨に濡れた手首を不思議そうに眺めている。


 これで軽症者は回復するだろうと思った。


「クララ、指が動かないって言っていた友人のところに案内してくれない?」


「ウン!」


 クララが元気よく返事をして、先導を始めた。


 クララが案内してくれたのは、シルクワームたちがいる小屋の近くにある大きな建物だった。木と糸で編まれた壁が、朝日に照らされて美しい模様を描いている。


「タタルハココデ、フカシタバカリノ コタチノ キョウイクガカリヲヤッテルノ」


 クララの後に続き、扉を開けて中に入ると、独特の匂いが鼻をついた。糸と、何か甘いような匂いが混じっている。大きなアラクネーが1人と小さなアラクネー達がいっぱいいた。それはとてもいっぱい……。百近く居るような気がする。小さな体が所狭しと動き回っている。


「うわぁ……多いね……」


 思わず圧倒される。


「デモネ、オトナニナレルノハホンノヒトニギリナノ」


 クララの声が急に沈んだ。


「ぇ?そうなの?」


「ビョウキニナッタリ、オトモダチニタベラレタリスルノ」


「お友達に食べられる?」


 意味が分からなかった。衝撃的な言葉に頭が追いつかない。


『アラクネーの幼子は本能のみで生きるからな、少しでも腹が減れば同じアラクネーでも食べちまうんだよ』


 グレンの説明に背筋が寒くなる。共食い……?


「だから自分でミルルを育ててるの?」


「ウン」


 クララの母性愛の深さを改めて実感する。それがアラクネーの世界なのだろうか?クララ以外にも子を抱えて活動しているアラクネーが何人かいるのを見ている。彼女たちは例外的な存在なのだ。


『基本多くのアラクネーは子にあまり関心をもたんからなぁ』


『ですね、実際外の世界では、卵から孵化したら自力で生き延びなければならない世界ですからね、親がそばにいる事なんて本当にまれなんですよ』


『それにね!親がそばにいたら親に食べられる事もあるんだ!』


 なんという過酷な世界なんだろうか……。親すら敵なんて……。自然界の厳しさを目の当たりにした気分だ。


『タタルは、魔素の量が他のアラクネー達より一回り多いですね』


 アクアが観察している。


『だな、コカトリスの面倒見役にはいいんじゃないか?』


『せやなぁ、魔素も多いし、ヒナの面倒を見るのに向いてるやろ』


 それって、子アラクネー達がコカトリスのヒナの餌になったりしないんだろうか?心配になってくる。


「ヒナに食べられたりしないの?」


『しないだろ、ヒナの間は魔素分けてもらうくらいだからな』


『どちらかというとね!アラクネー達がヒナを食べる可能性のほうがあるよ!』


「それはそれでだめじゃん!」


 とりあえずヒナの親候補にタタルが居るってことくらいかな?後で詳しく相談しよう。


「タタル!」


 クララが大きな声で呼びかける。


「クララ?コンナジカンニドウシタノ?」


 タタルが振り返る。体長は他のアラクネーより一回り大きく、威厳がある。


「ラミナガ、テヲナオシテクレルッテ!」


「エェ?ナオセルノ?」


 タタルの複眼が驚きで見開かれる。


「ワタシハ ナオシテモラッタ!」


 クララは左手首をぐるぐると色々な方向に動かして、タタルに見せていた。その動きは実に滑らかだ。


「イタクナイノ?」


「ゼンゼン!」


「ヘェ……」


 タタルが私の方を向いた。その視線には期待と不安が入り混じっている。


「ナオセルノ?」


「うん、今よりはだいぶ楽にはなると思うよ?」


「イタクナイ?」


 不安そうな声だった。


「どうだろう?一応痛みが感じないようにはするけど……」


 ダッドマッシュルームを使ってささっと終わらせるつもりだから、痛みは感じないと思う。麻酔代わりになるはずだ。


「ソウ、オネガイシテイイ?」


「うん、しばらくここから離れる感じになるけど大丈夫かな?」


「ワタシガミテルカラダイジョウブ」


 クララが胸を張って答える。


 とりあえずタタルがフリーになるとして、どこでやるべきかな?衛生面も考慮しないと。


「どこか空いている場所あるかな?」


「コノジカンナラ、モウスグドコモツカウカラナイカナ」


「そっか、ならば外でささっとやっちゃおうか。まん丸、アラクネーが座れる椅子と台をお願い」


 私の言葉に応じて、タタルが居た小屋のすぐそばのところに、地面が盛り上がり始めた。石の椅子と台、そしてささやかな屋根付きテントが瞬く間に作られた。屋根は雨や日差しを遮る程度の簡素なものだが、十分だ。


「そこに座ってもらって台に手を置いてくれる?」


「スゴイネ、イストダイヤネマデ……」


 タタルが感嘆の声を漏らす。


「精霊さんが助けてくれてるからね」


 タタルが慎重に椅子に座り、右手を台の上に置いた。八本の脚を器用に折りたたんで、安定した姿勢を取る。


 改めてタタルの右手を見ると、親指の付け根付近が不自然に膨らんでいる。触れなくても、そこだけ熱を持っているのが分かる。長年の糸紡ぎの代償だ。


「ん~と、アクア、まん丸、ミントサポートお願い」


『分かりました』


『は~い』


『ええで~』


 アクア、まん丸、ミントが私から魔素を受け取り姿を現す。三体の精霊が実体化すると、周囲の空気が変わった。


 鞄からミント用の木製人形を慎重に取り出す。同時にまん丸用のミスリル粒子を小瓶から出した。キラキラと銀色に輝く粒子が、朝日を反射している。


 ミントは人形に入り、関節がカタカタと音を立てながらウッドゴーレムとして動き始めた。まん丸はミスリル粒子を纏い、銀色に輝くミスリルゴーレムになった。


「タタル、私はアクア、そちらのウッドゴーレムはミント、ミスリルゴーレムはまん丸です。これからあなたの手の治療のサポートをします。よろしくおねがいしますね」


 アクアが優しく語りかける。


「セイレイナノ?」


 タタルの声に畏敬の念が込められている。


「えぇ、私たちはラミナと契約した精霊です」


「ハジメテミタ」


「私達は精霊使いでもないとはっきりと姿をみれませんからね、上位、中位、下位の子たちはそこら中にいるんですよ」


「ソウナンダ」


 アクアがタタルと穏やかに会話をし始めてから、タタルの肩の力が少し抜けてきているような気がする。緊張が和らいでいく。


 その間にまん丸、ミントと一緒に、道具を準備していく。清潔な布、メス、ヒールポーション、そしてダッドマッシュルーム。


「こんなものかな?」


『だな、フゥ、俺らは余計なものがこの空間に入らないようにするのが仕事だからな』


 グレンが指示を出す。


『分かった!』


 フゥが答えるとテントの周りにかすかな風が吹き始めた。見えない風の壁が、埃や虫を遠ざけているのが分かる。


「それじゃあ、手順を説明するね」


「ウン」


 タタルが真剣な表情で頷く。


「肥厚した腱鞘の一部を切開して、ポーションで切除した腱鞘部分を正常な状態で回復する。という流れなんだけど、痛みを感じないようにするために、少量のダッドマッシュルームを食べてもらうことになるんだけど、いいかな?」


「ウン、ラミナヲシンジル」


 即答だった。理解してくれたのかな?それとも、理解するのをやめて私が何とかしてくれると思ってる?どちらにせよ、信頼してくれているのは確かだ。


「あっ、うん、ありがとう」


「じゃあミント、お願い」


 ミントにダッドマッシュルームを渡す。紫色のキノコが、ウッドゴーレムの手の中で不気味に光っている。


 ミントが慣れた手つきで適量と思われる大きさに切り分けると、タタルに差し出した。


「コレヲタベレバイイ?」


「うん」


 私が答えると、何のためらいもなくタタルはダッドマッシュルームを口にした。苦いのか、少し顔をしかめたが、しっかりと飲み込んでいく。


「ゆっくり眠くなると思うけど、それは普通の事だから」


「ウン」


 タタルの返事が少しゆっくりになった。


 しばらく待っていると、タタルの瞼が徐々に重くなってきた。複眼の輝きが薄れていく。


「そろそろやな」


「だね~」


 タタルの目が完全に閉じて、規則正しい寝息を立て始めた。八本の脚も力が抜けて、だらりと垂れ下がっている。


「大丈夫かな?」


「えぇ、意識はなくなっています」


 アクアが確認してくれる。


 タルが完全に眠りについた瞬間、私は深く息を吐いた。

 よし、それじゃあ始めよう。患者を救う時間だ。


読んでくれてありがとうございます!


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